第104話 卒業試験、開始
卒業試験当日、学園は、これまでにないほどの緊張感に包まれていた。
「よし、皆、落ち着いていこうな」
試験会場に向かう途中、ニコラスが声をかけると、皆がそれぞれに頷いた。
「筆記は、まあ、なんとかなると思うんだけど……実技が、やっぱり緊張するわね」
シャルロットが、珍しく不安げな表情を見せた。
「大丈夫だ。皆で、しっかり準備してきたんだから」
ニコラスの励ましに、シャルロットは小さく微笑んだ。
まず行われたのは、筆記試験だった。六年間の学びの集大成として、魔法理論、歴史、魔道具学など、幅広い分野からの出題がなされた。
「これは……勉強会でやったとこだ」
フェリックスが、問題用紙を見ながら、小さくガッツポーズをした。
試験時間いっぱいまで、皆、真剣な表情で問題に向き合っていた。
「よし、終わった……!」
筆記試験が終わり、会場を出たフェリックスが、大きく伸びをした。
「手応えは?」
ニコラスの問いに、フェリックスは自信ありげに頷いた。
「ばっちりだ。商業計算のところ、特に自信あるぞ」
「私も、魔法理論のところ、しっかり書けたと思うわ」
シャルロットも、安堵の表情を浮かべていた。
「わたしも、何とか……」
エミリーが少し不安げに言うと、ソフィアが励ますように微笑んだ。
「大丈夫ですよ。これまで、しっかり勉強してきましたから」
午後からは、いよいよ実技試験が始まった。各専攻分野に分かれ、それぞれの実力が試される。
「魔道具学の実技、始めます」
試験官の声に、ニコラスとソフィアは、互いに視線を交わし、頷き合った。
「課題は、指定された機能を持つ魔道具の製作です。制限時間は、二時間」
課題を確認すると、それは「簡易な通信機能を持つ魔道具」という、これまでの学びの応用力が試される内容だった。
「よし、できる」
ニコラスは、落ち着いた手つきで、魔法陣を描き始めた。保冷魔道具、マナレス・ランプ、ストックアイズ、クイックレジ――これまでの経験の全てが、今、確かな力となって発揮されていく。
隣では、ソフィアも、繊細な魔力操作で、着実に作業を進めていた。
「ソフィア、そっちの調子はどうだ?」
「はい、順調です。基本構造は、ほぼ完成しました」
試験時間が進む中、会場のあちこちから、苦戦する声や、成功の歓声が、入り混じって聞こえてきた。
「よし、完成!」
制限時間を少し残して、ニコラスの通信魔道具が、完成を迎えた。試験官が近づき、動作を確認する。
「素晴らしい完成度ですな。構造も、非常に洗練されています」
試験官の評価に、ニコラスは安堵の息を吐いた。
隣のブースでは、ソフィアも、見事な完成度の魔道具を作り上げていた。
「お二人とも、素晴らしい出来です」
試験官の言葉に、二人は顔を見合わせ、笑顔を交わした。
実技試験を終え、会場を出ると、既にシャルロットとフェリックス、エミリーが、心配そうな様子で待っていた。
「どうだった?」
シャルロットの問いに、ニコラスは安堵の笑みを浮かべた。
「うん、思った以上に、手応えがあった」
「私たちも、剣術と商業の実技、なんとか乗り越えたわ」
「わたしも、接客と作法の実技、丁寧に対応できたと思います」
それぞれの報告に、五人は互いに顔を見合わせ、安堵の笑顔を交わした。
「あとは、結果発表を待つだけだな」
ニコラスの言葉に、皆が頷いた。
帰り道、少し離れた場所から、見覚えのある姿が近づいてきた。
「よう、お前らも終わったのか」
ガレスだった。剣術の実技を終えたばかりらしく、少し疲れた様子を見せている。
「ガレス、お疲れ様。実技、どうだった?」
ニコラスの問いに、ガレスは満足げに頷いた。
「ああ、悪くない出来だったと思う。皆もそうみたいだな」
「エミリーも、頑張ったんですよ」
フェリックスが茶化すように言うと、エミリーは頬を赤らめた。
「フェリックス様! そういうこと、言わなくていいです!」
「いやいや、事実だろ?」
賑やかなやり取りに、ガレスも小さく笑った。
「エミリー、お疲れ様。試験、本当に頑張ってたな」
「あ、ありがとうございます、ガレス様」
照れくさそうに答えるエミリーに、ガレスは優しい眼差しを向けていた。
「それにしても、卒業試験が終わったってことは、本当に、もうすぐ卒業なんだな」
ガレスの言葉に、皆が少し感傷的な表情を浮かべた。六年間という歳月の重みが、今になって、じんわりと胸に染み渡ってくるようだった。
「ああ、実感、湧かないけどな」
ニコラスが、しみじみと呟いた。
「結果発表までの間、記念展示の準備も進めないとな」
フェリックスの言葉に、皆が頷いた。
「そうですね。これまでの集大成、しっかり形にしましょう」
ソフィアの言葉に、皆が力強く応えた。
長い学園生活の集大成となる、卒業試験。その全てを終えた今、五人の胸には、確かな達成感と、少しの寂しさが、静かに広がっていた。夕暮れの空の下、六人の影が、仲良く並んで伸びていた。
第105話へ続く




