第32話「武芸大会、開幕」
武芸大会当日、学園の大演習場には、王都各所から訪れた見物客も含め、これまでにない規模の人だかりができていた。
「うわ、すごい人の数だな……」
ルーカスが緊張気味に周囲を見回す。壇上には、既に大会運営の教師陣と、来賓として招かれた貴族らしき人物の姿も見えた。
「今日は、王家からの視察もあるらしいわよ」
シャルロットがそう説明すると、フェリックスが驚いたように声を上げた。
「マジか、それは緊張するな」
「あなたは出場しないんだから、そんなに緊張しなくていいでしょう」
シャルロットの容赦ない指摘に、フェリックスは苦笑いを浮かべた。
「気持ちの問題なんだよ、気持ちの」
開会の挨拶が終わると、いよいよ大会が始まった。剣術部門と魔法部門、それぞれ別会場でのトーナメント形式で進行していく。
「まずは剣術部門、一回戦だ」
司会の声に合わせ、選手たちが次々と壇上に上がっていく。ルーカスの出番が回ってくると、彼は大きく深呼吸をして構えを取った。
「相手は誰だ?」
「三年生の選手みたいだな。結構、腕が立つって噂だぞ」
フェリックスの言葉に、ルーカスは僅かに顔を強張らせた。だが、いざ試合が始まると、これまで積み重ねてきた鍛錬の成果を存分に発揮し、粘り強い立ち回りで相手を追い詰めていった。
「いいぞ、ルーカス!」
観客席からの声援に応えるように、ルーカスは最後の一撃を叩き込み、見事一回戦を突破した。
「よっしゃあ!」
ガッツポーズを決めるルーカスに、周囲から大きな拍手が送られた。
「やるじゃない、ルーカス」
シャルロットが素直にそう称賛すると、ルーカスは照れくさそうに頭をかいた。
一方、魔法部門の会場では、シャルロットの出番が近づいていた。
「緊張しますね」
隣に座るソフィアがそう囁くと、シャルロットは扇で口元を隠しながら、僅かに震える声で答えた。
「ええ、正直に言うと、少し」
「シャルロットさんなら、大丈夫ですよ」
ソフィアの励ましに背中を押されるように、シャルロットは壇上へと歩を進めた。対戦相手は、他学年の実力者だったが、シャルロットは冷静な魔力操作で、着実にポイントを重ねていった。
「見事な精度ね」
審判役の教師がそう評すると、シャルロットは僅かに頬を紅潮させながら、優雅に一礼した。
「まさか、私が一回戦を突破できるなんて」
試合後、シャルロットが少し興奮気味にそう言うと、ソフィアも嬉しそうに拍手を送った。
「おめでとうございます、シャルロットさん!」
そして、いよいよニコラスとエドワードの出番が近づいてきた。
「僕も、次の対戦だな」
エドワードが剣術部門の会場へと向かいながら、静かにそう呟く。その表情には、これまでにない集中力が滲んでいた。
「頑張ってね、エドワード」
ニコラスがそう声をかけると、エドワードは小さく頷いた。
「当然だ。負けるつもりはない」
一方のニコラスは、魔法部門の会場で、静かに出番を待っていた。周囲からは、既に「規格外の一年生」の噂を聞きつけた観客たちの、興味津々の視線が集まっている。
「緊張しないのか、お前は」
隣で控えていた別の出場者が、そう尋ねてきた。
「うーん、少しはしてるかもしれません」
ニコラスがそう答えると、相手は苦笑した。
「その余裕そうな態度が、逆に緊張感を煽るんだよな」
「そんなつもりはないんですけど」
そんな軽いやり取りをしているうちに、ニコラスの出番を告げるアナウンスが響いた。
「それでは、次の対戦――ニコラス・ローウェル選手の入場です!」
その名が呼ばれた瞬間、会場に、これまでで一番大きなどよめきが広がった。武芸大会という大舞台で、規格外の実力がどのように発揮されるのか――多くの視線が、壇上に上がるニコラスの姿に注がれていた。
対戦相手は、四年生の実力者、ダリオという生徒だった。彼は既に何度もこの大会で上位入賞を果たしてきた、実績のある選手だという。
「規格外の一年生と戦えるとはな。光栄に思うといい」
ダリオが不敵に笑いながらそう言うと、ニコラスは軽く一礼した。
「よろしくお願いします」
「随分と、礼儀正しいじゃないか。だが、油断はしない方がいいぞ」
審判の合図とともに、試合が開始された。ダリオはまず、様子を見るように、小さな火球をいくつか放ってくる。ニコラスはそれを最小限の動きで回避しながら、相手の癖を冷静に見極めていた。
「なるほど、堅実なタイプみたいだ」
そう呟くと、ニコラスは初めて自ら攻勢に転じた。風の刃を織り交ぜた連続攻撃に、ダリオの表情が僅かに引き締まる。
「ほう、やるじゃないか」
「まだまだ、これからですよ」
軽口を交わしながらも、両者の攻防は次第に激しさを増していった。
大会は、まだ始まったばかりだった。
(第33話へ続く)




