第103話 ルーカスの相談
勉強会も軌道に乗り始めたある日、思いがけない来客が、五人のもとを訪れた。
「あの、ちょっといいか?」
おずおずと声をかけてきたのは、ルーカスだった。かつてシャルロットと組んで魔道具を暴走させた、剣術特化の平民生徒である。
「ルーカス? 珍しいな、どうしたんだ?」
ニコラスが驚いたように尋ねると、ルーカスは少し気まずそうに頭をかいた。
「実は、魔道具学の実技試験、本当にやばくて……。お前ら、勉強会やってるって聞いたから、もし良かったら、混ぜてもらえないかと思って」
「もちろん、構わないわよ」
意外にも、真っ先に答えたのはシャルロットだった。
「え、いいのか?」
「当然でしょ。困った時はお互い様よ。それに、あなたの魔道具、爆発させる才能だけは、本当にすごいと思ってるんだから」
「それ、褒めてるのか?」
ルーカスが苦笑いを浮かべる。
「もちろん、褒めてないわよ」
賑やかなやり取りに、皆が笑い声を上げた。
早速、ルーカスも交えての勉強会が始まった。
「まず、基本の魔法陣の構造から、確認していきましょうか」
ソフィアが丁寧に、基礎から説明を始める。
「ここの線、こう繋げるんだったか……」
ルーカスが慣れない手つきで、魔法陣を描いていく。
「あ、そこ、逆向きになってますよ」
エミリーが優しく指摘すると、ルーカスは慌てて修正した。
「くっ、やっぱり苦手だな、これ」
「大丈夫、何度も練習すれば、きっとできるようになるわ」
シャルロットが意外にも、根気強く教え続けていた。かつての自分自身も、同じように苦労したことを、思い出しているのかもしれない。
「シャルロット、お前、教えるの上手いんだな」
フェリックスの言葉に、シャルロットは少し照れくさそうに答えた。
「私も、昔は本当に苦手だったから、気持ちが分かるのよ」
「なるほどな」
しばらく練習を重ねるうちに、ルーカスの魔法陣は、少しずつ安定したものになっていった。
「お、できた! 今度は爆発しなかったぞ!」
ルーカスが嬉しそうに声を上げる。
「よし、その調子よ! どんどん練習しましょう」
シャルロットの励ましに、ルーカスは真剣な表情で頷いた。
「ありがとな、お前ら。正直、一人じゃ、どうにもならないと思ってたんだ」
「困った時はお互い様だって、言ったでしょ」
シャルロットの言葉に、ルーカスは照れくさそうに微笑んだ。
勉強会が終わり、教室を出る頃には、夕暮れの空が、優しいオレンジ色に染まっていた。
「ルーカス、思ったより筋が良かったな」
ニコラスの言葉に、ソフィアも頷いた。
「はい、集中力もありますし、きっと試験までに、しっかり実力をつけられると思います」
「それにしても、シャルロットの教え方、本当に丁寧だったわね」
エミリーの言葉に、シャルロットは少し照れくさそうに答えた。
「べ、別に、普通のことをしただけよ」
「普通じゃないですよ。すごく分かりやすかったです」
ソフィアの言葉に、シャルロットは嬉しそうに、それでも素直になれない様子で、頬を赤らめていた。
「よし、明日からも、ルーカスも交えて、皆で頑張っていこうな」
ニコラスの言葉に、皆が力強く頷いた。
帰り道、ルーカスがふと、フェリックスに話しかけた。
「なあ、フェリックス。お前ら、本当にすごいよな。卒業試験の勉強と、新しい魔道具の開発、両方やってるなんて」
「まあ、慣れたもんだよ。最初は俺も、両立できるか不安だったけどな」
「俺も、何か手伝えることあったら言ってくれ。剣術の実技なら、少しは力になれると思う」
ルーカスの申し出に、フェリックスは目を輝かせた。
「お、それは助かるな。実は、俺、剣術の実技、本当に苦手でさ」
「任せとけ。基本の型くらいなら、教えられるぞ」
「頼りにしてる!」
二人は固い握手を交わし、新しい約束を結んだ。
二人のやり取りを見ていたニコラスが、微笑ましそうに言った。
「お互いに助け合えるって、いいことだな」
「はい、こうやって輪が広がっていくの、素敵だと思います」
ソフィアの言葉に、皆が頷いた。
「よし、それじゃあ、明日から、剣術の練習も、勉強会に組み込もう」
ニコラスの提案に、皆が賛同した。
夕暮れの道を歩きながら、エミリーがふと、しみじみとした様子で呟いた。
「なんだか、どんどん仲間が増えていきますね」
「ああ、本当にな」
夕暮れの光に照らされた並木道を、六人分の影が、長く伸びていた。
ニコラスが、温かい気持ちで頷いた。グラント商会の騒動から始まり、様々な困難を乗り越えてきたこの一年。その中で築かれてきた絆は、今、ルーカスのような新しい仲間をも、自然に包み込むほどに、大きく育っていた。誰かを排除するのではなく、受け入れていく。それこそが、このチームの一番の美点なのかもしれなかった。
卒業試験という大きな壁に向けて、仲間の輪は、また少しずつ、広がりを見せていた。この広がりこそが、これまでの困難を乗り越えてきた、何よりの証なのかもしれなかった。
第104話へ続く




