第49話 手がかり
翌朝、四人は手分けして聞き込みを始めることにした。ニコラスとソフィアは魔道具学の先生のもとへ、フェリックスとシャルロットは用務員のもとへ向かう。
「クレア先生、少しお時間よろしいですか」
「あら、ニコラスさんとソフィアさん。何かしら」
「あの実習の日、教室に部外者が出入りしていなかったか、覚えていらっしゃいますか?」
クレア先生は少し考え込んでから、記録簿を取り出した。
「そういえば……あの日、隣のクラスの子が資料を借りに来ていたわね。えっと……」
先生が指でなぞりながら記録を確認する。
「ああ、思い出したわ。三年B組の、たしかエミリーさんという生徒よ。魔道具学の教科書を忘れたとかで、少しの間だけ教室に居たわ」
「エミリー……B組の……」
聞き覚えのない名前だった。ニコラスはB組の生徒とほとんど交流がない。
「その子について、何か知っていることはありますか?」
「うーん、大人しい印象の子だったと思うけれど……あ、そういえば」
先生が何かを思い出したように声を上げた。
「その子、レイモンド家に仕える侍女の娘だったはずよ。特待生としてうちの学園に通っているの」
その一言に、ニコラスとソフィアは思わず顔を見合わせた。
「レイモンド家の……」
「ただ、だからといって彼女が犯人だと決めつけるのは早計だと思うわ。単なる偶然かもしれない」
「それはそうですね……ありがとうございます、先生」
礼を言って教室を出ると、ちょうど廊下の向こうからフェリックスとシャルロットが早足でやってきた。
「おい、ニコラス! こっちも収穫あったぞ」
「用務員さんが言うには、あの日、廊下の掃除をしている時に、B組の生徒が実習室に入っていくのを見たそうよ。しかも、出てくる時に、何かを胸元に隠すような仕草をしていたって」
「それって……」
三人の情報が繋がった瞬間、ニコラスの背筋に緊張が走った。
「エミリーって子、レイモンド家に仕える侍女の娘らしい」
「はあ!? 完全に繋がってるじゃない!」
シャルロットが声を上げるが、フェリックスが冷静に手を上げて制した。
「待て待て、状況証拠だけで決めつけるのは危険だ。俺たちが今すべきなのは、直接話を聞くことだろ」
「そうだな……。でも、いきなり問い詰めるのも違う気がする」
「うーん、それもそうか。……あ」
フェリックスが何かを思いついたように手を叩いた。
「今度の合同授業、B組と一緒だったよな。自然に接触するチャンスがあるかもしれない」
「合同授業か……。よし、そこで様子を見てみよう」
そう決まったところで、ソフィアがおずおずと口を開いた。
「あの、一つだけ言わせてください」
「なに、ソフィア?」
「もしエミリーさんが本当に関わっていたとしても……彼女自身が望んでやったこととは限らないと思うんです。侍女の娘という立場なら、レイモンド家から命令されて、断れなかった可能性もあるんじゃないでしょうか」
その言葉に、その場の全員が黙り込んだ。ソフィアの優しさが滲む指摘だったが、同時に、事の根深さを物語ってもいた。
「……そうだな。もしそうなら、彼女も被害者かもしれない」
「だからこそ、慎重に動く必要があるわね」
シャルロットが珍しく神妙な顔で頷く。
「よし、明日の合同授業、みんなで気をつけて様子を見よう。決して決めつけず、まずは事実を確かめることから始める」
ニコラスの言葉に、三人がそれぞれ頷いた。
窓の外では、夕暮れの空に一羽の鳥が飛び去っていく。まだ何も解決していないというのに、確実に何かが動き出している気配を、ニコラスは肌で感じていた。
第50話へ続く




