↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したら村人だったのに、なぜか全スキル使えました  作者: コンペイ党


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
10/127

第10話「エドワードの提案」


実習での一件から数日後、ニコラスは思わぬ相手から声をかけられた。


「ローウェル、少し話がある」


放課後の廊下、そう声をかけてきたのはエドワードだった。いつもの尊大な態度は変わらないが、その表情には、これまでとは少し違う何かが滲んでいるようにも見えた。


「珍しいね、君からわざわざ話しかけてくるなんて」


ニコラスが軽い調子でそう返すと、エドワードは僅かに眉を寄せた。


「からかっているのか」


「別に。ただ、いつもは目も合わせないから」


「……ふん。まあいい」


エドワードは短く息を吐くと、周囲に人がいないことを確認するように視線を巡らせた。


「実は、来月から始まる合同演習のことで話がある」


「合同演習?」


「ああ。近隣の貴族子弟が通う、別の学園との交流演習だ。毎年恒例の行事で、模擬戦だけでなく、共同での討伐実習も行われる」


エドワードの説明によれば、その演習では、各学園から選抜された生徒が数名ずつの混成チームを組んで、指定された任務をこなすのだという。


「それで、僕に何の用?」


「今年の混成チームの編成で、僕とお前が同じ班になる可能性が高い、という話が出ている」


「へえ」


「他人事のような顔をするな。お前は分かっていないようだが、これは僕にとって重要な機会なんだ」


エドワードの声には、これまでの苛立ちとは違う、切実な響きがあった。


「重要な機会?」


「……僕の家のことは、噂で聞いているだろう」


エドワードはそう前置きすると、少し躊躇うような間を置いてから続けた。


「うちの家は、最近、宮廷内での立場が芳しくない。新興の貴族家が力をつけてきていてな。特に、最近爵位を得たばかりのレイモンド家が、目に見えて発言力を強めている」


「レイモンド家?」


「聞いたことがなくて当然だ。つい数年前まで、しがない商家に過ぎなかった家だからな。だが、その息子が優秀でな。あらゆる場面で成果を上げ、着実に父親の家格を押し上げている」


エドワードの声には、隠しきれない苛立ちと同時に、微かな焦りが滲んでいた。


「今年の合同演習で結果を出せなければ、父上の立場も、ますます苦しくなる。宮廷内での発言力は、そのまま家の存続にも関わってくる問題だ」


その言葉に、ニコラスは以前ルーカスから聞いた「派閥争い」の噂を思い出した。エドワードのこれまでの苛立ちが、単なる子供じみたプライドだけではなかったことを、改めて実感する。


「だから、僕と協力しろってこと?」


「……そうだ。お前の実力は、この際、認めてやる。だが、それはあくまで結果を出すための手段としてだ。勘違いするな」


素直に「協力してほしい」とは言えないエドワードの物言いに、ニコラスは思わず小さく笑ってしまった。


「何がおかしい」


「いや、別に。分かったよ、協力する」


「……本当に、それでいいのか。僕は、これまでお前に散々失礼な態度を取ってきたはずだが」


エドワードが意外そうな顔でそう尋ねる。


「そういうのは、正直あんまり気にしてないから。それに、困ってるなら助けたいって思うのは、当たり前のことだし」


ニコラスの言葉に、エドワードは一瞬、言葉を失ったような表情を浮かべた。伯爵家の嫡男として、常に競争と駆け引きの中で生きてきた彼にとって、見返りを求めない「協力する」という言葉は、あまり馴染みのないものだったのかもしれない。


「……変わった奴だな、お前は」


「よく言われるよ」


前世で三十年以上、様々な人間関係の中で揉まれてきたニコラスにとって、目の前の相手が抱える切実な事情に寄り添うことは、それほど難しいことではなかった。むしろ、こうして本音を見せてくれたエドワードに対して、少しだけ親近感すら覚えていた。


「まあ、せいぜい足を引っ張るなよ」


そう言い残して、エドワードは踵を返し、足早にその場を去っていった。だが、その背中からは、先ほどまでの張り詰めた空気が、わずかに和らいでいるように見えた。


その日の夕食の席で、ニコラスは友人たちにエドワードとのやり取りを話した。


「マジかよ、あのエドワードが協力を求めてきたのか」


ルーカスが驚いたように目を丸くする。


「意外ね。てっきり、最後まで意地を張り続けるタイプかと思っていたけれど」


シャルロットも興味深そうに顎に手を当てた。


「まあ、彼にも彼なりの事情があるってことだよ」


ニコラスがそう答えると、フェリックスが少し考え込むような表情を浮かべた。


「派閥争い、か……。貴族の世界も、大変なんだな」


その呟きには、自身の家業の悩みを抱えるフェリックスならではの、共感めいた響きがあった。


「ニコラス君は、優しいね」


ソフィアがぽつりとそう呟く。


「優しいっていうか、単に困ってる人を放っておけないだけだよ」


「それを優しいって言うんだと思うけど」


シャルロットがくすりと笑いながらそう付け加えると、食卓には温かな笑い声が広がった。


合同演習まで、あと一か月。ニコラスにとって、それはエドワードとの、そしてこの世界の貴族社会の複雑さとの、新たな向き合い方を学ぶ機会になりそうだった。


その夜、寮の自室に戻ったニコラスは、ベッドに横になりながら、今日のエドワードとのやり取りを反芻していた。


(伯爵家の跡取りにも、跡取りなりの苦労があるんだな)


前世で言えば、老舗企業の跡取り息子が、新興ベンチャーの台頭に焦りを覚えているような状況に近いのかもしれない。身分や立場は違えど、人が抱える悩みの構造そのものは、世界が変わってもそう大きく変わらないのだと、ニコラスは改めて実感していた。


(まあ、僕にできることがあるなら、協力するだけだ)


そう結論づけると、ニコラスは静かに目を閉じた。一か月後に控えた合同演習――それが、この学園生活における、また一つの大きな転機になることを、この時のニコラスはまだ、はっきりとは予感していなかった。


(第11話へ続く)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。