第114話 冒険者登録
スキル発覚の騒動から数日。ニコラスは、落ち着きを取り戻した家族に見送られ、村から馬車で半日ほどの街にある冒険者ギルドへと向かった。
「本当に、一人で大丈夫なの? 心配だから、お母さんも付いていこうかしら」
「大丈夫だよ、お母さん。もう十六歳なんだから、一人で手続きくらいできるよ」
玄関先で、母エレーナが名残惜しそうに何度も確認してくる。微笑ましいながらも、少し気恥ずかしい見送りだった。
「エレーナ、ニコラスはもう立派な大人だ。信じて送り出してやろう」
父ヴィルの言葉に、エレーナはしぶしぶといった様子で頷いた。
「分かったわ。でも、何かあったらすぐに手紙を書くのよ、いいわね?」
「分かってる、分かってる」
苦笑しながら手を振り、ニコラスは馬車に乗り込んだ。窓から見える家族の姿が、少しずつ小さくなっていく。
馬車に揺られながら、ニコラスはこれからの生活に思いを巡らせていた。姉マリーのように依頼を受けて各地を回るのか、あるいは、学園で培った魔道具の知識を活かした依頼を選ぶのか。前世の記憶を持つ身としては、どうしても慎重に物事を考えてしまう癖があったが、今回は珍しく、わくわくとした気持ちの方が強かった。
「冒険者か……柄にもなく、ちょっと楽しみだな」
誰に言うわけでもなく、ニコラスは小さく呟いた。
街の冒険者ギルドは、思っていたよりも賑わっていた。受付カウンターには、依頼の張り紙がずらりと並び、鎧姿の冒険者たちが忙しなく出入りしている。
「すみません、冒険者登録をしたいのですが」
受付の女性に声をかけると、すぐに書類を渡された。
「初めての方ですね。こちらに、お名前と、簡単な適性検査の結果を記入してください」
適性検査と聞いて、ニコラスは少し身構えた。これまでのスキル発覚の騒動を思えば、ここでも何か大きな反応が起きるのではないかと、内心びくびくしていたのだ。
「それでは、こちらの魔石に手を当てて、魔力を流してみてください」
渡された水晶のような魔石に、ニコラスはそっと手を当てた。意識を集中し、ゆっくりと魔力を流し込んでいく。
すると、魔石がみるみる輝きを増し、カウンターの奥にいた職員たちが、一斉にこちらを見た。
「こ、こんな輝き方、初めて見たわ……」
「ちょっと、ギルドマスターを呼んできて!」
その反応に、ニコラスは思わず冷や汗をかいた。
「あ、あの、何か問題でも……?」
「問題というか……むしろ逆です。これほど高い適性値、滅多に見られるものではありません」
受付の女性が、興奮を抑えきれない様子で言う。幸い、スキルの数そのものまでは測定されなかったようで、ニコラスは内心ほっと息をついた。それでも、何らかの形で規格外であることは伝わってしまったらしい。
少し待っていると、白髪に鋭い目つきをしたギルドマスターが、カウンターの奥から現れた。
「お前が、あの適性値を叩き出した新人か。名前は?」
「ニコラス・ローウェルです」
「ローウェル……? まさか、ヴィルとエレーナの息子か」
ギルドマスターの問いに、ニコラスは驚いて頷いた。
「父と母のことを、ご存知なんですか?」
「当然だ。あの二人は、俺が駆け出しの頃に世話になった恩人だからな。……ふむ、その息子がここまでの適性を持っているとは、血は争えないものだな」
ギルドマスターは、感心したように頷きながら、手続きを進めていった。
「とりあえず、お前はランクF――新人からのスタートだ。だが、その適性値なら、早々に上のランクへ上がれるだろう。無理はせず、まずは簡単な依頼から始めていけ」
「ありがとうございます」
「それと、一つ忘れるな。冒険者という仕事は、自由である分、何が起きても自分の責任だ。油断するなよ」
ギルドマスターの真剣な言葉に、ニコラスは気持ちを引き締め、深く頷いた。
「ところで、お前のことは、まだ誰にも言っていないが……あの適性値のことは、あまり広めない方がいいだろう。目立ちすぎると、良からぬ輩に狙われることもある」
ギルドマスターの忠告に、ニコラスは内心ひやりとした。父ヴィルからも似たようなことを言われていたが、こうして改めて専門家からも指摘されると、規格外の力というものの重みを、改めて実感させられる。
「ご配慮、ありがとうございます」
「礎を大事にしろ。お前の両親がそうだったように、地に足をつけて、一歩ずつ積み重ねていくことだ」
その言葉には、長年多くの冒険者を見てきたギルドマスターならではの、重みのある説得力があった。
手続きを終え、真新しい冒険者カードを受け取ったニコラスは、ギルドの掲示板に並ぶ依頼の数々を、改めて見渡した。薬草採取、荷物運搬、魔物の駆除――様々な依頼が、所狭しと張り出されている。
「最初は、無理せず簡単なものから選んでみよう」
そう呟きながら、ニコラスは掲示板に手を伸ばした。前世のサラリーマン生活とはまるで違う、自分の意志で道を選べる人生が、今まさに、この一枚のカードから始まろうとしていた。
第115話へ続く




