↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したら村人だったのに、なぜか全スキル使えました  作者: コンペイ党


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
153/176

第153話 茂みの中の斥候


「……そこにいるのは、誰ですか」


ニコラスが、静かに声をかけると、茂みの揺れが、ぴたりと止まった。皇帝レオポルトが、はっと息を呑む。


「ヴェルナーの、手の者か……」


「いえ、待ってください。気配が、二つあります」


『探知』が、茂みの奥に、二つの人影を、捉えていた。一つは、気配を消すことに長けた、鋭い気配。そして、もう一つは、なぜか、気配が、ものすごく大きくて、落ち着きがない。


「……この、無駄に賑やかな気配は」


ニコラスは、嫌な予感に、こめかみを押さえた。そして、茂みに向かって、静かに告げた。


「カイさん、出てきてください」


しばらくの沈黙のあと、がさがさ、と音を立てて、茂みから、一人の青年騎士が、這い出てきた。全身に、木の葉を貼りつけ、頭には、なぜか、花飾りまで載せている。


「……バレたか」


「バレないと思ったんですか」


「いや、完璧な擬態だと思ったんだが……」


「花飾りが、浮いてます」


「それは、さっき、そこの花壇から」


「やめてください、皇帝陛下の庭園です」


皇帝レオポルトが、目を丸くして、カイを見つめていた。やがて、小さく、肩を震わせ始める。


「……ふふ」


「へ、陛下?」


「ごめん。こんなに、堂々とした盗み聞きは、初めて見たから」


「いやあ、盗み聞きじゃなくて、護衛です、護衛! ニコラスが心配で、つい!」


「それを、盗み聞きと言うんです」


和やかな空気が流れたのも束の間、ニコラスの『探知』が、もう一つの気配の動きを、捉えた。茂みの奥の、鋭い気配が、音もなく、遠ざかっていく。


「カイさん、もう一人、いました!」


「何だって!?」


カイが、咄嗟に、茂みの奥へ飛び込んだ。だが、そこには、すでに、誰もいなかった。足元に、小さな黒い布切れが、落ちているだけだった。


「ちっ、逃げられたか。手練れだな」


「……宰相の、影だ」


レオポルトが、静かに、呟いた。


「ヴェルナーは、僕の周りに、常に、見張りを置いている。今の会話も、おそらく、筒抜けだ」


「そんな……」


「だが、構わない。僕は、もう、決めたんだ」


少年皇帝の目には、確かな覚悟の光が、宿っていた。ニコラスは、小さく息を吐いた。


「分かりました。ですが、一人では、決められません。使節団の皆さんにも、相談させてください」


その夜、宿舎の一室で、エルンスト大臣、レオン、ミレーナ、カイ、ニコラスの五人が、膝を突き合わせた。


「……つまり、皇帝陛下ご自身が、北の遺跡への同行を、望んでおられると」


エルンスト大臣が、ニコラスの報告を聞き終えて、腕を組んだ。


「はい。陛下は、宰相に操られている、という噂は、事実に近いようです」


「しかし、これは、危険な賭けだ。宰相ヴェルナーは、既に、我々の動きを警戒している」


レオンが、険しい顔で言う。ミレーナも、静かに頷いた。


「北方遺跡には、ガルメア要塞と同じ、古代の力が眠っている可能性が高い。もし、宰相が、それを、手中に収めようとしているなら」


「放っておけば、また、同じ悲劇が繰り返されます」


ニコラスの言葉に、一同が、深く頷いた。しばらくの沈黙のあと、エルンスト大臣が、ゆっくりと、口を開いた。


「ならば、正攻法で、攻めよう」


「正攻法、ですか?」


「停戦協定の条文に、『古代遺跡の、両国共同調査』を、盛り込むのだ。名目は、ガルメア要塞のような悲劇を、二度と繰り返さないため。宰相が、これを拒めば、何かを隠していると、自ら認めることになる」


その言葉に、ミレーナが、目を輝かせた。


「なるほど。公式な枠組みの中で、北方遺跡へ、堂々と、立ち入れるわけですね」


「その通りだ。ただし、ニコラス君。君の役割は、重い。守り手と対話できるのは、君だけだ」


「……分かっています」


「そして、皇帝陛下の同行を、実現させるには」


エルンスト大臣が、にやりと、笑った。


「陛下ご自身に、会議の場で、共同調査への賛成を、表明していただく。宰相も、皇帝の意見を、公の場で、無下にはできまい」


「大臣、さすがです」


「外交とは、そういうものだよ、ニコラス君」


エルンスト大臣の目に、老獪な光が、宿っていた。カイが、感心したように、口笛を吹く。


「かっこいいな、大臣。俺、今、少しだけ、尊敬した」


「少しだけ、とは何だ」


「あ、いや、かなり、です!」


翌朝、再開された会議で、エルンスト大臣は、共同調査の提案を、堂々と、口にした。ヴェルナーの笑みが、ほんのわずかに、強張る。


「古代遺跡の、共同調査、ですか。それは、また、大胆なご提案ですな」


「ガルメア要塞の悲劇を、二度と、繰り返さないために」


「しかし、遺跡の調査には、様々な機密事項が」


「僕は、賛成だ」


静かな声が、ヴェルナーの言葉を、遮った。皇帝レオポルトが、背筋を伸ばして、はっきりと、告げていた。


「古代の遺跡は、人類の遺産だ。一国が独占すべきではない。エルデシア王国との共同調査を、僕は、望む」


会議室が、静まり返った。ヴェルナーが、じっと、皇帝を見つめる。長い、長い沈黙のあと、宰相は、ふっと、微笑んだ。


「……皇帝猊下の、御意志とあらば」


意外なほど、あっさりとした承諾だった。ニコラスは、胸の奥の共鳴が、強く警鐘を鳴らすのを、感じていた。この男は、何かを、企んでいる。


「共同調査の出発は、二日後といたしましょう。護衛は、私どもで、手配いたします」


ヴェルナーの穏やかな笑みの奥に、底知れない影が、揺れていた。


第154話へ続く


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。