第11話「合同演習、開始」
合同演習当日、エルデシア王立学園の正門前には、見慣れない紋章を掲げた馬車が何台も並んでいた。近隣の貴族子弟が通う別の学園――ヴェルデン学園からの一団が到着したのだ。
「思ったより、大所帯なんだな」
ルーカスが感心したように呟く。演習には各学年から選抜された生徒たちが参加するため、演習場の周囲は普段以上の人だかりになっていた。
「今回の混成チームの発表を行う」
グレイソン先生の声とともに、掲示された名簿に生徒たちの視線が集まる。ニコラスは自分の名前を確認し、小さく頷いた。
「エドワードと同じ班、か」
事前に聞いていた通り、ニコラスとエドワードは同じ混成チームに振り分けられていた。そこには、ヴェルデン学園から参加する二名の生徒の名前も並んでいる。
「ローウェル、これがヴェルデン学園から来た、僕たちのチームメイトだ」
エドワードにそう紹介されたのは、快活そうな女子生徒と、物静かな雰囲気の男子生徒だった。
「初めまして、レティシアよ。よろしくね」
「クリスと申します。よろしくお願いします」
二人とも、それぞれ剣術と魔法に自信があるとのことで、実力は申し分ないという評判だった。レティシアは伯爵家の令嬢らしいが、その快活な物腰は、シャルロットとはまた違ったタイプの令嬢らしさを感じさせた。一方のクリスは、支援魔法を専門とする、物静かな少年だった。だが、初対面同士でのチーム編成に、どこかぎこちない空気が漂っていた。
「今回の演習では、指定された森林エリアで、複数配置された標的――模擬の魔物を模した魔道具――を、制限時間内にどれだけ討伐できるかを競う。チームの連携が何より重要になる」
説明役の教師がそう告げると、生徒たちの間に緊張が走った。
「では、作戦を確認しておこう」
エドワードが冷静な口調でそう切り出した。
「僕とレティシア嬢が前衛で敵を引きつける。ローウェル、お前は状況に応じて臨機応変に動いてくれ。クリス殿は後方から支援魔法を頼む」
「異論ないよ」
ニコラスが素直に頷くと、レティシアが興味深そうにこちらを見た。
「あなたが、噂のローウェル君ね。エドワードから聞いたわ、規格外の実力だって」
「そんな大した話じゃないと思うけど……」
「謙遜しなくていいわよ。楽しみにしてる」
レティシアはそう言って快活に笑った。物おじしない彼女の様子に、ニコラスは思わず口元を緩めた。
演習開始の合図とともに、四人は指定された森林エリアへと足を踏み入れた。木々の間に、いくつもの魔道具の標的が配置されているのが見える。
「まずは、あそこからだ」
エドワードの合図で、四人は最初の標的へと接近した。木の陰から飛び出してきた狼型の魔道具に対し、エドワードとレティシアが即座に前へ出て応戦する。二人の剣が、それぞれ異なる軌道を描きながら、魔道具の動きを的確に制していく様子は、初対面とは思えないほど息の合ったものだった。
「クリス殿、支援を」
「はい、ただいま――『加護の光』」
クリスの支援魔法が、エドワードとレティシアの動きを一段と俊敏にさせた。二人の連携は見事なもので、あっという間に一体目の標的を沈黙させる。
「さすが、息が合ってるね」
ニコラスが感心したようにそう言うと、エドワードは僅かに口の端を上げた。
「まあ、それなりに鍛えてきたからな」
だが、次の瞬間、茂みの奥から複数の反応が同時に現れた。想定していたよりも早いタイミングで、二体目、三体目の標的が姿を現したのだ。
「二方向から来るぞ!」
エドワードの叫びに、四人は瞬時に散開する。ニコラスは片方の標的へと向かいながら、もう一方に対応するレティシアとクリスの様子にも意識を配っていた。
(クリスの支援魔法、少し詠唱に時間がかかってる。このままだと間に合わないな)
そう判断したニコラスは、目の前の標的を素早く仕留めると同時に、援護のための光魔法をクリスたちの方へ飛ばした。
「え……」
自分の詠唱が完成するより先に、既にレティシアの動きが強化されていることに、クリスは戸惑いの声を上げた。
「今のうちに!」
ニコラスの声に応じ、レティシアが一気に間合いを詰め、二体目の標的を沈黙させる。三体目もエドワードの一撃によって片付き、その場は無事に切り抜けられた。
「た、助かりました……でも、今の魔法は」
クリスが困惑した様子でニコラスを見る。
「クリス殿が詠唱してる間、少し隙が空きそうだったから。余計なお世話だったらごめん」
「い、いえ、そんな……むしろ、助けられました」
エドワードは、そのやり取りを黙って見つめていた。指示していないはずの場面で、状況を的確に読んで動くニコラスの判断力に、改めて何かを感じ取っているようだった。
「油断するな。まだ標的は残っている」
そう言いながらも、その声には、どこか信頼の色が滲んでいるようだった。
四人は再び森の奥へと進んでいった。歩きながら、レティシアがニコラスの隣に並んだ。
「ねえ、さっきの判断、本当に見事だったわ。うちの学園にも、優秀な生徒は多いけれど、あそこまで冷静に周りを見られる子はなかなかいないもの」
「たまたま気づいただけだよ」
「謙遜が過ぎるわね。エドワードがあんな風に素直に頼るところ、初めて見たわ」
レティシアがそう言って、少しからかうような視線をエドワードに向けると、彼は「聞こえているぞ」と苦い顔で応じた。その様子に、四人の間に自然な笑いが生まれる。
「意外と、いいチームかもしれないね」
ニコラスがそう呟くと、クリスも控えめに頷いた。
「僕も、そう思います。最初は緊張していましたが……」
チームとしての一体感が少しずつ生まれ始めていることを、誰もが肌で感じ取っていた。だが、演習は、まだ始まったばかりだった。
(第12話へ続く)




