第125話 報告、そして評価
遺跡から王都へと戻ったニコラスたちは、その足で魔道具研究院へと向かった。院長への報告が、何よりも優先すべき事項だった。
「……以上が、今回の調査と対処の詳細です」
クラリスが、丁寧にまとめた報告書を手に、院長へと説明を行う。白髪の院長は、報告を聞き終えると、深く頷いた。
「これは、想像以上の功績だ。放置していれば、王都にまで被害が及んでいたかもしれない事態を、未然に防いだわけだからな」
院長の視線が、ニコラスへと向けられる。
「ニコラス君、と言ったか。若くして、見事な働きだった」
「ありがとうございます。ですが、クラリスさんやレオンさんの協力があったからこそです」
ニコラスの謙虚な返答に、院長は満足そうに目を細めた。
「クラリス君、レオン君、二人の報告からも、ニコラス君の冷静な判断力と、高い技術力がよく伝わってきた。研究院としても、今後の遺跡研究に、大いに期待できそうだ」
「ありがとうございます、院長」
クラリスが、嬉しそうに頭を下げる。レオンも、普段の厳格な表情を少し緩めながら、頷いていた。
「それにしても、ランクDの新人冒険者が、これほどの事態を収めるとはな。ギルドの報告書にも、目を通させてもらったが、審査でのお前の実力も、相当なものだったようだ」
院長の言葉に、ニコラスは苦笑するしかなかった。目立たないようにという忠告が、またしても、簡単に覆されてしまったらしい。
「謙虚さも、また美徳だな。……だが、これだけの功績だ。正式に、国への報告も必要になるだろう」
その言葉に、ニコラスは内心、小さくため息をついた。目立たないようにという忠告を、またしても守れなかったことになる。
「あの、できれば、過度に大きく扱われるのは、避けていただきたいのですが……」
「気持ちは分かるが、こればかりは、研究院だけの判断では決められない。ただ、お前の意向は、できる限り考慮するようにしよう」
院長の配慮に、ニコラスは小さく頭を下げた。
「ありがとうございます。無茶な活躍をするたびに、父にも、冒険者ギルドのマスターにも、目立つなと言われ続けてまして……」
「ふむ、気持ちは分かるが、それだけの実力を持っていれば、いずれ注目されるのは避けられんだろうな。むしろ、正しく評価される場を選べるよう、立ち回る方が賢明かもしれんぞ」
院長の助言には、長年、多くの研究者や冒険者を見てきた者らしい、重みのある説得力があった。ニコラスは、その言葉を静かに胸に刻んだ。
報告を終え、研究院を出ると、ちょうど夕暮れ時だった。
「お疲れ様でした、ニコラスさん」
クラリスが、ねぎらいの言葉をかけてくる。
「クラリスさんこそ、お疲れ様でした。色々と助けていただいて、感謝しています」
「いえ、こちらこそ。あなたのおかげで、本当に多くのことを学ばせていただきました。……実は、今回の件がきっかけで、研究院として、古代遺跡の研究プロジェクトを本格的に立ち上げることになりそうなんです」
「それは、すごいですね」
「もしよろしければ、今後も、協力をお願いできないでしょうか。もちろん、冒険者としての活動を優先していただいて構いません」
クラリスの申し出に、ニコラスは少し考えてから、頷いた。
「はい、機会があれば、ぜひ」
「良かった。それでは、改めて正式な依頼という形で、ご連絡させていただきますね」
クラリスの表情が、研究者らしい真剣な輝きを帯びる。学園時代、ソフィアやローランドが見せていた、知識への純粋な情熱と、どこか似た雰囲気を感じ、ニコラスは自然と親近感を覚えた。
遺跡で感じた、古代文明への興味は、ニコラスの中で、確かな熱として残っていた。学園時代に培った知的好奇心が、ここでもまた、新たな形で満たされようとしている。
宿へ戻る道すがら、ニコラスはシャルロットたちへ、調査が無事に終わったことを知らせる手紙を書くことにした。
「心配させちゃったかな、シャルロット」
苦笑しながらも、ニコラスの筆は、自然と軽やかに動いていった。遺跡での出来事、結晶を安定させたこと、そして、新たな研究への協力の話。伝えたいことが、次から次へと溢れてくる。
手紙の最後に、ニコラスは一言、付け加えた。
「次に王都に来る時は、もっとゆっくり、みんなで過ごしたいな」
書き終えた手紙を封筒に収めながら、ニコラスは、遺跡での緊張した時間と、仲間たちとの温かい再会の時間を、交互に思い返していた。どちらもが、かけがえのない経験として、確かに自分の中に積み重なっていく。
窓の外から、王都の夜の喧騒が、微かに聞こえてくる。学園を卒業してから、まだそれほど時間は経っていないはずなのに、驚くほど多くの出来事を経験してきた気がする。
手紙を書き終える頃には、窓の外はすっかり夜になっていた。未知の危機を乗り越え、新たな繋がりも得たニコラスは、静かな充実感とともに、床についた。
第126話へ続く




