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転生したら村人だったのに、なぜか全スキル使えました  作者: コンペイ党


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第110話 それぞれの進路


卒業式から数日。学園の寮では、荷物をまとめる生徒たちの姿がそこかしこで見られた。


「いよいよ、ここを出るのか……なんか、変な感じだな」


ニコラスは、六年間過ごした自室を見渡しながら、荷物を箱に詰めていた。壁に貼った魔道具の設計図の切れ端、保冷魔道具の試作ノート、どれもがこの学園生活の軌跡そのものだった。


「ニコラス、ちょっといいか」


部屋を覗き込んできたのは、フェリックスだった。その手には、一枚の封筒が握られている。


「それ、何?」


「お前宛てに、王都の近衛騎士団から、正式な勧誘状が届いてたぞ。総代として卒業したこと、保冷魔道具をはじめとする発明の功績、それが評価されたんだろうな」


渡された封筒を開けると、確かに、騎士団への入団を勧める丁寧な文面が綴られていた。前世が会社員だったニコラスにとって、組織に所属するという響きには、どこか複雑な感情が付きまとう。


「騎士団からの勧誘って、相当な名誉だぞ。普通なら、一も二もなく受けるところだと思うけど」


フェリックスが、腕を組みながら言う。


「分かってる。でも……」


ニコラスは、封筒を見つめながら、しばらく言葉を選んでいた。前世での記憶――毎日同じ時間に起き、同じ場所に通い、決められた枠の中で働いていた日々。それが嫌だったわけではないが、今度の人生では、もっと自分の意志で動く道を選びたいという思いが、心の奥底にずっとあった。


「どうするんだ、これ」


「……実は、もう決めてるんだ。騎士団には入らない。冒険者になる」


「えっ、本当に? あんな名誉ある誘い、断るのか?」


フェリックスが驚いたように声を上げる。


「俺、前世でずっと組織に縛られて生きてきたんだ。今度は、自分の裁量で動ける生き方を選びたい。もちろん、将来的に国のために力を尽くすのもいいと思ってる。でも、まずは自分の足で、色々な場所を見て回りたいんだ」


ニコラスの言葉に、フェリックスはしばし黙り込んでいたが、やがて笑みを浮かべた。


「お前らしいよ、それ。応援する」


「ありがとう、フェリックス。お前はどうするんだ?」


「俺は、親父の商会を手伝うことになってる。でも、いつかは独立して、自分の商会を立ち上げたいと思ってるんだ。ニコラスたちの発明を、もっと世界に広めるのが俺の夢だからな」


商人の血を感じさせる、力強い言葉だった。


「それと、ルーカスはどうするんだ?」


「ああ、あいつは実家で剣術道場を継ぐらしい。卒業試験であれだけ頑張ったんだから、きっと立派な師範になるさ」


「ガレスとの相互指導、無駄にはならなかったみたいだな」


「だな。あいつ、最後の方は見違えるくらい腕を上げてたぞ」


そんな話をしているうちに、談話室の方から賑やかな声が聞こえてきた。


そこへ、シャルロット、ソフィア、エミリーも部屋に集まってくる。


「進路の話、してたの? 私も聞きたいわ」


シャルロットが、興味津々な様子で尋ねてきた。


「ニコラス、冒険者になるんだって。騎士団の誘いを断ってな」


「……そう。やっぱり、ニコラスらしい選択ね」


意外にも、シャルロットは驚いた様子を見せなかった。


「シャルロットは反対しないのか?」


「反対する理由がないもの。あなたが選んだ道なら、私は信じるだけよ。それに――」


シャルロットは少し頬を赤らめながら、続けた。


「私も、子爵家の仕事を手伝いながら、いつかあなたの冒険を近くで見守れるように頑張るから」


「シャルロット……」


「な、なによ、改まって見つめないでよ!」


その場の空気が和むと、ソフィアも静かに口を開いた。


「わたしは、ローランドさんの研究室に残って、魔道具の研究を続けます。小型ランプも、必ず完成させたいので」


「俺も、ガレスと一緒に、レイモンド家の領地で魔道具普及の仕事をすることになったんです」


エミリーが、少し誇らしげに報告する。設計図流出事件の頃を思えば、今のエミリーの表情は、見違えるほど明るい。


「みんな、それぞれの道を見つけたんだな」


ニコラスがそう呟くと、全員が頷いた。


「ガレスも、正式にレイモンド家の仕事を継ぐ準備を始めるみたいです。エミリーと一緒に、って聞いて、正直びっくりしました」


ソフィアがそう言うと、エミリーは真っ赤になって俯いた。


「べ、別に一緒にってだけで、変な意味はないので……!」


「分かってるわよ、そんなに慌てなくても」


シャルロットがからかうように笑うと、エミリーはさらに顔を赤くした。かつて設計図流出事件に関わり、周囲に申し訳なさを抱えていたエミリーが、今はこんなふうに仲間たちと笑い合える日が来るとは、誰も思っていなかったに違いない。


「でも、道が分かれても、俺たちの繋がりが切れるわけじゃない。また、いつでも集まろう」


「もちろんよ。約束だから」


窓の外には、学園を出発する馬車の列が、朝の光を受けて輝いていた。見慣れた校舎も、今日という日を境に、思い出の中の景色へと変わっていく。それぞれの新しい一歩が、もうすぐ始まる。


第111話へ続く


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