第58話 妨害の気配
新作ティーポットの試作が進み始めた頃、最初の異変が起きた。
「あれ、材料の魔石が足りない……」
朝、実習室に材料を取りに来たソフィアが、困惑した声を上げた。
「注文したはずなんだけどな。おかしいな」
ニコラスが確認すると、確かに発注書には必要な数量が記されている。だが、実際に届いた箱の中身は、明らかに数が足りていなかった。
「業者さんに問い合わせてみるか」
放課後、四人で商業ギルドを訪ね、担当の業者に確認を取ってもらった。すると、思わぬ答えが返ってきた。
「申し訳ございません、こちら側の在庫管理のミスで……。実は、注文が入る直前に、大口の別注文が入りまして、在庫を優先的にそちらに回してしまったようで」
「大口の別注文? どこの誰からですか?」
「それが……グラント商会様からでして」
その名前に、四人は思わず顔を見合わせた。
「グラント商会が、俺たちと同じ魔石を、しかも同じタイミングで大量注文……偶然にしては出来すぎてないか?」
フェリックスが険しい表情で言う。
「わざと、俺たちの材料調達を妨害しようとしてる、ってこと?」
「証拠はないけどな。ただ、あのハインツって男の言葉を思い出すと、十分あり得る話だ」
『簡単には諦めない』――あの穏やかな笑みの裏に潜んでいた不気味な余韻が、今になって重くのしかかってくる。
「バルトロさんに相談しよう。こんな露骨な妨害、放っておけない」
急いでバルトロさんのもとを訪ねると、話を聞いた彼は深いため息をついた。
「なるほど、材料の買い占めですか……。実に姑息な手ですな」
「対抗策、何かありますか?」
「幸い、私の方でも別の仕入れ先に心当たりがございます。多少割高にはなりますが、商業祭までには間に合わせましょう」
「助かります」
「ただ、これで終わりとは思わない方がよろしいでしょう。相手は、そういう小さな嫌がらせを積み重ねてくるタイプです。皆様も、十分に注意なさってください」
バルトロさんの忠告に、四人は改めて気を引き締めた。
翌日、代替の魔石が無事に届き、作業は再び動き出した。だが、それから数日の間にも、小さなトラブルが立て続けに起きた。
「あれ、この設計図、昨日と描き方が変わってる気がする……」
「工房の予約、なぜか今日はダブルブッキングになってるって言われたぞ」
「制作用の作業机、一つだけ壊れてる……」
明確な証拠こそないものの、どれもが不自然なタイミングで発生していた。フェリックスが苛立たしげに机を叩く。
「これ、絶対グラント商会だろ。でも、証拠がないから抗議もできないっていう、この歯痒さ……」
「証拠がないなら、証拠を残す努力をすればいいのよ」
シャルロットが冷静に言った。
「作業机には見張りをつける。設計図は必ず複製を取って、原本は厳重に保管する。工房の予約は、複数の証人を立てて確認を取る。地道だけど、これで少しは防げるはずよ」
「シャルロット、お前、意外と頭が回るな」
「意外とって何よ、失礼ね!」
そんなやり取りをしながらも、四人は改めて協力体制を固めていった。
「大丈夫、負けないさ。せっかくソフィアが考えてくれた新作、絶対に商業祭で発表する」
ニコラスの言葉に、皆が力強く頷いた。妨害の影は確かに忍び寄っていたが、それに立ち向かう決意もまた、着実に固まりつつあった。
第59話へ続く




