第40話「魔道具開発」
魔道具学の授業が始まって数週間、ニコラスはすっかりこの新しい分野に夢中になっていた。
「今日は、簡単な自作魔道具の制作に挑戦してもらう」
担当教師のそう言葉に、教室がにわかにざわめいた。
「自分で作るんですか?」
生徒の一人がそう尋ねると、教師は頷いた。
「そうだ。基礎的な魔石回路の組み方さえ理解していれば、日用品程度の魔道具なら十分作れる。何を作るかは、各自の自由だ」
その言葉に、ニコラスの中で、ある一つのアイデアが閃いた。
(これ、もしかしたら、あれが作れるんじゃないか……)
前世の記憶にある、ある便利な道具の仕組みを思い出しながら、ニコラスは早速、設計図を描き始めた。
放課後、寮の自室で作業を続けるニコラスの元に、フェリックスが顔を出した。
「何を作ってるんだ?」
「まだ内緒。完成したら見せるよ」
「気になるなあ。ヒントくらいくれよ」
「うーん、じゃあ一つだけ。生活が、ちょっと便利になるものかな」
思わせぶりな返答に、フェリックスは興味津々な様子で首を傾げた。
数日後、ニコラスの作業は、ようやく完成の目処が立った。魔石を組み込んだ小さな箱型の道具――それは、前世で言うところの「簡易的な保冷庫」を模したものだった。
「これ、中に食べ物を入れておくと、冷たい状態を保てるようにしたんだ」
授業でその成果を発表すると、教室にはどよめきが広がった。
「そんな道具、聞いたこともないぞ」
「一体、どういう仕組みなんだ?」
担当教師も、興味深そうにニコラスの作った魔道具を手に取り、じっくりと観察した。
「……これは、驚いたな。魔力の循環を利用して、内部の温度を一定に保つ仕組みか。実用性も高そうだ」
「これなら、食料の保存にも使えそうですね」
ニコラスがそう説明すると、教師は感嘆の声を漏らした。
「お前の発想力には、本当に驚かされるな。これは、もしかすると、実用化して広めるだけの価値があるかもしれん」
その言葉に、教室にいた生徒たちも、口々に感心の声を上げた。
「マジかよ、ニコラス。また新しいことやらかしたのか」
放課後、その話を聞いたルーカスが、呆れ半分感心半分といった様子でそう言った。
「規格外にも程があるだろ、それ」
フェリックスも興奮気味に、実際に完成した魔道具を手に取って観察した。
「これ、商品化できたら、絶対売れると思うぞ! 僕の実家の伝手も使えるかもしれない」
商人らしい発想で目を輝かせるフェリックスに、ニコラスは苦笑いを浮かべた。
「まあ、そこまで大げさな話じゃないと思うけど……」
「いや、これは本当にすごい発明だと思うわ」
シャルロットも真剣な表情でそう評価すると、ソフィアも大きく頷いた。
「食料の保存が楽になれば、色んな人の暮らしが助かりますね」
その日の夕食の席、エドワードもその話を聞き、興味深そうに尋ねた。
「その保冷庫とやら、僕にも見せてくれないか」
「うん、いいよ」
実物を見たエドワードは、しばらく無言でその構造を観察した後、静かに口を開いた。
「……これは、想像以上だな。もし本当に実用化できれば、多くの人々の生活を変えるかもしれない」
「そんな大げさな」
「いや、大げさではない。こういう技術こそ、真に価値のあるものだ」
エドワードの真剣な言葉に、ニコラスは少し照れくさそうに頭をかいた。前世の何気ない知識が、この世界で思わぬ形で花開こうとしている――その事実に、ニコラス自身、まだ実感が追いついていなかった。
夕暮れの空の下、新しい可能性の芽が、静かに、しかし確かに育ち始めていた。
数日後、担当教師から思わぬ提案が届いた。
「ローウェル、お前の作った魔道具、学園長にも見てもらいたいと思うのだが、構わないか」
「学園長にですか?」
「ああ。もしかすると、王都の魔道具ギルドに紹介してもらえるかもしれん。これほどの発想は、埋もれさせておくには惜しい」
その申し出に、ニコラスは驚きながらも、素直に頷いた。
「はい、ぜひお願いします」
放課後、その報告を聞いた仲間たちは、それぞれに興奮した様子を見せた。
「魔道具ギルドって、あの有名な組織だよな? すごいじゃないか!」
ルーカスが目を輝かせながらそう言うと、フェリックスも興奮気味に頷いた。
「これはもう、将来有望な発明家の誕生ってやつだな」
「そんな大それたものじゃないと思うけど……」
謙遜するニコラスに、シャルロットが扇を軽く振りながら微笑んだ。
「その謙虚さも含めて、あなたらしいと思うわ」
食卓を囲む仲間たちの温かい笑顔に見送られながら、ニコラスは静かに、この新しい可能性の広がりを噛みしめていた。
(第41話へ続く)




