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転生したら村人だったのに、なぜか全スキル使えました  作者: コンペイ党


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第152話 玉座の少年


翌朝、使節団は、帝城の会議室に通された。


長い円卓の中央に、若き皇帝レオポルトが、静かに腰を下ろしている。その隣に、宰相ヴェルナーが、控えめな笑みを浮かべて、立っていた。向かい側には、エルンスト大臣と、レオン、ミレーナ、そして、ニコラスが並ぶ。


「改めて、エルデシア王国使節団の皆様を、歓迎いたします」


ヴェルナーの穏やかな声が、会議の幕を開けた。


「本日は、先日のガルメア要塞における不幸な出来事について、両国の認識を、すり合わせたいと存じます」


「不幸な出来事、とおっしゃいますか」


エルンスト大臣が、わずかに眉を上げた。


「我が国の調査隊は、貴国の将軍ゼノンが、国境を越えて魔晶石を集積し、起爆を企てていた証拠を、確保しております」


「ええ、承知しております。ですが、それは、将軍ゼノンの独断であり、帝国の意志ではございません」


「独断、ですか」


「その通りです。むしろ、我が国もまた、被害者であると、申し上げたい」


ヴェルナーは、悲しげな表情を作って、続けた。


「ガルメア要塞は、帝国の重要な軍事拠点でした。それを、貴国の使節の一人が、破壊した。我が国としては、相応の賠償を、お願いせざるを得ません」


会議室の空気が、ぴりりと張り詰めた。レオンが、思わず身を乗り出しかける。


「賠償だと? 先に、国境を侵したのは、そちらだろう!」


「レオン」


エルンスト大臣が、静かに、レオンを制した。そして、落ち着いた声音で、ヴェルナーに向き直る。


「宰相閣下。その要塞は、古代文明の遺跡の上に建てられ、起爆すれば、国境一帯が消え去るほどの危険な状態でした。その危険を取り除いたことを、賠償の対象とされるのは、いささか、論理が飛躍しているのではありませんか」


「危険、という言葉は、立場によって、解釈が異なります」


「では、お尋ねします。あの要塞の地下に眠っていた力を、貴国は、何に使うおつもりだったのですか」


「……それは、機密事項です」


ヴェルナーの笑みが、わずかに、固くなった。エルンスト大臣の目が、鋭く光る。


交渉は、膠着した。お互いに、一歩も譲らない。ニコラスは、黙って二人のやり取りを聞きながら、ふと、皇帝の様子に、目を向けた。


レオポルトは、一言も、発していなかった。ただ、膝の上で、固く手を握りしめている。その視線は、時折、ニコラスの胸元へ、そっと向けられていた。


「……恐れながら」


突然、静かな声が、会議室に響いた。


皇帝レオポルトが、ゆっくりと、口を開いていた。


「その少年と、二人で、話をさせてほしい」


会議室が、一瞬で、静まり返った。


「陛下、それは」


「ヴェルナー。これは、私の望みだ」


珍しく、はっきりとした声だった。ヴェルナーの表情が、一瞬だけ、凍りつく。けれど、すぐに、柔和な笑みを取り戻した。


「……かしこまりました。ただし、護衛の者を、同席させていただきます」


「必要ない。庭園で、少し、話をするだけだ」


「しかし」


「必要ない、と言った」


皇帝の翠色の瞳が、毅然と、宰相を見据える。ヴェルナーは、深く頭を下げた。


「仰せの通りに」


エルンスト大臣が、ニコラスに、視線を送った。行きなさい、という合図だった。レオンが、心配そうに、眉を寄せている。ニコラスは、小さく頷いた。


帝城の庭園は、広大で、よく手入れされていた。色とりどりの花が咲き誇る中を、皇帝レオポルトは、黙って、歩いていく。ニコラスは、少し後ろから、その背中を追った。


やがて、庭園の奥の、小さな東屋に着くと、皇帝は、足を止めた。


「……ここなら、誰にも、聞かれない」


「陛下、あの」


「堅苦しい呼び方は、やめてくれ。ここでは、ただの、同じ年頃の少年同士として、話したい」


レオポルトの声には、年相応の、頼りなさが滲んでいた。ニコラスは、少し戸惑いながらも、頷いた。


「分かりました。……では、レオポルトさん、と」


「それでいい」


少年は、ほっとしたように、微笑んだ。それは、これまでの凛とした姿とは、まるで違う、素朴な笑顔だった。


「君の胸の中に、何か、特別なものがあるだろう。温かくて、小さな光が」


「……気づいたんですか」


「分かるんだ。僕にも、微かだけど、聞こえるから」


レオポルトは、自分の胸に、そっと手を当てた。


「毎晩、夢を見る。北の方から、誰かが、歌っている。悲しくて、優しい、遠い声だ」


ニコラスの胸の奥で、結晶が、ほんのりと、熱を帯びた。


「それは、きっと、北方の遺跡の、守り手の声です」


「やはり、そうか」


皇帝は、静かに、目を閉じた。


「ヴェルナーは、その声を、利用しようとしている。僕には、止められない。僕は、ただの、飾りの皇帝だから」


「そんなこと」


「事実なんだ。誰も、僕の言葉を、聞いてくれない。……でも、君なら、守り手と、話せるんだろう? ガルメアの水晶を、鎮めたように」


レオポルトが、ゆっくりと、ニコラスを見つめた。その瞳は、切実な光を宿している。


「お願いだ、ニコラス。僕を、北の遺跡へ、連れて行ってほしい。あの声を、これ以上、悲しませたくないんだ」


その瞬間、東屋の背後の茂みが、かすかに、揺れた。ニコラスの『探知』が、人の気配を、捉える。


第153話へ続く


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