239.猫玉の使い道
「ゾフィさんはどういった経緯でその猫玉を持っていらしたんですか?」
正直なところ、自分が猫玉を持っていないので気になってしまった。
・・・もしそれが「友情の証」とかだったら、貰えていない自分はちょっとだけいじけてしまいそうだけど。
「それはですねぇ・・・」
「あぁ、それは私からご説明しましょう。なにせ私はその猫玉を作成した本猫ですからね」
ゾフィさんが説明しようとしてくれたのだけど、その横で手を挙げたのはミケネーさんだった。
「まず、猫玉というのはいくつか種類かあるのですよ」
ほうほう。種類が・・・。
「まず基本的に猫は、我々猫妖精族の匂いで寄ってきますからね。慕ってくるといいますか・・・。いわば『この匂いは安心』という本能で嗅ぎ取るようなものでして」
うんうん、なるほど。
「先ほどレオが『礼に』と言っていたような猫玉は、効果としては持つ者は単純に猫に信頼され好かれるというもので、猫寄せというのはそれに伴う効果です。ですからレオがあの工房の庭にでも猫玉を置いておけば、そこは猫にとっては『猫妖精族のお墨付き』の場所となる訳ですな」
ネオさんもミケネーさんのお隣で頷いている。
きっと猫さん業界では常識なのだろう。
「且つ、その猫玉を個々に渡す場合は、同等の友人への友情の証、もしくは子供など目下の者への護りのためになります」
なるほど・・・これはやはり友愛の意味合いが強そうだ。
「コホン。ここで誤解が無いようにしておきたいのですが・・・今まで愛し子様にお世話になった猫妖精族がリサ様に猫玉をお渡ししていなかったのはどうしてかと不思議と思われた事でしょう。何故ならば、それは愛し子様が遥か上位の存在だから故なのです。先ほどの猫玉を『御礼』として上位の御方にお渡しするのは失礼にあたると言えばお分かりになりますかな? 同様に女神様の眷属である大白鷲様や、神樹の精霊様方にもご同様です!」
「そ、そうなんですか・・・」
熱の入ったミケネーさんの説明に少々気圧される。
上位の存在って言われるのはいまいちピンとこないけど、そういう理由があって私が猫玉をもらったことが無いのなら、しょんぼりする必要は無いのかもしれない。
私はここにいる皆をすでに友人と思っているし、もう家族同然のように思っているから猫玉にこだわる必要もないのだけど・・・でもちょっと気になっちゃったのも事実だから、知ることが出来て良かった。
「その昔、私はゾフィに友情の証として彼に渡したのですが・・・この男は律儀にずっと鞄の中に入れていたようでして、それが彼の後ろをゾロゾロと野良の猫が付いて回った、という逸話に繋がるのですが」
「いやぁ、お恥ずかしいです。ミケネーに言われるまで気がつかずに、ずっと猫玉を持ち歩いていましてねぇ・・・気づけば猫が周囲にたくさん集っておりました」
「あれは、私も説明不足だったと反省したよ・・・。久しぶりに再会した時に、たくさんの猫を引き連れてやって来たのには驚いたぞ・・・」
ちょっと照れながら話すゾフィさんと、どこか遠くを見ながら話すミケネーさんが妙に対照的だった。
ゾフィさんはあれだな・・・きっと猫さん版のハーメルンの笛吹き状態だったんだろう。
そのゾフィさんが猫さんをぞろぞろと連れていた間、どうやって過ごしていたのか非常に気になるけども、これは空気を読んで後でこっそりと聞いてみる事にする。
「ふふ、そうでしたか。じゃあ、あと他にはどんな効能の猫玉があるんですか?」
「ほ、他の猫玉ですか・・・えー、それは何と言いますか・・・」
ミケネーさんがちょっと言いづらそうだ。あれ? ちょっと目が泳いじゃってる・・・?
お隣のネオさんも片方のおててで目を覆っちゃって「あちゃー」的な表情をしておられますけど・・・?
「他の用途の猫玉は、その・・・求愛とか、恋の駆け引きに使うものですな。えー、つまり雄が意中の雌の気を惹くために匂いをつけた物でして・・・」
恋の駆け引き・・・気を惹く・・・?
それって異性を惹きつけるという、フェロモンみたいな匂いのことかしら。それを猫玉に?
「ちょっとだけ惚れ薬のような効能もあるような・・・・いや、そこまでは無いような・・・?」
あれ、ミケネーさんの話し方が急に歯切れが悪くなっちゃった。ヴィーちゃん達お子様の前だから言い方を濁しているのかも。
気にはなるけど作り方とか使い方なんかは聞かないでおこう・・・。何だか秘密めいた事のようだし、他種族が興味本位で聞いてはいけないような気もするし。
なんとなくそのまま皆が黙ってしまっていると、私の膝上にいたヴィーちゃんが周囲を見回し、可愛らしい声をあげた。
「パパにゃん、それってぼくもつくれるにゃ? どうやってつくるにゃ?」
あっ、あっ、ヴィーちゃんがストレートに聞いちゃった。
ヴィーちゃんも気になるのね? でもまだちょっと恋の駆け引きをするお年頃には早いと思うのだけど・・・。
「うん?・・・そうだなぁ、まだ子供のヴィオには早いと思うが、作れるぞ。―――作り方はな、」
「あなた」
すぐさまおくちをネオさんのにくきゅうに遮られているミケネーさんであった。
ネオさんのおてての稀に見る動きの速さよ・・・。シュッて音がしたよ・・・風圧かな?
これはやはり、作り方は門外不出という事で・・・もしくはお察しとでもいうべきか。
大人たちの醸す何とも言えない空気感の中、そこでまたヴィーちゃんがにこにこと私に向かって語りかけた。
「ぼく、作ったらリサちゃんにあげたいにゃー」
え・・・っ! 私にくれるの? どうしよう、胸がキュンってしちゃった!
思わず嬉しくなってヴィーちゃんを撫でる速度が上がってしまう単純すぎる私。おまけに抱き上げて、ちゅっちゅもしちゃうぞー。
そして私がヴィーちゃんを思いのまま撫でたり愛でたりしているその横で、隣のロアが「惚れ薬・・・それって実在するのか・・・? いや、でも・・・」と何やら真剣に考え込んでいるようだった。
意外なところに食いついているというか、どうしたの、ロアさん・・・。君は普通にしててもモテるんだから、惚れ薬なんか使う必要は無いと思うよ?
あとその「惚れ薬」って猫妖精族さんにしか効かない可能性もあると思うな。
「ま、まぁそんな用途もある猫玉ですが、あとはちょっと変わったところでは猫魂もありますな」
「えっと・・・それはどういう?」
なんだか私の脳内では「猫の魂」と変換されているんですが・・・。
「ええ、猫玉の最高峰ですな」
最高峰て・・・
なんだかすごい物が出てきそう。
「その『猫魂』というのは、いざという時に我が身の「身代わり」にもなる、まさに分身でして・・・」
「分身・・・? まさか、分身の術とか?!」
思わず有名な忍術を咄嗟に思いついてしまい、ついそのまま声に出してしまった。
「おぉ、愛し子様はご存じでしたか!」
「いえ、あの、知っているというか、聞いた事だけはあるような・・・」
ええもちろん、こちらの世界基準では無いのですが。
「猫妖精族の『猫魂』は、いわば自分の分身を作るものでして、いざという時の最終手段にもなります」
「最終手段・・・?」
思わずゴクリと唾を飲んでしまう。
「危機一髪!という時に使うと『猫魂』が身代わりとなるのです。大きな声では言えませんが、猫妖精族の秘術ですぞ!」
そうなんだ・・・。
だけどいいのかな? 秘術なのに思いっきり大きな声で言っちゃってますけど・・・。
まぁこれは作り方とかも分からないし、おそらく使えるのも猫妖精族だけで、ここにいるのは知られても問題の無い身内だからだろう。
「ただ・・・自分でも気がつかない間にうっかり石になっていたりすると、肝心の『猫魂』を発動する事も出来なかったりするのですが・・・」
しゅん・・・と、先ほどまでの勢いが失速するミケネーさんだった。
確かにメメさんの洞窟では・・・。うん、そういう使えないケースもあるのね。そこまで万能とはいかないのかも。
「ミケネーはいざという時の『猫魂』を持っていましたから、私も彼が行方不明になった時も命の危険までは心配はしていなかったのですけど・・・。まさか使えずにゾフィさんと一緒に石像になっているなんて、流石に思いもよりませんでした」
ホント、下手をしたら『猫魂』も使えず、あのまま砂になってしまった可能性もゼロではなかったものね。
そうならなくって本当に良かったよ、ミケネーさん・・・。
『いやはや面白いのぅ。猫妖精族もそのような秘術があるんじゃな。これは特定の種族しか使えぬ妖術じゃろうが、興味深いのぅ』
それまで黙って私たちの話を聞いていた真珠爺様だったけど、興味が勝ってしまったようだ。
『おそらく翼猫妖精族や大猫妖精族にも各々そういった術を秘しているのじゃろうて』
「むぅ・・・それは、確かに。私の知らない術もありそうです」
ミケネーさんも知らない妖術か・・・どんなものか私もちょっと気になる。
その話のタイミングで、おそらく自分たちが呼ばれたと思ったのだろう、翼猫妖精族のハチワレちゃん達が飛んできた。私の肩や膝上に着地をして、シータ君はヴィーちゃんと仲良く並んでお座りして、お互いのほっぺをスリスリしてるのがとても愛らしい。
「ふふ・・・いまね、君たちの話題も出ていたのよ。翼猫妖精族さんには特別な術があるかも、っていう話でね」
「とくべつな術ニャ?」
「しらないニャー」
「・・・ニャ」
君たちも大人になったら使えるのかな? それとも先達からその術を学ぶのかな。でもそれにはまず、はぐれてしまった一族の皆との再会を果たさなくっちゃね。
また明日から地下迷宮に潜る予定だけど、君たちの故郷に繋がる道を探したり、ベアちゃんを行方を探したり、薬草を探したり、忙しい日々が始まりそうだ。
・・・そういえば千年亀の千さんも、地下迷宮ではぐれたお連れさんを探すとか言ってたっけ。
なんだかやたら尋ね人や探し物が多いなぁと思う反面、毎日は忙しくも楽しいと思うのも事実で・・・。
こういう何気ない毎日を積み重ねられること、それが幸せに違いないと思うリサなのだった。
お読みいただき、ありがとうございます(^v^)
皆さんはバレンタインを楽しめましたか?
ちなみに私はおいしいチョコは自分で食べちゃう派です。
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