第17話「二年目、新学期」
学園二年目の初日、教室に集まった生徒たちの顔ぶれには、去年とは少し違う空気が漂っていた。
「一年前は右も左も分からなかったのにな」
ルーカスが感慨深そうにそう呟く。
「あなた、去年と変わらず寝坊してた気がするけど」
シャルロットの容赦ない指摘に、ルーカスは「うっ」と言葉に詰まった。
「今日から二年目、また色々頑張らないとね」
ニコラスがそう言うと、フェリックスが自信満々な顔で胸を張った。
「よし、今年こそは、まっとうな商売で学年一位を狙うからな!」
「その台詞、去年の今頃も聞いた気がするけど」
ソフィアが控えめながらも的確なツッコミを入れると、教室にはどっと笑いが起きた。
新学期最初の授業は、二年目からのカリキュラムについての説明だった。
「二年目からは、より実戦的な内容が増える。魔物討伐実習の回数も増加し、上級生との合同訓練の機会も設けられる予定だ」
グレイソン先生の説明に、生徒たちの間に緊張と期待の入り混じった空気が広がった。
「討伐実習、去年よりさらに本格的になるってことか」
ルーカスが両手を握りしめ、闘志を燃やしている。
「ルーカス君、張り切るのはいいですけど、無茶はしないでくださいね」
ソフィアが心配そうにそう言うと、ルーカスは自信満々に胸を叩いた。
「大丈夫だって! この一年で、俺だってそれなりに鍛えたんだからな!」
「ニコラスに一本取れるようになったのは、確か偶然だったと思うけど」
フェリックスの容赦のない一言に、ルーカスはがっくりと肩を落とした。
「そこは黙っとけって、いつも言ってるだろ!」
そんな二人のやり取りを眺めながら、シャルロットが小さく肩をすくめた。
「相変わらずね、二人とも」
「一年経っても、変わらないところは変わらないんですね」
ソフィアがくすりと笑いながらそう言うと、ニコラスも同意するように頷いた。
「まあ、それも含めて、うちのクラスらしいってことで」
賑やかなやり取りが続く教室の一角、窓際の席では、エドワードが静かに一人、新しい教科書に目を通していた。以前のように、あからさまに周囲を見下すような雰囲気は、いつの間にか鳴りを潜めていた。その様子に気づいたニコラスが、軽く声をかける。
「エドワードも、二年目だね」
「……当然だろう。何を今更」
素っ気ない返事だったが、以前のような棘は薄れていた。合同演習を経て、二人の間には、以前とは違う、静かな信頼関係が生まれ始めていた。
「今年も、何か協力することがあったら言ってよ」
「……その時は、頼むかもしれん」
短いやり取りの中に、確かな変化が滲んでいた。近くで様子を見ていたルーカスが、こっそりとフェリックスに耳打ちする。
「なあ、あの二人、なんか雰囲気変わってないか?」
「ああ、去年の演習の後からだよな。まさかあのエドワード様が、素直に礼を言う日が来るとは思わなかったよ」
「聞こえてるぞ、お前ら」
エドワードの鋭い一声に、二人は慌てて姿勢を正した。その様子に、教室にはまた小さな笑いが起きた。
放課後、寮の前の掲示板には、新たな告知が張り出されていた。
「二年目最初の大きな行事は、合宿形式の実地訓練――か」
シャルロットがその内容を読み上げると、周囲の生徒たちからどよめきが起きた。
「合宿? 何日間くらい行くんだ?」
ルーカスが興味津々に尋ねると、フェリックスが慌てて掲示を確認する。
「えっと……五日間、学園近郊の演習林に滞在するみたいだ。実技だけじゃなく、野外での生活技術も学ぶ授業らしいぞ」
「五日間も外泊するの、初めてですね……」
ソフィアが少し不安そうにそう呟く。
「大丈夫だよ、みんなで一緒だし」
ニコラスがそう声をかけると、ソフィアは少し安心したように頷いた。
「それにしても、また新しいイベントが始まるわけね」
シャルロットが小さくため息をつきながらも、その表情にはどこか楽しみにしている色も見て取れた。
「去年の合同演習も色々あったし、今年の合宿も、きっと何か起きるんだろうな」
ニコラスがそう呟くと、フェリックスがにやりと笑った。
「まあ、俺でなきゃ見逃しちゃうね、ってやつだな」
「その言い回し、絶対どこかで聞いたことある気がするんだけど」
ルーカスが首を傾げながらそう言うと、フェリックスは澄まし顔でそっぽを向いた。
「気のせいだよ、気のせい」
そんな軽口を叩き合いながら、五人は寮への帰路についた。夕暮れの空は、去年と変わらない、けれど確かに少し違って見える茜色に染まっていた。
「なあ、来年もこうやって、みんなで一緒に歩いてるのかな」
ルーカスがふと、そんなことを口にした。
「当たり前でしょ、何を今更」
シャルロットがそう返すと、ルーカスは照れくさそうに頭をかいた。
「いや、なんか、こういうの、案外いいなって思ってさ」
その素直な一言に、フェリックスもソフィアも、そしてニコラスも、それぞれに小さく笑みを浮かべた。学園二年目の日々は、こうして新たな期待とともに、静かに幕を開けようとしていた。
(第18話へ続く)




