第107話 記念展示、開催
ついに迎えた記念展示の日。学園の一角に設けられた会場には、朝から多くの生徒や保護者、そして魔道具ギルドの関係者までが、足を運んでいた。
「すごい人の数だな……」
会場の賑わいに、フェリックスが思わず声を漏らした。
「私たちの集大成、しっかり見てもらいましょう」
シャルロットが、気合十分な様子で言った。
展示ブースには、保冷魔道具から始まり、マナレス・ランプ、ストックアイズ、クイックレジまで、これまでの発明が、丁寧に並べられている。それぞれの横には、シャルロットが丁寧にまとめた開発エピソードのパネルも、添えられていた。
「シャルロット、このパネル、いつの間にこんなに書き込んだんだ?」
「当然よ。中途半端な説明で、私たちの努力を誤解されたくないもの」
パネルには、保冷魔道具の初期設計図から、幾度もの試作、グラント商会編やクレイン商会編で起きた騒動の概要まで、簡潔ながら要点を押さえた文章が並んでいた。来場者が立ち止まって読み込んでいく様子に、シャルロットは満足げに頷いている。
「こうして見ると、本当に色々あったんだな……」
フェリックスが、しみじみとパネルを眺めながら呟いた。設計図流出事件、レイモンド家との因縁、グラント商会の提案を突っぱねた一件――どれもが、今となっては大切な思い出の一つになっている。
「これは……本当に、見事な展示ですね」
近づいてきたバルトロさんが、感心したように、展示の全体を見渡した。
「バルトロさん! 来てくださったんですね」
「もちろんです。皆様の集大成、ぜひこの目で見たくて」
バルトロさんは、一つ一つのパネルを、丁寧に読み進めていった。
「ふむ、こうして振り返ると、本当に濃密な一年でしたな」
「はい、色々ありました」
ニコラスが、懐かしさを込めて答えた。
会場には、在校生たちの姿も多く見られた。
「ニコラス先輩! これが、噂の発明品ですか!」
興奮した様子の後輩が、保冷魔道具に興味津々な視線を向けている。
「そうだよ。実際に触ってみるといい」
「わあ、本当にすごい……!」
後輩たちの反応に、ニコラスたちは、自然と笑顔になった。
展示の奥では、小型ランプの試作品も、特別に展示されていた。
「これは、新作ですか?」
興味を持った来場者の問いに、ソフィアが丁寧に説明する。
「はい、まだ開発中なのですが、子供部屋にも置けるような、小さな魔力不要のランプです」
「それは便利そうですね。完成が楽しみです」
そんなやり取りを交わしながら、展示は、着実に盛況を見せていった。
昼前、共同研究者であるローランドも、顔を出してくれた。
「ニコラス、小型ランプのブース、思った以上に反応がいいな」
「ローランドのおかげだよ。魔力効率の計算、本当に助かった」
「いや、俺はただ理論を整理しただけだ。実際に形にしたのは、お前たちの技術力だよ」
謙遜しながらも、ローランドの目は、展示されたランプの試作品を誇らしげに見つめていた。二人で夜遅くまで計算式をこねくり回した日々を思い出し、ニコラスは思わず笑みをこぼす。
「卒業したら、もっと大きな研究も一緒にやりたいな」
「それは、俺も願ってるところだ」
ローランドと交わした言葉は短かったが、確かな手応えを残していった。
昼過ぎ、会場に、見覚えのある顔が現れた。
「ガレス!」
エミリーが、嬉しそうに声を上げる。
「お疲れ様。すごい展示だな」
ガレスが、感心したように会場を見回した。
「後輩へのメッセージも、素晴らしいな。『挑戦すること、素直になること、仲間を頼ること』か」
パネルの文章を読み上げながら、ガレスが、しみじみと頷いた。
「お前たちらしい言葉だと思う」
「ありがとうございます」
エミリーの言葉に、ガレスは優しい笑みを浮かべた。
展示が終わりに近づく頃、クレア先生も、会場を訪れていた。
「皆さん、本当に素晴らしい展示でしたよ。この一年の成長を、改めて実感しました」
「先生、ありがとうございます」
ニコラスの言葉に、クレア先生は、少し寂しげな、それでいて誇らしげな表情を見せた。
「卒業式も、もうすぐですね」
「はい」
その言葉に、五人は、それぞれの胸に、確かな感慨を抱いていた。
展示を終え、片付けをしながら、ニコラスは、この一年間の歩みを、改めて噛み締めていた。保冷魔道具から始まり、数々の困難を乗り越え、かけがえのない仲間たちと、ここまで歩んできた。
「ニコラス君、少し休憩しませんか? お茶、持ってきたんです」
ソフィアが、そっと差し入れてくれたカップから、温かい香りが立ち上る。会場の隅に置かれた長椅子に、五人は並んで腰を下ろした。
「こうして振り返ると、本当にあっという間だったな」
「あっという間なんかじゃないわよ。山ほど大変なことがあったじゃない」
シャルロットが、やや不満げに口を挟む。だがその表情には、どこか柔らかさが滲んでいた。
「大変だったからこそ、今日みたいな日が、特別に思えるんだと思う」
エミリーが静かにそう言うと、全員が小さく頷いた。会場に差し込む夕陽が、並んだ発明品の展示パネルを、橙色に染めていく。その光景を眺めながら、ニコラスは、胸の奥に温かいものが広がるのを感じていた。
「本当に、いい展示だったな」
「はい、皆さんと一緒に作り上げた、大切な軌跡です」
ソフィアの言葉に、皆が頷いた。
夕暮れの会場を後にしながら、五人は、卒業式という、次の大きな節目へと、静かに歩みを進めていくのだった。
第108話へ続く




