第43話「再びの影」
魔道具の商品化が正式に決まってから数日、学園には、ニコラスの新たな功績を祝う空気が広がっていた。だが、その裏側で、静かに新たな動きが生まれ始めていた。
「なあ、ニコラス。ちょっと妙な話を聞いたんだけど」
放課後、フェリックスが少し神妙な面持ちでそう切り出した。
「妙な話?」
「例の魔道具の件、レイモンド家も興味を持ってるらしいんだ」
その名前に、ニコラスは思わず身を固くした。
「レイモンド家が……」
「うちの父さんの情報網によると、レイモンド家は、この機に乗じて、また接触を図ろうとしているみたいなんだ。商売の話にかこつけて、って形でな」
その説明に、エドワードも険しい表情で頷いた。
「なるほどな。今度は、商談という名目で近づいてくるつもりか」
「僕、どうすればいいんだろう」
ニコラスが正直にそう漏らすと、ルーカスが力強く肩を叩いた。
「変わらないだろ、答えは。おかしいと思ったら、はっきり断ればいいだけだ」
「その通りだ。ただし、今回は魔道具ギルドとの正式な契約が絡んでいる分、慎重な対応が必要になるだろうな」
エドワードがそう補足すると、シャルロットも真剣な表情で口を開いた。
「私の方でも、少し情報を集めてみるわ。今回は、商売絡みだから、うちの家の伝手も使えると思うの」
「ありがとう、シャルロット」
その日の夕方、ニコラスは念のため、担当教師とバルトロにも、レイモンド家の動きについて相談することにした。
「ふむ、レイモンド家がな……」
バルトロは顎に手を当てながら、考え込むような表情を浮かべた。
「正直に言えば、商売の世界では、こうした横槍は珍しくない。だが、ギルドとしては、既にお前との正式な契約を進めている。今更、余所からの介入を許すつもりはない」
その力強い言葉に、ニコラスは少しほっとした表情を見せた。
「ありがとうございます」
「なに、優れた技術者を守るのも、ギルドの役目の一つだ。何か動きがあれば、すぐに知らせてくれ」
数日後、案の定、ガレスが再びニコラスの前に姿を現した。
「久しぶりだな、ローウェル」
「ガレス先輩」
「今日は、以前のような話ではない。純粋に、商談として来た。父上が、お前の魔道具の技術に、大変興味を持っていてな」
ガレスはそう言うと、丁寧な口調で用件を切り出した。
「レイモンド家として、お前の発明への出資を検討している。ギルドとの契約とは別に、独自の販路を提供できるかもしれない」
その申し出に、ニコラスは冷静に応じた。
「お話はありがたいのですが、既に魔道具ギルドと正式な契約を進めています。それ以外の形での協力は、今のところ考えていません」
はっきりとそう告げると、ガレスは僅かに眉を寄せた。
「……相変わらず、はっきりしているな、お前は」
「すみません。でも、これが僕の答えです」
「まあいい。今回は、素直に引き下がろう。父上には、そう報告しておく」
そう言い残すと、ガレスは今度は特に含みのある言葉を残すこともなく、静かにその場を後にした。
その様子を見ていたエドワードが、少し驚いたように呟いた。
「今回は、随分とあっさりしていたな」
「大会での一件があったからかもしれないな。あれ以来、ガレス先輩の態度、少し変わった気がするよ」
ニコラスがそう言うと、エドワードも頷いた。
「因縁も、時間とともに、形を変えていくものなのかもしれないな」
夕暮れの学園を歩きながら、ニコラスは静かに、この一件を振り返っていた。かつては脅威に感じていた存在との関係も、少しずつ、違う形へと変化し始めている――そのことに、ニコラスは確かな成長の実感を覚えていた。
学園三年目、物語は新たな局面へと、静かに歩みを進めていた。
その夜、この件を報告された仲間たちは、それぞれに安堵の表情を浮かべていた。
「よかったな、あっさり片付いて」
ルーカスがほっとしたようにそう言うと、フェリックスも大きく頷いた。
「うちの父さんの情報網も、これからは頼りにしていいってことだな」
「本当に助かったよ、フェリックス」
ニコラスがそう礼を言うと、フェリックスは得意げに胸を張った。
「これくらい、朝飯前さ」
シャルロットも扇を軽く振りながら微笑んだ。
「今回は、私の出番はなかったみたいだけど、また何かあったら、いつでも頼ってね」
「うん、ありがとう」
ソフィアも、控えめながら温かい笑みを浮かべた。
「大きな問題にならなくて、本当によかったです」
「みんなが支えてくれるおかげだよ」
食卓を囲む仲間たちの顔を見渡しながら、ニコラスは改めて、この絆の強さに感謝の気持ちを抱いていた。
(第44話へ続く)




