第51話 ガレスとの対話
ガレスに接触する機会は、意外にもすぐに訪れた。放課後、剣術訓練場に足を運ぶと、ちょうど一人で素振りをしているガレスの姿があった。
「ガレス」
「……ニコラスか。珍しいな、お前がここに来るなんて」
汗を拭いながら、ガレスがこちらを振り返る。武芸大会の頃と比べると、その表情には以前ほどの棘がなくなっていた。
「少し、話したいことがあるんだ。今、いいか」
「ああ、構わない」
ニコラスは単刀直入に、エミリーから聞いた話を伝えた。設計図の流出、専属執事の関与。話を聞くにつれ、ガレスの表情がみるみる険しくなっていく。
「……知らなかった」
絞り出すような声だった。
「本当に、知らなかったんだ。俺は、お前との商談は断られたと聞いて、それで終わりだと思ってた」
「執事の独断だった可能性が高い、って話だ」
「クソ……ジョセフの奴、勝手なことを……!」
ガレスが握った拳を、訓練場の壁に叩きつけた。乾いた音が響く。
「信じてもらえるかわからないが、俺は、汚い手を使ってまで勝ちたいとは思ってない。武芸大会の時に、それは思い知ったはずだ」
「ああ、信じるよ。今のお前を見てれば、わかる」
ニコラスの言葉に、ガレスは少し驚いたような顔をした。
「……お前、変わったな」
「お前もな」
二人の間に、以前にはなかった奇妙な空気が流れた。敵でも、完全な味方でもない。だが、少なくとも今この瞬間、対立する理由はなかった。
「執事のことは、俺の方でしっかり調べる。父上にも報告して、然るべき処分を求める」
「頼めるか?」
「当然だ。レイモンド家の名を汚す真似を、黙って見過ごすわけにはいかない」
そう言い切ったガレスの目には、以前武芸大会で見せていたのとは違う、確かな決意が宿っていた。
「それと、エミリーには……」
「わかってる。母親の立場を盾に取られて、逆らえなかったんだろう。彼女に非はない。むしろ、うちの家の人間が彼女を追い詰めたんだ」
「そう言ってもらえると、助かる」
「あと一つ、聞きたいことがある」
ガレスがふと真剣な顔でこちらを見た。
「お前の魔道具、本当にすごい発明だと思う。商才があるフェリックスと組んでいるとはいえ、あれを考えついたのはお前なんだろう?」
「まあ、そうだな」
「なら、正々堂々と、うちの家とも取引する気はないか? もちろん、今回みたいな汚いやり方じゃなく、正式な契約でだ」
思いがけない提案に、ニコラスは目を丸くした。
「レイモンド家と?」
「ああ。父上を説得するのは俺がやる。今回の不祥事の詫びも兼ねて、有利な条件を提示させよう」
「……考えておくよ。でも、悪くない話だと思う」
「良かった」
ガレスが少しだけ、初めて見るような柔らかい笑みを浮かべた。
「じゃあ、また連絡する」
「ああ、また」
訓練場を後にするガレスの背中を見送りながら、ニコラスは複雑な気持ちで息を吐いた。敵対関係だと思っていた相手との間に、思いがけない歩み寄りが生まれた瞬間だった。
寮への帰り道、待ち構えていたフェリックスたちに事の顛末を伝えると、シャルロットが呆れたような顔をした。
「まさか、あのガレスと和解するとはね。世の中、何が起こるかわからないものね」
「まあ、悪い話じゃないだろ。むしろ、これで一件落着っぽくないか?」
フェリックスの言葉に、ソフィアが小さく首を傾げた。
「本当に、これで終わりでしょうか……。執事の方の処分、まだこれからですし」
その懸念は、決して的外れなものではなかった。
数日後、思いもよらない形で、事態は新たな局面を迎えることになる。
第52話へ続く




