第45話 縦ロールの言い分
「ニコラス! ちょっと話があるわ!」
朝の食堂で、シャルロットがずかずかと大股で歩み寄ってきた。縦ロールが怒りで震えているように見えるのは気のせいではないだろう。
「お、おはよう、シャルロット。話って?」
「昨日の実習のこと」
「昨日って……ティーポットの?」
「そうよ! なんであなた、ソフィアとだけあんなに息ぴったりなのよ! 私とルーカスの時は爆発したのに!」
食堂中の視線が一斉にこちらに集まる。フェリックスが対面の席で「うわ、面倒なやつに絡まれてる」という顔をしながら、興味津々でパンをかじっていた。
「いや、それはソフィアの魔力操作が上手いからで……」
「じゃあ私の魔力操作が下手だって言いたいの!?」
「そこまでは言ってない!」
「言ったも同然じゃない!」
理不尽な難癖だ、とニコラスは思ったが、口に出したら火に油を注ぐことは前世の経験からも明らかだった。ここは大人しく嵐が過ぎるのを待つに限る。
「あのね、シャルロット様」
助け舟を出したのはソフィアだった。いつもは大人しい彼女が、珍しくはっきりとした声で言う。
「魔力操作は、才能だけじゃなくて訓練の量なんです。わたし、幼い頃から毎日欠かさず魔力制御の練習をしてきましたから」
「な、何よそれ、努力自慢?」
「いいえ、事実を言っているだけです。シャルロット様も、練習すれば絶対に上達すると思います」
真っ直ぐな瞳で見つめられ、シャルロットが一瞬たじろいだ。負けず嫌いの彼女にとって、正論で諭されるのが一番効くらしい。
「べ、別に、あなたに言われなくても分かってるわよ……」
「なら、良かったです」
ソフィアがふわりと微笑む。その微笑みに毒気を抜かれたのか、シャルロットは唇を尖らせながらも矛を収めた。
「ふん。今度の実習では、絶対にあなたたちより上手くやってみせるんだから」
「はい、楽しみにしています」
きっぱりと言い切ったソフィアに、フェリックスが小声で耳打ちしてきた。
「おいニコラス、ソフィアってこんなにキャラ濃かったっけ」
「俺も今日初めて知った……」
食堂での騒動が落ち着いた後、教室に移動する道すがら、フェリックスがニヤニヤしながら言う。
「なあ、あれって完全にシャルロットの嫉妬だよな」
「は? 何言ってんだよ」
「いやいや、鈍いなお前は。あんな分かりやすい態度、他に説明のしようがないだろ」
「考えすぎだって。単に負けず嫌いなだけだろ」
「まあ、お前がそう思うならそれでいいけどさ」
フェリックスは肩をすくめて、それ以上追及してこなかった。だがその表情はどこか「こいつ絶対気づいてないな」と言いたげだった。
午後の授業が終わり、寮への帰り道。廊下の角を曲がったところで、シャルロットとばったり出くわした。
「あ……」
「あ……」
気まずい沈黙が流れる。朝の一件を引きずっているのか、シャルロットは珍しく目を逸らした。
「その、朝は言い過ぎたわ。あなたのせいじゃないのに」
「いや、俺も配慮が足りなかったと思う。ごめん」
「別にあなたが謝ることじゃないでしょ」
そう言いながらも、シャルロットの声にはさっきまでの棘がなかった。しばらく黙って並んで歩いた後、彼女がぽつりと呟く。
「……今度、魔力操作の練習、付き合ってくれない? ソフィアみたいに上手くなりたいから」
「え、俺が教えるの?」
「他に誰がいるのよ! あなたが原因なんだから責任取りなさいよ!」
「なんで俺のせいになるんだ……」
理不尽だと思いつつも、ニコラスは結局頷いていた。断ったところで、この様子ではさらに面倒なことになるのは目に見えていたからだ。
「わかったよ。放課後、練習に付き合う」
「よろしい。感謝しなさいよね」
そう言って颯爽と去っていくシャルロットの背中を見送りながら、ニコラスは小さくため息をついた。
三年目の学園生活は、相変わらず騒がしく、そして少しだけ賑やかさを増していくのだった。
(第46話へ続く)




