第41話「魔道具ギルドからの使者」
学園長への報告から数日後、ニコラスは職員室に呼び出された。
「ローウェル、王都の魔道具ギルドから、正式に返事が来た」
学園長がそう切り出すと、ニコラスは緊張しながら耳を傾けた。
「お前の作った保冷の魔道具について、ギルドの技術顧問が、直接話を聞きたいそうだ。今度の休日、学園まで訪ねてくるとのことだ」
「直接、ですか」
「ああ。かなり興味を持っているようだぞ」
その知らせに、ニコラスは驚きと同時に、少しの緊張を覚えていた。
放課後、その報告を聞いた仲間たちは、それぞれに興奮した様子を見せた。
「魔道具ギルドの人が、直接学園まで来るのか! すごいじゃないか!」
ルーカスが目を輝かせながらそう言うと、フェリックスも身を乗り出した。
「これは、本格的に商品化の話が進むかもしれないな」
「そんな大げさな話じゃないと思うけど……」
苦笑しながらそう答えるニコラスに、エドワードが冷静に付け加えた。
「いや、フェリックスの言う通りかもしれん。魔道具ギルドが直接動くというのは、それなりの本気度の表れだ」
休日当日、学園の応接室には、ニコラスと学園長、そして担当教師が待機していた。やがて現れたのは、初老の紳士然とした男性だった。
「初めまして、魔道具ギルドの技術顧問を務めております、バルトロと申します」
「ニコラス・ローウェルです。よろしくお願いします」
丁寧に挨拶を交わした後、バルトロは早速、ニコラスの作った保冷の魔道具を手に取り、じっくりと観察し始めた。
「……ふむ、これは実に興味深い構造だ。魔力循環の仕組みを、こんな形で応用するとはな」
「ありがとうございます」
「率直に聞きたいのだが、この発想は、どこから得たものかね」
その問いに、ニコラスは一瞬言葉を詰まらせた。前世の記憶が由来だとは、さすがに説明できない。
「えっと……色々な魔道具の仕組みを見ているうちに、思いついた、という感じです」
「ほう、独学でここまで辿り着くとは、なかなかの才能だな」
バルトロは感心したようにそう言うと、真剣な表情で本題を切り出した。
「単刀直入に言おう。この技術、ギルドとして正式に採用し、商品化を進めたいと考えている。もちろん、発明者であるお前にも、正当な対価を支払う形でだ」
その申し出に、ニコラスは驚きを隠せなかった。
「本当に、いいんですか? 僕、まだ学生なんですけど」
「それは関係ない。優れた技術は、年齢に関係なく評価されるべきだ。もちろん、学業に支障が出ない範囲での協力を前提とするがな」
学園長もその話に頷きながら、補足するように口を開いた。
「ローウェル、これはお前にとって、またとない機会だと思う。無理にとは言わないが、前向きに検討してみてはどうだ」
しばし考え込んだ後、ニコラスは静かに頷いた。
「はい、ぜひお願いします」
その言葉に、バルトロは満足げに笑みを浮かべた。
「よし、では詳細については、追って書面で連絡させてもらう。今後とも、よろしく頼むぞ」
商談を終えたニコラスが応接室を出ると、外で待っていた仲間たちが、一斉に駆け寄ってきた。
「どうだった!?」
ルーカスが興奮気味に尋ねると、ニコラスは少し照れくさそうに、事の顛末を報告した。
「マジかよ、商品化決定なんて、すごいじゃないか!」
フェリックスが興奮のあまり、ニコラスの肩を何度も叩いた。
「ローウェル発明の魔道具、王都中に広まる日も近いかもしれないわね」
シャルロットがそう言うと、ソフィアも嬉しそうに拍手を送った。
「本当に、おめでとうございます」
エドワードも静かに、しかし確かな祝福の言葉をかけてくれた。
「これは、お前にとって、大きな一歩になるだろうな」
「うん、ありがとう、みんな」
夕暮れの学園を歩きながら、ニコラスは静かに、これから始まる新たな展開に思いを馳せていた。前世の何気ない記憶が、この世界で新たな価値を生み出す――そのことへの喜びと、確かな責任感が、胸の内で静かに交錯していた。
その夜、寮の食堂では、改めて今日の出来事を祝う、ちょっとした集まりが開かれていた。
「これで、ニコラスは発明家としても名を馳せることになるわけだ」
ルーカスがしみじみとそう言うと、フェリックスも大きく頷いた。
「規格外な上に、発明の才まであるとか、ずるいだろ」
「そんなつもりじゃないんだけどな……」
苦笑するニコラスに、シャルロットが優雅に微笑んだ。
「でも、そういうところも含めて、あなたらしいと思うわ」
「私も、これからの展開が楽しみです」
ソフィアがそう言うと、エドワードも静かに口を開いた。
「お前がこの世界に、また新しい風を吹き込んでいくのを、これからも近くで見ていたいものだな」
その言葉に、ニコラスは少し照れくさそうに頭をかいた。
「みんなが応援してくれるなら、頑張れそうな気がするよ」
食卓を囲む温かい笑顔に見送られながら、ニコラスは改めて、この仲間たちと歩んできた日々の尊さを、静かに噛みしめていた。
(第42話へ続く)




