第63話 公開の場での糾弾
商業祭二日目の午後、会場中央の特設舞台で、審査員による「新進商会・発明品コンテスト」の表彰式が行われることになっていた。ニコラスたちの保冷魔道具とティーポットも、事前審査を通過し、最終候補に選ばれていた。
「まさか、最終候補に残るなんてな……」
「当然の結果よ! 私たちの作品、本当に素晴らしいんだから」
シャルロットが胸を張る。舞台の袖では、他の候補者たちも緊張した面持ちで出番を待っていた。
その中に、見慣れた姿があった。グラント商会のブースからも、同じく最終候補として、あの保冷魔道具の模倣品が選ばれていたのだ。
「あいつら、こんなところまで……」
フェリックスが忌々しげに呟いた。壇上に上がったハインツは、涼しい顔で審査員に向かって商品説明を始めていた。
「弊社の技術力を結集した、この画期的な保冷魔道具。市場に類を見ない性能で、多くのお客様からご好評をいただいております」
淀みない口上に、審査員たちも感心したように頷いている。ニコラスは拳を握りしめた。
「ふざけるな……」
「落ち着け、ニコラス。ここで冷静さを失ったら終わりだ」
フェリックスが小声で制する。だが、次の瞬間、事態は思わぬ方向へと動いた。
「――失礼します!」
会場の後方から、凛とした声が響いた。振り返ると、そこにいたのは商業監査官のドナルドだった。
「僭越ながら、この場をお借りして、一つ重要な情報を公表させていただきたい」
会場中の視線がドナルドに集まる。
「先ほど、審査員席にてご紹介のあった、グラント商会様の保冷魔道具。実はこちら、王都魔道具ギルド所属のニコラス様が開発された設計図を不正に流用したものであるとの証拠が、正式に確認されました」
会場が一気にざわめいた。
「な、なんだと……!」
「ハインツ殿、いかがですかな。この証拠、ご覧いただけますかな」
ドナルドが取り出した書類には、以前ニコラスたちが提出した連絡先メモをはじめ、様々な証拠が整理されていた。ハインツの顔から、初めて余裕の笑みが消えた。
「な、何かの間違いでは……」
「間違いではございません。既に商業ギルド本部にて正式な調査を終え、証拠は確定しております。本日この場で公表することは、上層部より許可を得ております」
冷静に、しかし容赦なくドナルドは続けた。
「グラント商会は、レイモンド家の使用人を利用して設計図を不正に取得し、あたかも独自開発であるかのように偽って発表しておりました。加えて、正当な開発者であるニコラス様への妨害行為も、複数確認されております」
会場中から、驚きと非難の声が上がった。ハインツは顔面蒼白になり、後ずさる。
「こ、これは何かの陰謀です……!」
「陰謀ではございません。証拠は既に揃っております。グラント商会には、後日正式な処分が下されることになるでしょう」
その場に居合わせた審査員たちが、厳しい表情で顔を見合わせた。ハインツはそれ以上何も言えず、逃げるようにその場を後にした。
会場がざわめきの余韻に包まれる中、司会者が改めて舞台に立った。
「え、えー、それでは、気を取り直しまして、審査結果の発表に移らせていただきます」
緊張の面持ちで、ニコラスたちは舞台の袖で結果を待った。
「最優秀賞は――『保冷魔道具、及び香り保持機能付きティーポット』、ニコラス様、そしてチームの皆様です!」
歓声が会場中に響き渡った。
「や、やった……!」
「やったな、ニコラス!」
フェリックスが興奮気味に肩を叩いてくる。シャルロットもソフィアも、涙ぐみながら喜びを分かち合った。
「エミリーのおかげでもあるんだ。あの証拠がなかったら、こんな結果にはならなかった」
「そんな、私はただ、正しいと思うことをしただけです……!」
表彰式の後、会場の隅で祝杯代わりの果実水を手にした一同は、それぞれの想いを語り合っていた。
「にしても、まさかドナルドさんがあのタイミングで現れるとはな」
フェリックスが感心したように言う。
「バルトロさんが、事前に調整してくれてたみたいだ。証拠が固まり次第、一番効果的な場面で発表するようにって」
「なるほどな。演出まで計算されてたわけか」
「私、あの瞬間、心臓が飛び出るかと思ったわ」
シャルロットが胸に手を当てながら苦笑する。
「ハインツの顔、見た? あんなに顔色変わるものなのね」
「まあ、自業自得だろ」
そう言いつつも、フェリックスの表情にはどこか複雑な色が滲んでいた。
「これで、グラント商会は、ちゃんと相応の処分を受けるんですよね……?」
ソフィアが心配そうに尋ねる。
「ああ、バルトロさんの話じゃ、正式な処罰が下されるらしい。営業停止もありうるって話だ」
「そう、ですか……。なんだか、複雑な気持ちです」
「ソフィアは優しいな。でも、今回ばかりは、しっかり報いを受けるべきだと思うよ」
ニコラスの言葉に、ソフィアも小さく頷いた。
長い戦いの末、ようやく訪れた、確かな勝利の瞬間だった。
第64話へ続く




