第35話「決勝の舞台」
決勝戦当日、演習場は開場前から長蛇の列ができるほどの盛況ぶりだった。
「すごい人数だな……」
ルーカスが客席の入りを見て、感嘆の声を漏らした。
「両部門とも、注目のカードですもの」
シャルロットがそう言うと、フェリックスも頷いた。
「剣術部門は、エドワード様対、五年生のガレス先輩、だったよな」
その名前に、ニコラスは思わず身を固くした。
「ガレス、先輩が……」
エドワードとガレスが決勝で対戦するとは、予想していなかった組み合わせだった。合宿での一件以来、水面下で続いていたレイモンド家との因縁が、思わぬ形でこの舞台に繋がっていた。
「因縁の対決、ってやつだな」
ルーカスがそう呟くと、フェリックスも神妙な顔で頷いた。
まず行われたのは、剣術部門の決勝戦だった。壇上に上がったエドワードとガレスは、互いに一礼を交わした後、静かに剣を構えた。
「まさか、決勝で当たるとはな」
ガレスが薄く笑いながらそう言うと、エドワードは冷静に応じた。
「因縁があろうとなかろうと、僕がやることは変わらない。ただ、目の前の勝負に全力を尽くすだけだ」
その言葉に、ガレスは僅かに目を細めた。
「随分と、まっすぐになったものだな、お前も」
開始の合図とともに、二人は激しく剣を打ち合わせた。ガレスの重く鋭い攻撃を、エドワードは冷静な読みでいなし続ける。合宿以降、着実に積み重ねてきた鍛錬の成果が、随所に表れていた。
「くっ……」
一進一退の攻防が続く中、エドワードは徐々に、ガレスの攻撃パターンを見切り始めていた。
「そこだ……!」
僅かな隙を突いた渾身の一撃が、ガレスの剣を弾き飛ばした。
「そ、それまで! 勝者、エドワード選手!」
審判の声に、会場が一斉に沸き立った。
「よっしゃあ!」
観客席のルーカスが飛び上がって喜ぶ中、ガレスは静かに剣を拾い上げ、エドワードに向き直った。
「……見事だ。完敗だな」
「ありがとう。いい勝負だった」
短いやり取りの中に、これまでの因縁を超えた、互いへの敬意が滲んでいた。
続いて行われたのが、魔法部門の決勝戦だった。ニコラスの対戦相手は、これまでの試合で圧倒的な安定感を見せてきた、四年生の実力者だった。
「エドワードの勝利、しっかりと見届けたよ。今度は僕の番だね」
ニコラスがそう気合いを入れ直すと、対戦相手も静かに構えを取った。
「規格外との一戦、光栄に思う。だが、僕も簡単には譲れない」
開始の合図とともに、両者は同時に魔法を展開した。相手の堅実な魔法運びに対し、ニコラスは持ち前の多彩なスキルを駆使し、幾重にも攻め手を変えながら、着実にポイントを重ねていった。
「これで――」
終盤、ニコラスの繰り出した精密な連続攻撃が、相手の防御を完全に崩しきった。
「そ、それまで! 勝者、ニコラス選手! これにて、剣術部門・魔法部門、両部門の優勝者が決定しました!」
会場全体が、割れんばかりの歓声に包まれた。壇上に並んだニコラスとエドワードは、互いに視線を交わし、自然と笑みをこぼした。
「二人とも、優勝おめでとう!」
観客席から駆け寄ってきたルーカスたちに囲まれ、二人は達成感に満ちた表情を浮かべていた。
「まさか、二人揃って優勝するなんてね」
シャルロットが感慨深そうにそう言うと、ソフィアも嬉しそうに拍手を送った。
閉会式では、王家から遣わされた来賓が、優勝者たちに記念の品を授与した。壇上に立つニコラスの姿を、多くの観客が、期待と憧憬の入り混じった眼差しで見つめていた。
学園二年目、大きな一つの節目となったこの武芸大会。だが、その裏側で、レイモンド家を巡る因縁は、まだ完全に終わったわけではなかった。
夕暮れに染まる演習場を後にしながら、ニコラスは静かに、これからの学園生活に思いを馳せていた。
その夜、寮の食堂では、優勝を祝う小さな祝宴が開かれていた。
「乾杯! ニコラスとエドワード様の優勝を祝して!」
ルーカスの音頭に合わせ、六人は果実水の入ったグラスを掲げた。
「まさか、こんな盛大に祝ってもらえるとは思わなかったよ」
ニコラスが照れくさそうにそう言うと、フェリックスがすかさず茶々を入れた。
「当然だろ、二冠制覇なんだから」
「僕たちの学年から、両部門の優勝者が出るなんて、誇らしい限りだわ」
シャルロットもそう言って、優雅にグラスを傾けた。
「にしても、ガレス先輩との対決、本当にすごかったですね」
ソフィアがそう振り返ると、エドワードは少し複雑そうな表情を浮かべた。
「……正直、あの時までは、複雑な感情もあった。だが、剣を交えてみて、素直に、いい相手だと思えた」
「因縁も、剣を通せば分かり合えるってことかもな」
ルーカスがしみじみとそう言うと、フェリックスが横から突っ込んだ。
「お前、たまにいいこと言うよな」
「たまには、が余計だっつってんだろ!」
そんな賑やかなやり取りに、食堂には温かな笑い声が絶えなかった。学園二年目の大きな節目を、六人はこうして、心から喜び合いながら過ごしていた。
(第36話へ続く)




