第31話「大会に向けて」
武芸大会の開催が告知されてから、学園全体に、これまでとは違う活気が満ちていた。
「よし、俺は毎日自主練するからな!」
放課後の演習場、ルーカスが気合い十分にそう宣言し、素振りを始めた。
「毎日、って言ってたの、去年も聞いた気がするけど」
フェリックスが横から茶々を入れると、ルーカスはむきになって言い返した。
「今年は違う! 大会本番があるからな、モチベーションが全然違うんだよ」
「まあ、それは分かる気がする」
ニコラスもそう頷きながら、自身の剣を軽く握り直した。目標があることで、いつもの鍛錬にも、確かな張り合いが生まれていた。
「ローウェル、少し稽古に付き合ってくれ」
エドワードがそう声をかけてくる。合宿以降、こうして二人で剣を交える機会は、すっかり日常の一部になっていた。
「うん、いいよ」
構えを取った二人の間に、静かな緊張感が走る。合図もなく、ほぼ同時に地を蹴り、剣を交わし合った。
「くっ……」
エドワードの一撃を、ニコラスは半歩引いて受け流す。以前よりも、エドワードの剣筋は明らかに鋭さを増していた。
「随分、腕を上げたね」
「当然だ。この程度で満足するつもりはない」
そう言い切るエドワードの目には、以前にはなかった、まっすぐな向上心が宿っていた。かつては家の名誉のためだけに剣を振っていた彼が、今では純粋に、強くなることそのものに喜びを見出しているようだった。
数合打ち合った後、二人は同時に剣を引いた。周囲では、他の生徒たちも各々の鍛錬に励んでおり、演習場全体が、これまでにない緊張感と活気に満ちていた。
「今日はこれくらいにしておくか」
「うん、ありがとう」
汗を拭いながら、エドワードがふと口を開いた。
「……お前と稽古するようになってから、僕自身、随分変わったと思う」
「そうなの?」
「以前は、ただ勝つことばかり考えていた。だが、今は……強くなること自体が、単純に楽しいと感じる」
その素直な告白に、ニコラスは思わず微笑んだ。
「それ、すごくいいことだと思うよ」
「……お前に言われると、なんだか妙にむず痒いな」
エドワードがそう言って視線を逸らすと、ニコラスは声を上げて笑った。
一方、魔法の鍛錬に励んでいたのは、シャルロットとソフィアだった。
「私も、大会に出てみようかしら」
シャルロットがそうぽつりと呟くと、ソフィアが驚いたように目を丸くした。
「シャルロットさんが? 珍しいですね」
「だって、あなたたちばかりが頑張っているのを見ていると、私も何か挑戦したくなったの」
そう言って微笑むシャルロットの様子に、ソフィアも小さく頷いた。
「じゃあ、私も一緒に練習、頑張ります」
二人の魔法の腕前は、これまでの授業を通じて、着実に磨かれてきていた。派手さこそないものの、堅実で丁寧な魔力操作は、決して侮れないものになっていた。
夕暮れの演習場には、それぞれの鍛錬に励む生徒たちの姿が、あちこちに見られた。フェリックスも珍しく、剣の素振りに真剣に取り組んでいる。
「フェリックス、今日はやけに熱心だな」
ルーカスが感心したようにそう言うと、フェリックスは額の汗を拭いながら答えた。
「大会には出ないけど、応援するからには、多少は理解を深めておきたいと思ってさ」
「意外と律儀なとこあるよな、お前」
「それくらいの根性はあるんだよ、これでも」
そう言って胸を張るフェリックスの姿に、ルーカスは思わず笑った。
大会までの日々は、それぞれの想いを胸に、着実に、そして賑やかに過ぎていった。学園全体を包む熱気の中、ニコラスもまた、これまでにない充実感を胸に、日々の鍛錬に励んでいた。ときには友人たちとふざけ合いながら、ときには真剣な表情で剣を振るいながら――そうした時間の積み重ねが、確実に、それぞれの力へと変わっていった。
窓の外に沈む夕陽が、演習場を茜色に染めていく。武芸大会という新たな挑戦を前に、六人それぞれの想いが、静かに、しかし確かに、一つの方向へと重なり始めていた。
その日の帰り道、ニコラスとエドワードは連れ立って寮への道を歩いていた。
「そういえば、シャルロットが大会に出るって言ってたな」
「意外だったか?」
「うん、少し。でも、なんか嬉しいよね、そういう変化」
「……確かに、そうかもしれないな」
エドワードもそう頷きながら、ふと空を見上げた。
「僕も、お前と出会ってから、色々なことが変わった気がする」
「僕も、同じだよ」
短いやり取りの中に、これまで積み重ねてきた時間の重みが、確かに込められていた。二人はしばらく無言のまま、夕暮れの道を並んで歩いていった。
(第32話へ続く)




