第13話「フェリックス、儲け話に挑む」
合同演習の余韻も落ち着いた頃、学園には新しい季節――収穫祭の準備期間がやってきた。
「今年の収穫祭、僕たちA組は模擬店を出すことになったんだ」
朝の教室、フェリックスが目を輝かせながらそう切り出した。その顔は、まるで新規事業の企画会議に臨む若手社員のように意気込んでいる。
「模擬店? 何を売るんだ?」
ルーカスが興味深そうに尋ねると、フェリックスは満を持したように紙を取り出した。そこには、びっしりと収支計算らしき数字が書き込まれている。
「僕が考えたのは、この学園オリジナルの『幸運のクッキー』だ! 中にちょっとした占いの紙を仕込んでおいて、売値は原価の三倍! これで模擬店の売上ナンバーワンを狙う!」
「占いの紙って、誰が書くのよ、それ」
シャルロットが呆れたように扇で口元を隠しながら言う。
「もちろん、僕が考える! 大丈夫、商才には自信があるからね」
その自信満々な態度に、教室にはなんとも言えない空気が流れた。
「ニコラス君は、どう思う?」
ソフィアが控えめに尋ねてくると、ニコラスは少し考えてから答えた。
「うーん、原価三倍は強気すぎる気がするけど……占い付きっていうのは面白いアイデアだと思うよ」
「だろ! さすがニコラス、分かってるな!」
フェリックスは我が意を得たりとばかりに、興奮気味に頷いた。
数日後、いよいよ収穫祭当日を迎えた。学園の中庭には、様々な模擬店が立ち並び、生徒たちの活気ある声が響き渡っている。A組の模擬店には、フェリックス考案の「幸運のクッキー」が並べられていた。
「さあさあ、いらっしゃい! 未来を占う、幸運のクッキーはいかが!」
フェリックスが張り切って呼び込みをする一方、肝心の占い紙の中身は、前日の夜、彼が徹夜で考えたものだった。
「今日のあなたは、大きな幸運に恵まれるでしょう」
「思わぬ人物からの助けが期待できます」
そんな当たり障りのない文言が並ぶ中、一枚だけ、明らかに紛れ込んではいけないものが混ざっていた。
「今日のあなたは、大好きな人に告白されるかもしれません」
それを引いてしまったのは、なんとエドワードだった。
「な――なんだこれは!」
真っ赤な顔で紙を握りしめるエドワードに、周囲の生徒たちが一斉にざわつく。
「エドワード様、告白されるって、一体誰に……」
「知るか! こんな紙、当てにならん戯言だ!」
エドワードが声を荒げる横で、フェリックスは真っ青になっていた。
「ちょ、待って、それ僕が寝ぼけて書いたやつだ! 混ぜちゃいけない試作品なのに!」
「お前が原因かフェリックス!」
ルーカスが吹き出しながらフェリックスの背中を叩く。
「うう、せっかくの売上ナンバーワン戦略が……」
肩を落とすフェリックスだったが、皮肉なことに、この騒動のおかげで「幸運のクッキー」の噂は瞬く間に学園中に広まり、模擬店には長蛇の列ができることになった。
「お前の商才、意外なところで発揮されたな」
ニコラスが苦笑しながらそう言うと、フェリックスは複雑そうな顔をしながらも、次第に満更でもなさそうな表情を浮かべた。
「まあ、結果オーライってやつか……いや、待て、こんなの結果オーライじゃない! エドワード様に恨まれたらどうするんだよ!」
「大丈夫、多分エドワードもそこまで根に持たないと思うよ」
ニコラスがそう慰めると、少し離れた場所から、まだ耳を赤くしたままのエドワードが、こちらをじろりと睨んでいた。
「ローウェル、お前も分かっているだろうな。誰にも言うなよ、今日のことは」
「言わないよ、もちろん」
そう答えつつも、ニコラスの口元には、隠しきれない笑みが浮かんでいた。
こうして、収穫祭の一日は、思わぬ形で大盛況のうちに幕を閉じた。売上金額はA組全模擬店の中で見事一位を記録したものの、フェリックスの評判は「商才のある男」から「予測不可能な男」へと、少しだけ書き換えられることになったのだった。
(第14話へ続く)




