第34話「準決勝」
翌日、大会は準決勝を迎えていた。会場の熱気は、前日にも増して高まっている。
「今日は、剣術部門と魔法部門、それぞれの準決勝が行われる。エドワード様は剣術部門、ローウェルは魔法部門だったな」
フェリックスが確認するようにそう言うと、ルーカスが興奮気味に頷いた。
「両方とも見逃せないな、これは」
シャルロットの魔法部門準々決勝は、惜しくも僅差で敗れていた。それでも、ベスト8という結果に、本人はどこか晴れやかな表情を浮かべていた。
「悔しいけれど、いい経験になったわ」
「シャルロットさん、本当にお疲れ様でした」
ソフィアがそう労うと、シャルロットは扇を軽く振りながら微笑んだ。
「次は、ニコラスとエドワードの応援に専念しましょう」
まず行われたのは、エドワードの剣術部門準決勝だった。対戦相手は、三年生の実力者で、体格を活かした重い一撃を得意とするタイプだった。会場に集まった観客たちも、この一戦の行方を固唾を呑んで見守っている。
「くっ……」
序盤、エドワードは相手の圧力に押され気味だったが、冷静さを失わず、着実に相手の攻撃パターンを見極めていった。
「エドワード様、頑張って!」
観客席からの声援が響く中、エドワードは相手の隙を突いた鋭い一撃を放ち、見事に流れを引き寄せた。
「まだだ……!」
集中力を切らさぬまま、エドワードは最後まで丁寧に剣を振るい続け、僅差ながらも勝利をもぎ取った。
「よし、決勝進出だ!」
ルーカスが自分のことのように喜び、観客席で拳を突き上げた。
試合を終えたエドワードのもとに、ニコラスが駆け寄る。
「見事だったよ、エドワード」
「……ふん、これくらい当然だ」
そう言いつつも、汗だくの顔には、隠しきれない達成感が滲んでいた。
続いて行われたのが、ニコラスの魔法部門準決勝だった。対戦相手は、これまでの試合でも圧倒的な魔力量を誇っていた、五年生の選手だった。これまでの試合を圧倒的な力で勝ち上がってきた実力者であり、観客の間でも優勝候補の一人として名前が挙がっていた。
「規格外同士の対決、というわけか」
相手はそう言って不敵に笑うと、開始の合図と同時に、巨大な魔法陣を展開した。
「これは――」
その規模の魔法に、観客席からもどよめきが起きる。だが、ニコラスは冷静にその軌道を見極め、複数の防御魔法を重ねがけすることで、その一撃を難なく受け流した。
「なっ……」
「その魔力量、確かにすごいと思います。でも――」
そう言うと、ニコラスは自ら攻勢に転じ、相手の魔法の隙間を縫うようにして、精密な連続攻撃を繰り出していった。力任せの一撃とは対照的な、緻密で洗練された攻め方に、相手の表情が次第に焦りへと変わっていく。
「くそっ、こんな……!」
最終的に、ニコラスの正確無比な一撃が相手の防御を崩し、決着がついた。
「そ、それまで! 勝者、ニコラス選手!」
会場全体が、興奮のるつぼと化していた。
「これで、決勝は――」
司会のアナウンスに、観客たちが息を呑む。
「剣術部門、魔法部門、両部門の決勝進出者が確定しました! 明日の決勝戦、どうぞご期待ください!」
その発表に、会場中から歓声が沸き起こった。ニコラスとエドワードは、互いに視線を交わし、小さく笑みを浮かべた。
「明日は、部門は違うが、お互い決勝だな」
「うん。全力で頑張ろう」
二人の間に流れる、確かな信頼と、それでいて譲れない闘志。控室へと戻る道すがら、ニコラスは改めて、この学園生活で得た多くのものの大きさを噛みしめていた。
夕暮れの空の下、明日の決勝戦への期待が、静かに、しかし確実に膨らんでいった。
その夜、寮の食堂に集まった一同は、興奮冷めやらぬ様子で今日の試合を振り返っていた。
「いやあ、二人とも本当にすごかったな! 特にニコラスのあの防御の重ねがけ、どうなってんだよ」
ルーカスが身振り手振りを交えながらそう語ると、フェリックスも大きく頷いた。
「相手の魔法陣、見ただけで震え上がったのに、涼しい顔で受け流してたもんな」
「まあ、練習の成果ってやつだよ」
ニコラスが謙遜すると、シャルロットが扇の陰で微笑んだ。
「その謙虚さ、逆に嫌味に聞こえない不思議な人よね、あなたって」
「褒めてるのか、それ?」
「もちろん、褒めているのよ」
そんな軽いやり取りに、テーブルには温かな笑い声が広がった。
「明日は、いよいよ決勝ね」
ソフィアがそう言うと、ニコラスとエドワードは、どちらからともなく視線を交わした。
「お互い、部門は違うけど……負けないからな」
エドワードがそう言うと、ニコラスも力強く頷いた。
「うん、僕もだよ」
食卓を囲む仲間たちの温かい笑顔に見送られながら、二人はそれぞれ、明日への闘志を静かに燃やしていた。
(第35話へ続く)




