第23話「街への外出」
休みの日、四人は約束通り、王都の街へと繰り出していた。
「いやあ、たまにはこういうのもいいもんだな」
ルーカスが伸びをしながら、開放的な表情でそう言った。学園の外に広がる王都の街並みは、露店や人々の活気に満ちていた。
「エドワードは、街に出るのは久しぶりなんじゃない?」
ニコラスがそう尋ねると、エドワードは僅かに気まずそうな顔をした。
「……正直、こうして平民の街並みを歩くのは、あまり経験がない」
「マジかよ。じゃあ今日は、俺が案内してやるよ!」
ルーカスが張り切ってそう言うと、フェリックスが得意げに割り込んだ。
「僕も、掘り出し物のお店とか結構知ってるからな。商家の息子、伊達じゃないぜ」
「二人とも、張り切りすぎじゃない?」
ニコラスが苦笑しながらそう言うと、エドワードは少し戸惑いながらも、小さく頷いた。
「……頼む」
四人はまず、賑わう市場通りへと足を踏み入れた。串焼きの香ばしい匂いや、色とりどりの果物、様々な露店が立ち並ぶ光景に、エドワードは物珍しそうに視線を巡らせていた。
「これは、何の肉だ」
「多分、鶏肉だと思うぞ。一本もらってみるか?」
「……そうだな、試してみよう」
ルーカスに勧められるまま、エドワードは串焼きを一本購入した。一口かじると、その表情がわずかに緩む。
「……美味いな、これは」
「だろ! 屋台の飯、馬鹿にできないんだよ」
得意げなルーカスの様子に、フェリックスが横から茶々を入れた。
「お前、その屋台知識だけは、本当に無駄に豊富だよな」
「無駄とは失礼な! これも立派な生きる知恵だ!」
そんなやり取りに、通りすがりの人々が微笑ましそうな視線を向けていく。市場を抜けた先には、噴水広場が広がっていた。
「休憩がてら、少し座ろうか」
ニコラスの提案に、四人は噴水近くのベンチに腰を下ろした。
「にしても、エドワードがこんな風に街を楽しんでるの、なんか新鮮だな」
ルーカスがしみじみとそう言うと、エドワードは僅かに気恥ずかしそうに視線を逸らした。
「……別に、楽しんでいるわけでは」
「その割には、さっきから何度も屋台に目移りしてたけどな」
フェリックスの鋭い指摘に、エドワードは押し黙ってしまった。その反応が図星だったことは、誰の目にも明らかだった。
「まあまあ、素直に楽しめばいいと思うよ」
ニコラスがそうフォローすると、エドワードは小さく息を吐いた。
「……お前たちといると、調子が狂う」
「それ、褒め言葉として受け取っていいのか?」
ルーカスが笑いながらそう尋ねると、エドワードは答えの代わりに、僅かに口の端を上げてみせた。
しばらく休憩した後、四人は噴水広場を後にし、街の中心部へと向かった。道すがら、様々な店先を眺めながら、他愛のない会話を交わしていく。
「あ、あれ見て。魔道具専門店だって」
フェリックスが目を輝かせながら、一軒の店を指差した。
「ちょっと寄ってみようか」
店内には、様々な魔道具が所狭しと並べられていた。灯りをともす魔石、簡易な通信用の魔道具、火起こしの補助具など、生活に密着した品々が中心のようだった。
「こういうの見てると、飽きないな」
フェリックスが興味深そうに商品を眺めていると、店の奥から店主らしき初老の男が声をかけてきた。
「おや、学生さんかい。今日は何かお探しで?」
「いえ、ちょっと見て回っているだけです」
「そうかい。ゆっくり見ていってくれ」
店主は気さくにそう言うと、また別の客の対応へと戻っていった。その温かい雰囲気に、四人はしばらく店内を見て回った。
「なんか、こういう普通の街の空気、いいものだな」
エドワードがふとそう呟いた言葉には、いつもの尊大さとは違う、素直な感慨が込められていた。
「うん、僕もそう思う」
ニコラスがそう答えると、フェリックスが小さな魔道具を手に取りながら口を挟んだ。
「こういう庶民的な店、意外とエドワード様の家じゃ縁がなさそうですもんね」
「……否定はしない。屋敷では、こういう店に立ち寄る機会など、まずなかった」
「なら、これからはもっと連れ出してやるよ! 学園にいる間くらい、色々経験しとかないとな」
ルーカスがそう快活に言うと、エドワードは僅かに目を見開いた後、小さく笑みを浮かべた。
「……それも、悪くないかもしれないな」
その素直な一言に、四人の間には、これまでにない穏やかな空気が流れていた。
学園の外で過ごす、こうした何気ない一日。それは、四人にとって、これまでとは違う新しい絆を育む、大切な時間になっていた。
学園への帰り道、ルーカスがふと思い出したように口を開いた。
「なあ、次は女子組も誘って、みんなで出かけないか? シャルロットとソフィアも、たまにはこういうの楽しみたいだろうし」
「それはいいですね」
ニコラスが賛成すると、フェリックスも大きく頷いた。
「そうだな、シャルロットが屋台の食べ物とか食べる姿、ちょっと想像つかないけど」
「絶対上品に食べようとして、逆にこぼしそうよね、あの子」
想像しただけで思わず笑ってしまいそうになる光景に、四人は顔を見合わせて笑った。夕暮れの街を歩く四人の足取りは、行きよりもずっと軽やかだった。
(第24話へ続く)




