第44話 魔道具学、暴走注意
ガレスがあっさり引き下がってから数日。学園はすっかり平常運転に戻っていた。
「なあニコラス、聞いたか? 例の保冷魔道具、王都の氷菓子屋が『魔道具アイス』とか銘打って商品出したらしいぞ」
「え、もう!? 契約したばかりなのに仕事が早すぎない?」
「商売ってのはスピード命なんだよ。乗り遅れたら終わりだからな」
フェリックスが得意げに胸を張る。すっかり自分の手柄のような顔をしているが、実際に交渉を頑張ったのは事実なので強くは言えない。
そんな話をしながら向かった先は、魔道具学の実習室だった。今日は「二人一組で簡易魔道具を製作する」という課題が出ている。ニコラスの相方は、くじ引きの結果ソフィアになった。
「よろしくお願いします、ニコラス君……」
「よろしく、ソフィア。何を作ろうか」
「え、えっと……先生の指定だと、日常で役立つ小さな魔道具、とのことなので……」
大人しいソフィアが小声で提案してくれたのは「自動で温度を一定に保つティーポット」というアイデアだった。地味だが実用的で、ニコラスとしても異論はない。
「いいね、それ。設計は俺の保冷魔道具の技術を応用できそうだ」
「本当ですか? お願いしてもいいですか……?」
作業はスムーズに進んだ。ニコラスが核となる魔法陣を描き、ソフィアが繊細な魔力調整を担当する。彼女は普段目立たないが、魔力操作の精密さでは学年でも指折りだった。
「ソフィア、この魔力の流し方、すごく綺麗だね」
「そ、そんな、大したことじゃ……!」
顔を赤くしてぶんぶん首を振るソフィア。その様子を横目に見ていたシャルロットが、なぜか腕を組んでこちらを睨んでいた。
「ちょっと、ソフィア。あなた楽しそうにしてるじゃない」
「え!? そ、そんなことは……!」
「まあいいわ。私は私で完璧な魔道具を作るから」
シャルロットの相方はルーカスだった。しかし縦ロールのお嬢様と剣術特化の平民という、魔道具学的には最悪の組み合わせである。
「シャルロット様、この魔法陣ってこの向きで合ってます?」
「当然よ、疑うんじゃないわ。……たぶん」
「たぶんって」
嫌な予感がする、とニコラスが思った次の瞬間。
「ぼんっ!!」
派手な音とともに、ルーカスたちの机から白い煙が噴き上がった。
「ゲホッ、ゲホッ……せ、先生! 助けて!」
「またルーカスとシャルロットか……三回目だぞ、これで」
魔道具学の先生が慣れた様子で消火用の水魔法を放つ。教室中に煙の匂いが充満する中、フェリックスが涙を流しながら笑っていた。
「く、くくく……毎回発火させるとか才能だろあれ」
「フェリックス、笑いすぎ。今度は俺たちに火の粉が飛んでくるかもしれないだろ」
案の定、煙で咳き込んだシャルロットが、こちらをキッと睨んでくる。
「ちょっと、ニコラス! 何ニヤニヤしてるのよ!」
「してないしてない! 大丈夫? 怪我ない?」
「べ、別に平気よ。ちょっと驚いただけだから」
そう言いつつも、シャルロットの巻き髪の先端が心なしか焦げているような気がした。ソフィアがこっそり教えてくれる。
「シャルロット様、負けず嫌いだから、失敗を認めたくないだけなんです……」
「なるほどね」
結局その日の実習は、ニコラスとソフィアの「自動温度調整ティーポット」が見事に完成し、先生から高評価をもらった。一方でルーカスとシャルロットの魔道具は、原型を留めないほど黒焦げになっていた。
「次は絶対成功させるから!」
「頑張れ、二人とも……」
放課後、寮への帰り道。ソフィアがぽつりと呟いた。
「今日、楽しかったです。ニコラス君と組めて良かった」
「俺もだよ。ソフィアの魔力操作、本当にすごいと思う」
「そ、そんな……!」
真っ赤になって俯くソフィアの後ろで、なぜか物陰からシャルロットがこちらの様子をじっと見つめていた。気づいたニコラスが振り返ると、慌てて茂みの中に引っ込んでいく。
「今の……シャルロットだよな?」
「さ、さあ? 気のせいじゃないですか」
ソフィアは何も知らないふりをしていたが、口元がわずかに笑っているのをニコラスは見逃さなかった。
学園三年目、日常はまだまだ賑やかに続いていく。
(第45話へ続く)




