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転生したら村人だったのに、なぜか全スキル使えました  作者: コンペイ党


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第138話 名前のない力


夜明け前のハルベルクの守備隊詰所は、慌ただしい空気に包まれていた。河原から押収された荷馬車が三台、中庭に並べられ、兵士たちが、木箱の数を数えている。


「魔晶石、合計四十二個。全て無事に押収しました」


守備隊長の報告を聞きながら、ニコラスは、詰所の椅子に深く腰掛けていた。体は妙に軽いのに、頭の芯が、ぼんやりと熱を持っている。


「顔色が悪いぞ、ニコラス。少し横になれ」


「いえ、大丈夫です。ただ、なんだか、体の中がざわざわして」


「それは、大丈夫とは言わん」


レオンが、有無を言わさず、ニコラスの肩を押して、長椅子に寝かせた。


「ほら、ニコラス! これでも食べて、元気出せよ!」


脇から、カイが、やたらと大きな焼き菓子を差し出してくる。


「どこから持ってきたんですか、それ」


「守備隊長の机の上にあった!」


「それは、守備隊長さんのおやつでは……」


「大丈夫だ、後で謝っておく!」


通りかかった守備隊長が、無言で菓子を回収していった。カイの肩が、がっくりと落ちる。ニコラスは、思わず吹き出してしまった。


しばらくして、ミレーナが、数枚の紙を手に、ニコラスの傍らに腰を下ろした。


「少し、お話を伺っても、いいですか。昨夜の力について、確認しておきたいのです」


「はい。俺も、自分で何が起きたのか、まだ整理できていなくて」


「まず、魔晶石に触れずに、離れた場所から魔力を操作されていましたね。あのような現象は、既存のどのスキルにも、当てはまりません」


ミレーナの声は、いつになく慎重だった。


「ニコラスさん、もしよければ、『解析』で、ご自身を調べてみていただけませんか」


「自分自身を、ですか?」


「ええ。あなたの『解析』なら、何か、手がかりが得られるかもしれません」


ニコラスは、頷いて目を閉じた。意識を、自分の内側へ向ける。これまで、何度か試みて、見えなかった領域。けれど、今は、胸の奥で脈打つ鼓動が、はっきりと感じ取れる。


七つのスキルの輪郭が、順番に浮かび上がる。そして、その奥に、もう一つ、淡く輝く光があった。


「……見えます。名前は、まだ、はっきりしないんですけど」


頭の中に、断片的な言葉が、浮かんでは消えていく。


「『共鳴』、でしょうか。魔力を持つものと、心を通わせて、その流れを導く力……みたいです」


「共鳴……」


ミレーナが、その言葉を、噛みしめるように繰り返した。


「魔力そのものと対話する力、ということですか。それは、魔術の世界では、伝説でしか語られない領域です」


「伝説、ですか」


「ええ。古代文明の遺跡で、結晶の制御を引き継ぐことができたのも、きっと、この力のおかげだったのでしょう」


遺跡での出来事が、ニコラスの脳裏に蘇る。ゴーレムに触れた時の感覚、結晶と通じ合った瞬間。あの時にも、この力の萌芽が、すでにあったのかもしれない。


「でも、どうして、今になって」


「おそらく、魔晶石という、膨大な魔力の塊に触れたことで、眠っていた力が、目覚めたのでしょう」


そこへ、扉が開いて、レオンが、険しい表情で入ってきた。


「ミレーナ、話は聞いた。……ニコラス、このことは、しばらく、他言無用にしてもらいたい」


「他言無用、ですか」


「ああ。スキルが七つでも、世界では前代未聞だった。それが八つとなれば、各国が、こぞってお前を狙うことになる」


レオンの言葉には、重い現実が滲んでいた。昨夜の将校が残した言葉も、頭をよぎる。『その力、決して、安全ではないぞ』。


「報告は、陛下と騎士団長にのみ、行う。調査隊の他の者にも、箝口令を敷く」


「分かりました。……お願いします」


「まあ、安心しろって! 俺たちが、ちゃんと隠してやるからさ!」


カイが、胸を叩いて笑う。


「お前の口が、一番信用ならないんだが」


「なんでだよ!」


レオンの冷静な一言に、全員が、小さく笑った。張り詰めた空気が、ほんの少しだけ、和らぐ。


その時だった。詰所の扉が、勢いよく開け放たれた。


「失礼します! 王都から、早馬を乗り継いだ急使が、到着しました!」


息を切らした兵士が、一通の封書を差し出した。封蝋には、騎士団長ヴァルターの印が押されている。レオンが、素早く封を切り、中の書状に目を走らせる。


その表情が、みるみる、凍りついていった。


「どうしたんですか、レオンさん」


「……三日前の夜、王都の魔道具研究院に、侵入者があったそうだ。研究員の一人が、負傷し、いくつかの資料が持ち去られた」


「魔道具研究院……って、ソフィアが、いる場所です」


ニコラスの声が、震えた。昨夜、将校の男が残した言葉が、頭の中で、繰り返される。


――王都にも、我らの目は、すでに届いている。


「ニコラス」


レオンが、静かに書状を差し出した。続きを読んだニコラスの指先から、血の気が、引いていく。


そこには、ニコラスにとって、何よりも見過ごせない一文が、記されていた。


『なお、侵入者は、「遺跡の結晶を鎮めた少年」の所在を、執拗に探していた模様』


第139話へ続く


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