第102話 卒業試験の足音
小型ランプの開発が進む一方で、学園には、卒業試験に向けたピリピリとした空気が漂い始めていた。
「なあ、卒業試験って、具体的にどんな内容なんだ?」
昼休み、食堂でフェリックスが不安げに尋ねた。
「実技と筆記、両方の総合評価らしいわよ。特に実技は、六年間の集大成を見られるんですって」
シャルロットが、先輩から聞いた話を披露する。
「実技かあ……。俺、剣術はそこそこ得意だけど、魔法はからっきしなんだよな」
「フェリックス様は、商才で補える部分も多いと思いますよ」
エミリーの励ましに、フェリックスは苦笑いを浮かべた。
「試験、卒業できるかどうかの瀬戸際だもんな。気合入れないと」
「私は、魔道具学の実技、少し不安です」
ソフィアが控えめに呟いた。
「ソフィアなら、大丈夫だろ。魔力操作の精密さ、学年でも指折りなんだから」
ニコラスの励ましに、ソフィアは少し照れくさそうに微笑んだ。
「ありがとうございます。でも、油断せず、しっかり準備したいです」
放課後、五人は小型ランプの開発と並行して、卒業試験対策にも力を入れることにした。
「よし、それじゃあ、お互いの得意分野を活かして、勉強会をしよう」
ニコラスの提案に、皆が頷いた。
「私、魔法理論は得意だから、皆に教えられるわ」
シャルロットが自信満々に言う。
「俺は、商業知識とか、実用的な計算問題なら任せろ」
フェリックスも頼もしげに言った。
「わたしは、実技の作法とか、細かい所作でお力になれると思います」
エミリーの言葉に、皆が感謝の表情を浮かべた。
「じゃあ、俺とソフィアは、魔道具学の実技を、皆に教える形でいいか」
ニコラスの提案に、皆が頷いた。
早速、勉強会が始まった。教室には、それぞれの得意分野を教え合う、賑やかな声が響き渡る。
「ここの魔法陣の構造、こう考えると分かりやすいわよ」
シャルロットが丁寧に説明すると、フェリックスが感心したように頷いた。
「おお、なるほど。シャルロット、教えるの上手いな」
「当然でしょ! これでも、家庭教師にみっちり仕込まれてきたんだから」
得意げなシャルロットに、皆が微笑ましそうな視線を向けた。
「フェリックス様、この計算式、こんな考え方もできますよ」
エミリーが実用的な視点から、商業計算のコツを伝授する。
「へえ、そういう考え方もあるのか。勉強になるな」
賑やかな勉強会は、夜まで続いた。
「今日は、いい進捗だったな」
ニコラスの言葉に、皆が頷いた。
「卒業試験、絶対乗り越えましょうね」
ソフィアの言葉に、皆が力強く応えた。
「もちろんだ。俺たちなら、きっと大丈夫だ」
教室を出て、帰り道を歩きながら、ニコラスはふと、この六年間の学園生活を振り返っていた。入学したばかりの頃は、右も左も分からない状態だったが、今では、かけがえのない仲間たちと共に、大きな目標に向かって歩んでいる。
「卒業試験、あと一ヶ月か」
小さく呟くニコラスの言葉に、隣を歩くシャルロットが頷いた。
「あっという間ね。でも、皆で乗り越えれば、きっと大丈夫よ」
「ああ、そうだな」
冬の澄んだ夜空の下、五人はそれぞれの決意を胸に、卒業という大きな節目に向けて、着実に歩みを進めていくのだった。
翌日の放課後、勉強会の合間に、フェリックスがふと思い出したように言った。
「そういえば、ガレスも、剣術の実技試験、相当力入れてるらしいぞ」
「そうなんですか?」
エミリーが興味深そうに尋ねた。
「ああ、卒業後は、レイモンド家の跡取りとしての務めもあるみたいだからな。実技試験、絶対に良い成績を残したいんだと」
「頑張ってほしいです」
エミリーの言葉には、応援の気持ちが素直に滲んでいた。
「エミリーも、卒業後、ガレスとはどうするんだ?」
フェリックスの何気ない問いに、エミリーは頬を赤らめた。
「そ、それは……。まだ、はっきりとは分からないですけど……。できれば、これからも、繋がりを持っていたいとは、思っています」
「なるほどな」
フェリックスがニヤリと笑うと、エミリーは慌てて話題を逸らした。
「そ、それより! 勉強会、続けましょう!」
「はいはい、わかったよ」
賑やかなやり取りに、教室中が温かい笑いに包まれた。
そんな和やかな雰囲気の中、シャルロットがふと真剣な表情になった。
「ねえ、皆。卒業試験が終わったら、皆で何か、記念になることしない?」
「記念、か。いいアイデアだな」
ニコラスが興味深そうに頷いた。
「例えば、これまで作ってきた発明品を、一つにまとめた記念展示とか、どうかしら」
「それ、いいですね! 私たちの軌跡を、形に残せます」
ソフィアが目を輝かせながら賛同した。
「よし、それじゃあ、卒業試験と並行して、その企画も練っていこう」
ニコラスの提案に、皆が力強く頷いた。卒業という大きな節目を前に、新しい目標が、また一つ、五人の胸に灯っていった。冬の澄んだ夜空の下、着実な歩みは、まだまだ続いていく。
第103話へ続く




