238.猫玉の作り方
あの後エランドさんが持って来てくれた資料を見せてもらい、その「増毛剤」のレシピが載っている資料はギルド外の持ち出しは禁止だったので、メモだけ取って我が家に戻ったところだ。
ギルドにあった資料には「増毛薬」以外にも色々と惹かれるレシピがあったので、時間がある時にもっとじっくりと拝見したいものである。
だって「脱毛薬」や「美髪薬」なんていうのもあったからね。・・・これってもはやコスメの範疇よね?
「しかし本当に苔がレシピに書いてあったとは・・・」
「びっくりよね・・・」
ロアとも「苔も使われてたりして」なぁんて笑って話をしていたけど、本当に「増毛剤」を作る素材に苔が入っていたのだ。
ただしそのレシピには「ケケゴケ」とあったので、微妙に種類が違ったけど、名前からして私の持っている「ネコケケゴケ」は亜種とか近縁種かもしれない。
「あとの素材は何だっけ・・・フサフサ草とモッサリ草・・・?」
なんだかどちらも髪の毛に効きそうな薬草名ではある。というか、もうそれ専門の薬草なのではないだろうか。
どちらも主な植生地は北方大陸だそうで、どうやら遠方すぎて薬師ギルドへの入荷が途切れているようだ。
冒険者さんとかに採取依頼はしていても長距離のため生薬での入手は出来ず、乾燥したものがやっと手に入るくらいだそう。その距離を考えると生薬が入手がし辛いというのは納得だけど。
「しかもフサフサ草は高山植物だからかなり標高の高い山なんかにあるみたいよ。あとモッサリ草は湿地帯に多いらしいわ」
「どちらもこの辺には無さそうだね」
「そうよね。今までは行った場所はほとんどが中央から南方の大陸だったし・・・」
これは北方大陸に行かないと採取は無理かもしれないなぁ。
どうやってそこまで行こうかしらと考えていたら、ゾフィさんにアドバイスをいただいた。
「それでしたら、地下迷宮にはあるかもしれませんよ」
え? 地下迷宮に?
「地下迷宮では魔穴を通り抜けると気候がまるで違う事が多々あるのです。なので高山や湿地のような気候と似た場所でしたら、おそらくあると思います」
「でしたら先日行った迷宮で違うルートを選べば・・・」
「ええ、可能性は高いと思います。・・・ただその薬草があるかどうかはわかりませんが」
確かに、迷宮はまだまだ探索のし甲斐がありそうよね。正直、前回はさほど深くまでは行ってないし・・・。
とりあえず探しに行ってみるのはアリよね。
「では、また私たちの出番ですな!」
そう言って同行を買って出てくれたのはミケネーさんだ。
そう、前回は迷宮での進路を猫妖精族の子供たちのしっぽ占いで行き先を決めたっけ。あのおかげで千年亀さんと出会えただけに、あれはなかなかのご利益があると見た。願えばもしかしたら今回は高山地帯なんかを選べるかも・・・?
地下迷宮で目当ての薬草が見つからなかったら、大白鷲さんにお願いして久しぶりの空の旅をお願いしてみよう。
どちらにせよ北方大陸はいずれは行ってみたい場所なのだし。
「またミケネーさん達に一緒に行ってもらえたら、すごく心強いです!」
「もちろんです。道に悩んだ時はぜひ我ら一家にお任せください! しっぽは善き方向を示す事でしょう!」
そんな私たちの会話をすぐ横で話を聞いていたのは茶トラのレオさんだ。彼もミケネーさんに続けとばかりに、すぐに肉球を挙げていた。
「私も迷宮は非常に興味があります。ぜひ私もお連れ下さい」
うん、今回も多くの猫さん達と迷宮に向かう事になりそうだ。
そんな話をコーヒーブレイクにやって来た真珠爺様にもご報告。
『ふむ・・・ケケゴケか。同じ苔類なのは間違い無さそうじゃな』
「この間カフィの精霊様にいただいたのは『ネコケケゴケ』なので、それとは少し違うようなんですけど」
『あのネコケケゴケは確か上位種じゃろう。しかも希少種というやつじゃな。下位でなければ代用は出来ると思うがのぅ』
「え、それだったらフサフサ草とモッサリ草が見つかれば、増毛剤は出来ちゃいそうですね」
『うむ、おそらく可能だと思うが・・・そなたは普通の茶をもポーションにする腕がある。もっとすごい物が出来るかもしれないのぅ』
そんなことを宣う真珠爺様だけど、いやいや、そんなハードルを上げないでくださいよ。確かに私の中にあるという、魔力とか神力の作用は多少あるかもしれませんけど。
特に今回はレオさん達のお仲間のために安全な「毛生え薬」を作りたいだけなので、まずは抜け毛の原因を特定して、それを取り除きたいところですけどね・・・。それこそ私のなんちゃらパワーが役に立たないだろうか。それこそ使いどころがあれば良いのだけれど。
でも本当に抜け毛の原因って何なのかしら・・・。
レオさんの丸く脱毛している箇所は、かゆみや痛みなんかも無いそうだから、普通に生活する分には支障が無いというのが救いだ。あと最近は患部にうっすらと産毛が生えてきたようで、時間は掛かってもいずれはちゃんと元通りになりそうだと言っていた。
でも全身が抜け毛のために肌が露出しているという猫さんはやはり大変そうだから、早くその無防備な状態を治してあげられたらと思う。
薬師であるエランドさんに聞いたけど、人と猫妖精族では種族も違うから同じ薬が効くかはわからないとの事だったし、原因が判らないと使う薬も違ってくるだろうとも言っていた。確かにそれはそうだよね・・・。
だから人族の「増毛薬」も、あくまでレシピを参考にする程度になると思う。
フサフサ草とかの薬草にビワの葉とか桃の葉とか、お肌に良さそうな我が家の素材も混ぜてみようかな・・・などと、私は頭の中で色々とブレンドを考えていたりする。
『うーむ。その抜け毛の原因じゃがのぅ・・・』
「真珠爺様、何かお心当たりでも?」
『心当たりというか気になっておる。・・・妖精界と人間界というのは表裏一体というか、ほんの少しだけズレた同じ場所にあるというのは知っておるか?』
「えっと・・・すいません。正直その辺の事はよく分かってないです・・・」
猫妖精族の住んでいる森は普通は人間がたどり着けない場所というのは聞いた事があるけれど。
『簡単に言えば、人間界で起こった出来事が妖精界にも影響があるという事じゃな。逆も然り、なのじゃが・・・』
「嵐とか、火山の噴火とか・・・そういう事でしょうか?」
『そうじゃな。人間界で何かしら大きな環境の変化があって、茶トラの一族が住む場所に影響しているのやもしれん。その辺りも一考しておくべきじゃろう』
そうか・・・人間界で何かあっても、妖精界で何かあっても、それは表裏一体の同一世界・・・何かしら連動しているという事かな。
レオさんの集落だけでなく、その周辺も広く調べるべきなのかもしれない。
どちらにせよ、これは現地に行ってみないと分からないか。
「教えて頂きありがとうございます。調べる時にはそのあたりも留意してみます」
その後も色々とアドバイスをもらったのは有難かった。流石、年の功(※千年単位)だわ・・・。
そして元々レオさんは、何かしら治療のヒントが得られたら仮住まいにしていたエステバン工房を離れ、故郷の集落に戻るつもりだったらしい。
この薬草の採取が成功したら一旦帰郷するという事だったので、その時に一緒について行ってみようかと思っている。レオさんも是非にと言ってくれたしね。
でもエステバン工房のモニカさんは、きっとレオさんの姿を見なくなったらすごく悲しむだろうなぁ。・・・それだけが少し気がかりだ。
その懸念をレオさんにしたら「いえいえ、今は私があそこに居座った事で、ほかの猫らが遠慮してるのですよ。私が姿を消せばむしろ喜んで戻ってくるでしょうから、寂しくはならないと思います」と言っていた。
それだったらモニカさんも大丈夫か・・・? でも帰郷の前にご挨拶はちゃんとしましょうね。
でもレオさんが猫妖精族というのは秘密だから、言葉では出来ないか・・・。
「そうですね・・・では、あの工房には世話になった礼に、私の『猫玉』を置いて行きましょう」
猫玉・・・? なんですか、それ。にゃんたま・・ではないですよね?
私が?マークを飛ばしているのが分かったのか、レオさんが説明してくれた。
「あぁ、猫玉をご存じありませんか? こう、自分の抜け毛を丸めて尻の匂いをつけたもので、これは猫寄せの効果があるんですよ」
なかなかに強力な猫寄せのアイテムだという。
おしりのにおい・・・って、あれか。猫さんにある肛門腺のことかな・・・?
我が家でもブラッシングした猫さんの抜け毛はたくさんあるけれど、なかなか捨てられず、普通に丸めておくとかなりの量になっている。
知らなかった・・・あれに匂いをつけたのが「猫玉」って言うんだ・・・。
いや、これたぶん一般的では無いな・・・? 普通の猫さんは自ら作成はしないだろうし・・・。
「あぁ、確かにあれを持っていると、野良の猫がゾロゾロと後ろをついてきちゃうんですよねぇ」
え、ゾフィさんも知っているの? ・・・どういう用途で持っていたのか気になるけど。
・・・それ、猫好きさん垂涎のアイテムなのでは・・・?
初めて行く「猫カフェ」に持って行ったら猫ちゃんにモテモテになる夢のようなアイテムとか・・・?
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
今日は関東各地も雪・・・寒い一日でしたね。少しの雪でも交通などに影響がでているようです。大雪のところの大変さはいかほどでしょうか・・・。
みなさま、どうぞ気をつけてお過ごしくださいね。
ブックマークやいいねをありがとうございます。
おかげ様で、たいへんモチベーションアップになっております~(^v^)




