第14話「ルーカスの一大決心」
収穫祭の騒動から数日、A組にはまた新たな話題が持ち上がっていた。
「なあ、聞いてくれよ。俺、今度の剣術授業で、絶対にニコラスに一本取ってやろうと思うんだ」
朝の教室、ルーカスが急に拳を握りしめながらそう宣言した。
「急にどうしたの?」
ニコラスが首を傾げて尋ねると、ルーカスは真剣な顔で答えた。
「実はさ、うちの実家に手紙を送ったんだよ。『学園で規格外の同級生がいる』って自慢げに書いたら、親父から返事が来てさ」
「なんて?」
「『じゃあお前もそいつに一本取れるくらい強くなってから言え』って」
その返信内容に、教室にはどっと笑いが起きた。
「お父さん、辛辣ね」
シャルロットがくすくすと笑いながらそう言う。
「笑い事じゃないんだよ! このままじゃ、実家に帰った時、村中に『あいつは規格外に何もできず終わった男』って噂されるんだ!」
ルーカスは本気で悔しそうに拳を握りしめている。その様子に、フェリックスが茶々を入れた。
「いや、そんな噂、誰もしないだろ。お前の実家、そこまで暇なのか」
「うるさい! とにかく、俺は今日から本気で修行するからな!」
そう宣言したルーカスは、その日から、あらゆる場面でニコラスに勝負を挑むようになった。
「よし、昼休みも訓練だ! つき合ってくれ、ニコラス!」
「え、僕もお昼ごはん食べたいんだけど……」
「食べながらでいい! さあ、構えろ!」
半ば強引に始まった昼休みの模擬戦は、案の定、あっという間にニコラスの圧勝で終わった。
「くそぉ、また負けた……」
「そんなに落ち込まないでよ。それに、僕は前世の記憶があるから、正直かなり反則だと思うし」
「その反則の理由、詳しく聞いてもいいか?」
「秘密」
「秘密ってなんだよ! そういうところがずるいんだって!」
ルーカスが地団駄を踏むように悔しがる姿に、周囲で見ていた生徒たちからも笑いが漏れる。何度負けても懲りずに挑み続けるルーカスの姿は、いつしかA組内でちょっとした名物になりつつあった。
そんなやり取りが繰り返される中、ルーカスの奮闘は日に日にエスカレートしていった。ある日には、寮の廊下で素振りをしすぎて、通りかかったシャルロットの荷物に木剣をぶつけてしまい、盛大に叱られる一幕もあった。
「もう、気をつけてちょうだい! この本、王都の高名な魔導師の著作なのよ!」
「ご、ごめん! 弁償するから!」
「お金の問題じゃないの! 全く……」
そんな騒動を横目に見ながら、ソフィアがくすりと笑った。
「ルーカス君、最近本当に頑張ってますよね」
「まあ、空回りしてる部分もあるけどね」
ニコラスが苦笑しながらそう返すと、フェリックスも肩をすくめた。
「でも、あいつのそういう真っ直ぐなところ、案外嫌いじゃないんだよな」
「フェリックス君も、応援してるんですか?」
ソフィアが尋ねると、フェリックスは少し照れくさそうに頬をかいた。
「まあ、な。ああいう分かりやすい頑張り方って、見てて安心するっていうか……あ、いや、別に僕が不安定だって言いたいわけじゃないぞ」
「誰もそんなこと言ってないよ」
ニコラスが笑いながらそう返すと、フェリックスは慌てて話題を変えようとした。その様子に、シャルロットまでもがくすくすと笑い出す始末だった。
数週間後、剣術の授業で行われた小さな試合形式の稽古で、ルーカスはついに、ニコラスから小さな一撃を取ることに成功した。もっとも、それはニコラスが少し油断していた隙を突いた、偶然に近いものだったが。
「や、やった! やったぞ、俺!」
ルーカスは飛び上がらんばかりに喜び、教室中がその勢いに巻き込まれるように盛り上がった。担当のグレイソン先生でさえ、驚いた様子でその光景を見守っていた。
「まさか、あの猪突猛進ぶりが、こういう形で結実するとはな……」
「先生、今の一言、地味に失礼です」
すかさずフェリックスが茶々を入れると、教室にはまた新たな笑いが起きた。
「よかったね、ルーカス。これで実家にも堂々と手紙が書けるんじゃない?」
ニコラスがそう言うと、ルーカスは満面の笑みで頷いた。
「ああ、絶対書いてやる! 『規格外に一本取った男』ってな!」
「一本だけなのは、ちゃんと書くんだよね?」
フェリックスの容赦のない指摘に、ルーカスは一瞬固まった後、悔しそうに叫んだ。
「そこは黙っとけよ!」
その夜、寮の食堂には、いつも通りの賑やかな笑い声が響いていた。学園一年目の日々は、こうして時に空回りしながらも、確かな温かさを積み重ねながら過ぎていった。
「ところでルーカス、一本取った記念に、今度は僕にも稽古つけてくれないか」
フェリックスがそう茶化すように言うと、ルーカスは目を輝かせた。
「よし来た! お前の剣術指導、俺に任せろ!」
「いや、それ絶対君の実力じゃ僕には無理だと思うよ」
シャルロットの冷静な指摘に、ルーカスはがっくりと肩を落とし、食堂にはまた笑いが広がった。こうして、他愛のないやり取りが、いつまでも続いていくかのように思われた。
(第15話へ続く)




