第121話 王都の夜、再会
フェリックスの手配で、その夜、王都の一角にある馴染みの食堂に、懐かしい顔ぶれが集まることになった。
「ニコラス!」
扉を開けた瞬間、真っ先に駆け寄ってきたのは、シャルロットだった。
「シャルロット、急に呼び出して悪かったね」
「悪いだなんて、とんでもないわ! フェリックスから聞いて、本当に驚いたんだから。指名依頼だなんて、相変わらず規格外なんだから」
呆れたように言いながらも、シャルロットの表情は、隠しきれない喜びに満ちていた。
「ニコラス君、お久しぶりです」
続いて声をかけてきたのは、ソフィアだった。ローランドの研究室が王都にあるため、彼女もすぐに駆けつけることができたらしい。
「ソフィアも元気そうで良かった。小型ランプの研究、順調?」
「はい。もう少しで、実用化の目処が立ちそうです」
控えめな微笑みの奥に、確かな自信が感じられた。
「ニコラス君が冒険者になったって聞いた時、正直すごく意外でした。でも、話を聞いてみたら、やっぱりニコラス君らしい選択だなって、納得しました」
「そうかな。自分では、結構思い切った決断のつもりだったんだけど」
「思い切った決断を、自然体でやってのけるのが、ニコラス君らしさだと思います」
ソフィアの言葉に、ニコラスは少し照れくさそうに頭をかいた。
「残念ながら、エミリーとガレスは、レイモンド家の領地から離れられなくてな。今度、落ち着いたら、改めて集まろうって伝言を預かってきたよ」
フェリックスの言葉に、ニコラスは少し残念そうな、それでいて温かい気持ちになった。
「それぞれの場所で、ちゃんと頑張ってるんだな」
「二人とも、村の人たちにすごく頼りにされてるみたいよ。この前、エミリーから届いた手紙に書いてあったわ」
シャルロットの言葉に、ニコラスは温かい気持ちになった。かつて設計図流出事件で苦しんだエミリーが、今では誰かに頼られる立場になっている――その事実が、何より嬉しかった。
「当然でしょう。私たち、学園を卒業したからって、簡単に腑抜けになったりしないもの」
シャルロットが、胸を張って言う。その自信に満ちた表情に、ニコラスは思わず笑みをこぼした。
食事が運ばれてくると、話題は自然と、それぞれの近況へと移っていった。
「それで、明日からいよいよ、遺跡の調査なのね」
「うん。研究院の人の話だと、ちょっと危険な場所かもしれないって」
ニコラスの言葉に、シャルロットの表情が、すっと引き締まった。
「無茶だけは、絶対にしないでよね」
「分かってる。ちゃんと気をつけるよ」
「口ではそう言っても、あなた、肝心なところで突っ走る癖があるんだから。昔からそうじゃない」
シャルロットの鋭い指摘に、ニコラスは思わず言葉に詰まった。フェリックスとソフィアも、心当たりがありすぎるのか、思わず同意するように頷き、くすくすと笑っている。
「で、でも、今回は、ちゃんとした調査依頼だから。研究院の担当者さんも同行するし、一人で無鉄砲に突っ込むようなことはしないよ」
「そう願うわ。……もし何かあったら、すぐに手紙、ううん、できるなら直接会いに行くから」
シャルロットの真剣な言葉に、ニコラスは静かに頷いた。離れていても、こうして心配してくれる存在がいることが、何よりの支えだった。改めて、彼女の存在の大きさを実感する。
「そういえば、ソフィア。ローランドさんとの研究、何か面白い発見はあった?」
「はい、実は最近、魔力の波長を分析する新しい手法を試していて……」
ソフィアが、目を輝かせながら説明を始める。専門的な話にフェリックスが目を回す一方、ニコラスは興味深そうに耳を傾けていた。学園時代から変わらない、こうした何気ない会話の時間が、何よりも心地よく感じられる。
「それにしても、フェリックス。お前、商談の話になると、途端に生き生きしてくるわね」
「当たり前だろ。商売は俺の天職なんだから」
シャルロットのからかいに、フェリックスが胸を張って答える。その様子に、ソフィアとニコラスは、思わず顔を見合わせて笑った。
「学園時代から、ちっとも変わらないわね、みんな」
「それだけ、俺たちらしさが、ちゃんと根付いてるってことだろ」
フェリックスの言葉に、全員が自然と頷いた。環境が変わっても、根っこにある人柄や絆は、少しも揺らいでいない。それを改めて実感できることが、何よりも嬉しかった。
夜が更けるまで、四人は尽きることのない話に花を咲かせた。それぞれの道を歩み始めても、積み重ねてきた絆は、少しも色褪せていなかった。
「明日からの調査、頑張ってね。無事に終わったら、また集まりましょう」
シャルロットの言葉に、ニコラスは力強く頷いた。食堂を出ると、夜風が心地よく頬を撫でていく。王都の夜空に輝く星々を見上げながら、ニコラスは静かに息を吸い込んだ。仲間たちとの再会で得た温かさを胸に、未知の遺跡へと向かう覚悟を、改めて固めていた。
第122話へ続く




