第48話 疑心暗鬼
ギルドからの帰り道、四人は誰もが口数少なく歩いていた。重苦しい空気を破ったのは、意外にもフェリックスだった。
「なあ、一旦冷静に整理しようぜ。設計図を見た人間、リストアップできるか?」
「授業に参加してたクラス全員……ってことになるよな、単純に考えれば」
「それだと絞り込めなさすぎるだろ。もっと条件を絞ろう」
寮の談話室に集まった四人は、羊皮紙を広げて情報を整理し始めた。
「まず、設計図の詳細――魔力回路の細かい部分まで正確に写せる人間、って考えると、少なくとも魔道具学にある程度精通してる必要があるはずだ」
「それなら、うちのクラスで魔道具の成績が良い人は限られてますよね……」
ソフィアが遠慮がちに言う。
「あとは、ギルド関係者。バルトロさんの部下とか、書類を扱った誰か」
「ギルド内部を疑うのは、正直気が引けるけど……可能性としては排除できないよな」
議論を重ねるうちに、一つの名前が自然と挙がった。
「……ルーカス」
シャルロットがぽつりと呟く。
「え、なんでルーカスが?」
「だって、あの子、実習の時に私たちの机に興味津々な様子で寄ってきてたじゃない。設計図、覗き込んでたわよ」
「いやいや、それはただの好奇心だろ。ルーカスはそんな器用な真似できるタイプじゃない」
フェリックスが即座に否定する。ソフィアも頷いた。
「ルーカス様は、魔道具の成績があまり良くないので……正確に構造を再現するのは難しいと思います」
「じゃあ誰よ! 犯人捜ししないと気が済まないのよ、私は!」
シャルロットが苛立ったように声を荒げた。その様子に、ニコラスは思わず口を挟んだ。
「シャルロット、落ち着いて。誰かを疑うだけじゃ何も解決しない」
「わかってるわよ! でも、このままじゃあなたの功績が奪われるかもしれないのよ!? 悔しくないの!?」
予想外の強い言葉に、その場が静まり返った。シャルロットは自分の発言に驚いたように、慌てて視線を逸らす。
「べ、別に、あなたの心配してるわけじゃないんだからね! ただ、こういう理不尽が許せないだけよ!」
「……ありがとう、シャルロット」
「な、なんでお礼言うのよ!」
真っ赤になって黙り込むシャルロットを見て、フェリックスがニヤリと笑った。
「はいはい、ごちそうさま。話を戻すぞ」
「な、なによそれ!」
騒がしいやり取りの中、それまで黙って何かを考え込んでいたソフィアが、ふと口を開いた。
「あの……一つ、気になることがあるんです」
「何?」
「あの実習の日、教室に誰か部外者が入ってきたことはなかったでしょうか。魔道具学の授業って、確か扉に鍵をかけていなかった気がします」
その指摘に、全員がハッとした。
「部外者……そういえば、あの日、廊下を掃除している用務員さんの姿を見た気がする」
「あるいは、他クラスの生徒が資料を借りに来てたかもしれないな」
「調べる価値、ありそうだな」
フェリックスが立ち上がり、羊皮紙にメモを書き加える。
「よし、明日、魔道具学の先生に、あの日の出入りを覚えてないか聞いてみよう。あと、ギルド側の書類の管理体制も、バルトロさんに確認する必要がある」
「わたしも協力します」
「私だって手伝うわよ、当然でしょ」
四人の意見がまとまり、翌日からの調査方針が固まった頃には、窓の外はすっかり夜になっていた。
「今日はもう休もう。また明日、頑張ろうな」
「そうだな。……ニコラス、今回のことは、絶対に俺たちで解決しような」
フェリックスの真剣な言葉に、ニコラスは深く頷いた。
だが、この時の四人はまだ知らない。この調査の先に、思いもよらない人物の影が浮かび上がってくることを。
第49話へ続く




