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転生したら村人だったのに、なぜか全スキル使えました  作者: コンペイ党


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第145話 荒野に咲く光


要塞が、悲鳴のような軋みを上げて、崩れ始めていた。


「走れ! 止まるな!」


レオンの怒声が、狭い階段に反響する。石の天井から、細かな破片がぱらぱらと降り注ぎ、足元の段が、ぐらぐらと揺れた。ニコラスは、胸に小さなランプを抱え、必死に階段を駆け上がる。


「ミレーナ、遅れてないか!?」


「大丈夫です! それより、この男が、重くて……!」


魔法の鎖で拘束されたゼノンは、半ば引きずられるようにして、運ばれている。放心状態で、何かをぶつぶつと呟いていた。


「ぐぬぬ……俺の、野望が……」


「うるさい! 今、それどころじゃないんだ!」


カイが、ゼノンの襟首を掴んだまま、器用に階段を駆け上がっていく。その手には、まだ、折れた箒の柄が握られていた。


「カイさん、その箒、いい加減、手放してください!」


「やだ! これは、今日の功労者だぞ!」


「功労者は、あなたでしょう!」


息を切らしながらの、奇妙な言い合いが、崩れゆく階段に響く。ようやく、地上の倉庫の扉が見えた時、背後で、最後の轟音が響き渡った。


「飛び込め!」


レオンの合図で、四人と一人は、倉庫の外へ、転がり出た。


直後、背後で、大地を揺るがす崩落音が、響き渡る。振り返ると、要塞の中央塔が、静かに傾きながら、地面の中へと、沈み込んでいくところだった。


「……なんとか、間に合ったな」


レオンが、荒い息をつきながら、地面にへたり込む。ニコラスも、膝に手をついて、肩で息をしていた。心臓が、激しく鳴っている。けれど、不思議と、体のどこにも、痛みはなかった。


「あれ……?」


その時、ニコラスは、気づいた。周囲の空気が、いつの間にか、淡い金色の光で、満たされていることに。


崩れ落ちた要塞の跡から、細かな光の粒が、ふわりふわりと、空へ立ち上っていく。それは、まるで、無数の蛍が舞い上がるように、夜明け前の空を、優しく照らしていた。


「綺麗……」


ミレーナが、思わず、呟いた。


光の粒は、風に乗って、荒野全体へと、広がっていく。乾ききった大地に、金色の雫が降り注ぐたび、何かが、静かに変わっていった。


「おい、見ろよ。草が……」


カイの声に、全員が、足元に目を向けた。乾いた土の割れ目から、小さな緑の芽が、いくつも顔を覗かせている。それは、見る間に伸びて、淡い色の花を、次々と咲かせていった。


「……守り手の、力だ」


ニコラスは、そっと、呟いた。胸の奥で、あの静かな声が、微かに、響いた気がした。


『光は、世界へ、還っていく』


荒野が、花で、埋め尽くされていく。数千年もの間、孤独に魔力を貯め続けてきた守り手の力が、最後に、大地へ、命を返していた。


「……こんな結末、誰が、予想できたんだ」


レオンが、呆然と、花畑を見つめた。そこへ、慌ただしい足音が、近づいてきた。


「閣下! 将軍閣下! ご無事ですか!?」


駆けつけてきたのは、帝国軍の兵士たちだった。先頭に立つ、年配の副官らしき男が、地面に縛り上げられたゼノンと、周囲の騎士団員たちを見て、愕然と立ち尽くす。


「これは……一体……」


その前に、レオンが、静かに、立ち上がった。


「ヴァルシア帝国軍の、副官殿とお見受けする。エルデシア王国騎士団、レオンだ。我々は、貴国の将軍が、国境を侵し、禁じられた古代の力を、悪用しようとした件について、調査に参った」


「……!」


副官が、言葉を失った。周囲の兵士たちも、ざわめき始める。


「ご覧の通り、将軍の計画は、既に潰えた。要塞は崩れ、魔晶石の力は、全て、鎮められた。これ以上の戦いは、無益だ」


「貴様ら……!」


兵士の一人が、剣に手をかけた。だが、副官が、片手を上げて、それを制した。


「……やめろ。見ろ、周りを」


副官の視線の先には、一面に咲き誇る、花の海が、広がっていた。夜明けの光が、花びらを、金色に染めている。兵士たちは、その光景に、息を呑んだ。誰一人、剣を抜く者はいなかった。


「……我々の将軍は、一体、何を、していたのだ」


副官が、力なく、呟いた。その肩が、小さく震えている。


「将軍閣下の命令は、絶対でした。しかし、本当に、これが……皇帝陛下の、御意志だったのか……」


その言葉に、地面に座り込んでいたゼノンが、ふっと顔を上げた。


「……ふふ、ふふふ」


「ゼノン?」


「勝ったと思うなよ、エルデシアの犬ども。……皇帝陛下は、まだ、お前たちの知らない、切り札を、お持ちだ」


薄く笑うゼノンの目には、狂気とも、確信ともつかない、不気味な光が宿っていた。


「何だと?」


「すぐに、分かる。……ふふ、ははは」


ゼノンは、それきり、口を閉ざしてしまった。副官が、困惑した表情で、レオンを見る。


「……その件は、後ほど、改めて」


レオンが、静かに告げた。朝日が、昇り始めている。荒野の花々が、ゆっくりと、その光を、受け止めていた。


ニコラスは、掌の中の、小さな結晶を、そっと握りしめた。守り手が、最後に残してくれた、小さな欠片。それは、ほんのりと温かく、まるで、小さな鼓動を、刻んでいるようだった。


第146話へ続く


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