第46話 特訓と縦ロール
「じゃあ、まずは基本の魔力循環からやってみようか」
放課後の中庭。ニコラスとシャルロットは、人気の少ない噴水のそばで向かい合っていた。約束通り、魔力操作の特訓である。
「わかってるわよ、それくらい。子供扱いしないで」
「いや、基本が一番大事だから……。はい、手を出して」
「な、なんで手を出す必要があるのよ!」
「魔力の流れを直接感じてもらった方が早いんだよ。俺が少し魔力を流すから、それに合わせてみて」
シャルロットは顔を赤くしながらも、恐る恐る手を差し出した。ニコラスがそっと彼女の手を取り、微弱な魔力を流し込む。
「これが、基本の循環……。ゆっくり、途切れさせないように」
「ん……こう?」
「そうそう、いい感じ。あとは自分の魔力だけでこれを再現できるようになれば、暴走はかなり減るはずだ」
「な、なるほど……」
数分間、そうやって手を取り合ったまま練習を続けた。シャルロットの魔力の流れは、最初はぎこちなかったものの、次第に滑らかになっていく。
「あ……できた、かも?」
「うん、すごく良くなった。筋がいいんだと思う、シャルロットは」
「べ、別に褒めなくていいから!」
そう言いつつも、口元は緩んでいる。素直じゃない彼女らしい反応に、ニコラスは思わず笑ってしまった。
「何よ、笑うことないでしょ!」
「いや、ごめん。嬉しそうだなと思って」
「うるさいわね!」
そんな二人のやり取りを、噴水の陰からじっと観察している影が二つあった。
「……なあ、これ完全にいい雰囲気じゃないか?」
「フェリックス様、声が大きいです……」
ソフィアとフェリックスである。たまたま通りかかった際にこの光景を目撃し、なぜか物陰に隠れて見守るという謎の行動に出ていた。
「ソフィアもさ、正直どう思う? あの二人」
「その……お似合いだと思います」
「だよなあ。しかしシャルロットの奴、素直に『教えて』って頼めばいいのに、いちいち『責任取れ』とか言い回しが可愛くないよなあ」
「フェリックス様も、素直じゃない人のこと笑えないと思います」
「は? 俺は関係ないだろ」
「……そうでしょうか」
意味深な視線を向けられ、フェリックスがなぜか黙り込んだ。
一方、練習を続けるニコラスとシャルロットのもとに、不意に声がかかった。
「あら、精が出るわね、二人とも」
振り返ると、担任のクレア先生が微笑ましそうにこちらを見ていた。
「せ、先生! これは違うんです、ただの練習で……!」
「別に何も言ってないでしょう。むしろいいことだと思うわ。ちょうど良かった、シャルロットさん、来月の実技試験、あなたの評価がかなり厳しくなりそうだから、今のうちにしっかり練習しておきなさいね」
「え、厳しいってどれくらいですか……?」
「先学期の魔道具、三回連続で爆発させてるでしょう。学園始まって以来の記録らしいわよ」
「そんな不名誉な記録いらないわよ!」
シャルロットが悲鳴のような声を上げる。クレア先生はくすくす笑いながら去っていった。
「……ねえ、ニコラス」
「なに?」
「その記録、絶対に更新しないから。次の実技試験までしっかり見ててよね」
「うん、任せて」
夕暮れの中庭に、二人の影が長く伸びていた。噴水の水音だけが静かに響く中、ニコラスはふと、こんな穏やかな時間がずっと続けばいいのに、と思った。
だが、その平和な時間に影を落とす出来事が、すぐ後に待ち受けていることを、この時のニコラスはまだ知らなかった。
第47話へ続く




