【閑話】子猫には敵わない
ロア目線でのお話しです。
最近というか、しばらくロアさんの存在感が薄い気がして・・・。
「あっ、あっ、ヴィーちゃん、もうちょっとだけ我慢して?」
「にゃぁーん」
「あと一本だけだから!」
「にゃぁ・・・」
「―――うん、よし。これで全部かな? 切らせてくれて、ありがとう。おりこうさんね」
「ぼく、ぼく、いっしょうけんめ、がまんしたにゃー」
「ええ。とってもえらいわ、ヴィーちゃん」
「うふふ、ごほうびのちゅっちゅ、うれしいにゃー」
喜びのあまりくねくねとリサの膝の上で転がるヴィオに、たくさんキスをしたあとは優しくヴィオを撫でて微笑んでいるリサ。
僕はいったい何を見せられているのか、おわかりになるだろうか。
これはリサとヴィオのいつもの単なるいちゃいちゃ・・・ではなく、今回はお察しの通りにリサがお風呂上りのヴィオやチビ達の爪切りをしているだけなのだ。
チビ達は普段からリサにあれこれとお世話をしてもらって、爪を切られただけで褒められて、さらにキスやハグをされ放題なのは一体どうしてなのか。
正直ちょっと・・・いや、かなり。ぶっちゃけると、すごく羨ましい。できれば今すぐにヴィオと場所を替わりたいくらいだ。
おまけに翼猫妖精族のチビ達は、これからされる爪切りを抵抗をするかのように、リサの胸や脚をふみふみしているのだ。いや、あれは単に甘えているのか? ずいぶんと楽し気に見える。
だが、あの柔らかな肌に少しでも傷をつけたら、子猫とて僕は許せないだろう。
・・・まぁ子猫の細い爪は普段からよく切っているし、そこまで鋭くは無いだろうが、果たしてこの「お胸ふみふみ」を許しても良いものだろうか・・・いや、許してはならないはずだ。
まぁ僕の許しなんかは必要ないんだろうけど。
・・・そう思って少しだけ気落ちした。
「ロア、顔に出ています。大人げないですよ・・・」
先ほどから僕らを遠目から見守っていたのは、今は僕の剣技の師匠であるゾフィさんと、猫妖精族のミケネーさんだ。
そしてどうやら師匠は、僕の胸の内を正確に読み取っているようだった。
「ぼ、僕は、別に・・・」
思わず言い訳が口を衝きそうになったが、ぐっと堪える。僕の気持ちを察しているであろう師匠には、どうせすべてお見通しなのだろうから。
それに言い訳をするなんて格好悪すぎる。
でもすでに二人からは残念な子として見られているような気がするけどね・・・。
「はい、じゃぁ次はハチワレちゃん達ね。まずはアール君からかな?」
もし僕が猫だったら、あの柔らかな胸に抱かれて優しい声で「はい、おててを出して」なんて言われたら、ホイホイと喜んで手を差し出すに違いない。爪切りだろうが何だろうが嫌がらず、ものすごく協力的になるだろう。
そんな僕の胸の内など知らずに、リサは柔らかに微笑みながらふみふみをしていた子猫を抱え直して爪切りを続けている。
気の進まない子猫をあやしながら爪切りをするリサは少し大変そうではあるけれども、爪を切られているアールと一緒で何だかんだ楽しそうだし、どうやら僕が手助けをする必要は無さそうだ。
・・・ほんと、子猫っていうのは得だよなぁ・・・。
「ロア、子猫を羨ましく思っても仕方がないですよ。リサ嬢がおチビさんに弱いのは承知の通りです。それこそ、あれこれと気にしていたら身が持たないのではありませんか?」
「はい・・・」
「はっはっは、そうですぞ。それに「ふみふみ」は幼い子供のする仕草ですから、大目に見てあげなければ。・・・まぁ私はネオとよく「ふみふみ」をし合いっこはしますがね・・・ゲフンゲフン」
・・・やめてよミケネーさん、思わず想像しちゃったじゃないか。
あとさ、ゲフンゲフンってするのがちょっと遅すぎない?
「でも確かに、うちのヴィオは畏れ多くも愛し子様と相思相愛のように見えますなぁ。・・・ふむ。うちの子はいずれロア殿の好敵手になるかもしれませんぞ?」
最初は冗談ぽかったのに、ミケネーさんの願望も入っているのか、だんだんと真面目な声色になってそんな事を言ってきた。確かにその未来は、一番あり得そうな気がしてならないが。
僕が思わず黙って考え込んでいると、それを気にしているとでも思われたのだろうか・・・師匠が思わぬ提案をしてきた。
「ロアは獣人という事もあって年の割に身体が大きい方ですが、実際には大人とは言えない年齢でしょう?・・・今はまだ君だってリサ嬢に甘えても良いんじゃないですか?」
「そうですなぁ、確かに子供のうちしか出来ない事はやっておくべきですぞ。なにせ子供が大人になるのはあっという間ですからな。あと無条件に甘えるのも子供の特権と言えますぞ」
特権・・・そうなのかな?
まぁ大人になって甘えるのは、なかなかに難しい事なのかもしれない。
「最近ここは子供が増えましたし、リサ嬢はそちらに掛かりきりになっていますから、ロアの寂しく思う気持ちも分かります。ふむ・・・どれ、ミケネーと私は席を外しましょうか」
「そうしましょう。・・・いっそロア殿も獣化して、爪を切ってもらうなり、お胸をふみふみをしたりと、子猫たちのように甘えさせてもらっては?」
ちょっと待ってほしい。大人の二人が何かとんでもない事を言い出したけど、自分にそんな事ができる訳がないでしょう。
あの子猫たちと同じように振舞えと言われても羞恥が勝って出来ないだろうし、そもそも身体だけはとても子供には見えない僕には無理筋な話だ。
しかもただでさえ僕は年下で、普段からリサには弟のように扱われているのだ。さらに子供っぽい内面を晒してしまったら、もう男として少しも意識して貰えないんじゃないだろうか。
・・・そんなの悲しすぎる。
ましてや「ふみふみ」なんて・・・・・・いや、ちょっとだけ心が揺れたように思うのは気のせいだ。うん、そうだとも。
それに僕が普段から獣化をしないのにも理由がある。
それはリサに「ひとりの男性」として僕を少しでも意識してもらいたいという、少し情けない理由からだ。
やはりどうしても「獣」の立ち位置では、リサから男として見られない気がするのだ。これも異種族ならではの悩みではあるのだが・・・。
「・・・良いんですよ、僕のことは。リサが楽しいなら何も言う事はありません」
そう言って、二人からの提案を・・・少しだけ惹かれた提案を、無理やり振り切ったのだった。
だから二人して「やせ我慢ですなぁ・・・」とか「無理してますね・・・」とか言わないでください。自分でも自覚はあるんですから・・・。
やっぱりどうしたって子猫には敵わない・・・そう悟った、とある日の銀狼少年なのだった。
お読みくださりありがとうございます(^v^)
ちょうど2月22日(ニャンコの日)でしたので、短かくともネコさんのお話しを・・・と思っていたのですが、書いてみたら結局はロア目線のお話しになりました。
ところで巷では可愛いネコさんの画像や動画をたくさんお見かけしますね。シェアしてくれてありがとうございます、と感謝しながら拝見しています。
どのネコさんもほんと可愛いです。




