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235.ふたたび王都の工房へ

 

「じゃぁ、今日はこれからこのネコメメゴケを乾燥させまーす」


 私はザルの上に苔を重ならないように広げ、縁側に干す作業を続ける。単純作業だけど、ヴィーちゃんとハチワレちゃん達が見守ってくれているのは嬉しい。

 この苔、私は匂いは感じないのだけど、子猫さんたちはお鼻を近づけてスンスンと嗅いだりチェックに余念が無い。


「今回はね、メメさんの洞窟からもらってきたこの苔を乾燥させたら、あの地下迷宮にあった苔と一緒に混ぜてお茶にしようと思ってるの」


「リサちゃんがくろねこちゃんになる、ふしぎなお茶にゃ?」


「そう、あのお茶よ」


 私が飲み過ぎたらなぜか全身が猫に変化しちゃったけど、本来は違う効能がメインなのよね・・・。

 ルーカス様もこの苔茶のポーションとしての効能に期待をしてくれているのだけど、もう少し効果を薄めた方が安全だし、何より使いやすいと思うので、今回は色々と割合を変えたブレンドで作ってみたい。


 でも亀の千さん・・・個人的には呼び名はもう「亀仙人」でいいんじゃないかなって思っている・・・その彼が、お茶の効能で早く動けて喜んでいたし、これからは定期的に作る予定だ。


 ザルをいくつか並べて干し終えると、ふと周囲が静かになったことに気付く。

 そのお日様が当たった縁側が気持ちよかったのか、ヴィーちゃんもハチワレちゃん達も船を漕ぎ始めていて、今にも眠ってしまいそうだ。

 丸くなった彼らの背中をそっと撫でていると、あっという間にコテンと夢の中に落ちてしまった。


「ふふ、確かにここはお日様が当たってぽかぽか気持ちいいものね」


 こんな優しいお日様の誘惑には勝てないね。

 幸せそうな可愛い寝顔をこのまま見ていたい衝動に駆られるが、ここはぐっと我慢。


 さて、私はもう一仕事が待っている。

 実はこれからミケネーさんをエステバン工房にお連れする約束があるのだ。


 このエステバン工房というのは、以前コーヒーに使う茶漉しを作ってもらうのに訪れた王都の工房で、私がとても人懐っこい茶トラの猫さんと出会った場所だ。

 その時に思う存分モフらせてもらい、その匂いを盛大につけたまま帰宅してヴィーちゃんのご機嫌を損ねそうになったきっかけの場所でもあるのだが。


 あの時、ヴィーちゃんが「ほかのネコさんのにおいがするにゃ・・・」と言った時の悲しそうなお顔が忘れられない。

 私にとってもトラウマになりそうな出来事であるが、あの日ミケネーさんに「その場所に行ってみたい」と請われ、今日お連れする事になっていたのだ。

 これで私もようやく延び延びになっていた、大猫妖精族ジャイアント・ケット・シーさんのところで採取した熊笹を持ち込む事ができる。


 なので今回はヴィーちゃんも誘うつもりだったのだけど・・・


「ふむ、ヴィオは寝てしまいましたな・・・」


 様子を見に来たミケネーさんが、ヴィーちゃんの寝顔を覗き込んで考え込んでいる。


「どうしましょうか・・・こんなに気持ちよさそうだと起こすのも可愛そうですよね。・・・今回は私達だけで行きますか?」


 眠っているヴィーちゃんを連れて行って、もし街中で目が覚めていつものように普通に話しちゃったら一発で普通の猫さんとは違うとバレてしまうだろう。


 もちろんその場合はすぐに逃げてしまえばよい話なのだけど、できるだけ危険は冒したくない。

 もし悪い人に狙われて、ヴィーちゃんが攫われちゃったりしたら大変だもの。ただでさえこんなに可愛いのだからもの凄く危険だわ。


「そうですなぁ・・・では子供達は留守番で、私とネオだけ連れて行ってもらいましょうか」


「ゾフィさんとロアも一緒ですし、そのくらいの人数の方がきっと無難ですよね」


 あんまり大勢で街中を移動すると目立つ気がするし・・・ただでさえゾフィさんとロアが街中の女性の視線を集めていたし、その上に猫ちゃんをたくさん連れていたら子供達もわらわらと集まってきちゃいそう。


「マオちゃん、リオちゃん、今回はお留守番を頼めるかしら?」


「もちろんよ。任せて!」

「・・・まかせて」


 少し離れたところで丸くなっていた二人に声をかけると快諾してくれた。

 大白鷲ホークさんやガーブさんもいるから大丈夫だとは思うけど、まだ小さい子猫さんたちは目を離すのは心配だ。


「おみやげ、たのしみにしてるね」

「・・・たのしみにしてる」


 もちろん二人にはお土産を買ってくる約束をして、私たちは王都にある城下町へと向かった。

 王都でのお土産っていうと、例のヤンデレ熊の置物を思い出すけど、二人にはもっと可愛い物を探したい。




 訪れた久しぶりの王都は、変わらずの賑わいだった。


 そしてゾフィさんとロアの注目度も前回と変わらずである。今日なんて二人とも外套についているフードを深めにかぶっているのに。

 私も黒髪が目立つという理由で帽子を被らされているけど、いっそ不要だった気がしてきた。

 だって二人が目立ちすぎて、私なんて目にも入っていないようだもの。


 しかも二人はミケネーさんとネオさんを抱いて歩いているから、さらに注目されてしまっているようだ。美形の二人が可愛い猫さんを抱っこして歩いているなんて、スターがスポットライトを浴びているようなものだものね。


 例のヤンデレ熊さんが置いてある雑貨屋さんを横目に見つつ、私たちはエステバン工房へ無事に辿り着いた。


「こんにちはー」


 ドアをくぐると、カランコロンと良い音がする。

 その音を聞きつけて顔をだしてくれたのは前回も対応してくれたモニカさんだった。


「あら、いらっしゃい! まぁまぁ、今日は猫ちゃんを連れてきてくれたの?」


「そうなんです。あの茶トラの猫ちゃんが居たらぜひ会わせてみたくて・・・いいでしょうか?」


「もちろん構わないわ。たぶん裏手で日向ぼっこでもしているんじゃないかしら。よかったらその勝手口から行けるから回ってみて?」


 そう言ってそのドアを指差すと、自分はお茶を淹れて来ると言って早々に奥へ消えてしまった。


 ゾフィさん達とその工房の裏手に回ると、すぐにお目当ての茶トラの猫さん居て、気持ちよさそうに日向ぼっこをしている最中だった。


「おぉ・・・」

「あら、まぁ・・・」


 思わず、といった風に声が漏れたのはミケネーさんとネオさんだ。

 私がどうしたのかと二人を見ていたら、こちらを向いて説明してくれた。


「・・・やはり、あの茶色の猫は猫妖精族ケット・シーのようですぞ!」

「ミケネーの予想通りでしたわ」


 待って?

 あの人懐こい茶トラの猫ちゃんが猫妖精族ケット・シーだったの?! そんな話、聞いていなかったですよ?! ここに来たいと言ってたのも、ただ工房を見てみたいだけなのかと・・・。

 私が驚きにあんぐりと口を開けていると、さらに話は続いた。


「前に愛し子殿が王都から戻った時に、他の猫の匂いがしたことがありましたな。あの時はヴィオも反応しておりましたが・・・。その匂いに覚えがあったもので、もしやとは思っていたのですよ」


「ミケネーは、ずいぶん前ですけど交流のあった猫妖精族ケット・シーじゃないかと、言っていましたのよ。相手もミケネーの匂いを分かって、リサさんに自分の匂いを付けたのでは、とも言ってましたの」


「いやぁ、予想が当たりでしたなぁ!」


 そう言って、嬉しそうにミケネーさんが茶トラの猫さんに近づいてゆく。

 すると、お目当ての茶トラ猫さんもこちらに気がついたのか、ゆっくりと顔を上げた。


「・・・お、来たか。久しいなぁ、白の」


「いやぁ久しぶりだなぁ!」


 そう言って二本足で立ち上がり、お互いに腕を回してハグをし合っていた。


「本当に猫妖精族ケット・シーさんなのね・・・!?」


 驚いている私に、ハグを解いた茶トラ猫さんがそのままの二本足で歩み寄って来た。


「愛し子様とお見受けしました。あらためてご挨拶させていただきます。猫妖精族ケット・シーのレオと申します。以後お見知りおきを・・・」


 そう言って、私の手を取り、うやうやしく指に口づける。


 その紳士的なご挨拶にも驚いたけど、それよりも猫妖精族ケット・シーが普通の猫さんに擬態して工房に棲みついていたことにも驚きが隠せない。

 もちろん工房のモニカさん達もきっとレオさんの正体を知らないだろう。

 でも何で猫妖精族ケット・シーがこんなに人が多い王都の町に?


「話せば長くなるのですが・・・おっと、そろそろ人がきますので、この話はまた・・・」


 そう言って先ほど日向ぼっこをしていた場所に戻り、レオさんは香箱座りを決めていた。

 話を合わせるように、ミケネーさんとネオさんも同じように近くで香箱座りをすると、三人仲良く日向ぼっこを始めるのだった。


「えっと・・・」


 私はどういう態度をとればいいのか悩んだけれど、とりあえず茶トラさんの背中を撫でさせてもらいながら、お茶を淹れて持って来てくれたモニカさんの足音を聞いていた。



「まぁ、猫ちゃんたちが仲良くなれたみたいで良かったわ。この子、なかなか他の猫を近寄らせないんですよ。孤高というか、何というか・・・。私にも相変わらず抱っこもさせてくれないですし」


 そう話ながら近くにあったテーブルにお茶を置いてくれた。

 椅子を勧めてくれたので、私たちはしばし猫さん達と離れて座る事にする。



「ところで、今日はどのような?」


 雑談の後にモニカさんが話を切出してくれたので、私は持ってきた袋から大きな熊笹をお見せする。


「これなんですが・・・」


「まぁ・・・! これは竹ですか? きれいに裁断加工までされていますけれど」


「魔竹ではないんですけど、熊笹っていう種類らしいです。こちらのゾフィさんが乾燥から加工までを手伝ってくれまして」


 ゾフィさんが風魔法を駆使して加工をしてくれたんですよ。ホント、万能エルフさんです。


「これでしたら、もうすぐにでも加工ができる状態ですわ! 前にお聞きした『茶漉し』にもすぐに取り掛かれます!」


 モニカさんは熊笹を手にして嬉しそうだ。

 ここ暫くなかなか良い素材が手に入らなかったので、定期的に購入できるなら購入をお願いしたいとまで言ってくれたので、もちろん大丈夫ですと請け負う。


 今後は大猫妖精族ジャイアント・ケット・シーの皆さんが採取や加工までしてくれる手筈になっているので、定期購入はこちらにも有り難い話だ。


 モニカさんには近いうちにまた訪う約束をして、エステバン工房を後にした私達だったが、後でこっそりレオさんを迎えに舞い戻って来たのは同じ日の夜だったりする。


 だって、やっぱり気になるじゃない? 茶トラさんの身の上話・・・。




更新が遅くなりましたが、本日もお読みくださりありがとうございます。

ブックマーク等に感謝です。いつもありがとうございます。


今年があと10日間を切ったなんて・・・?!

私の中で「クリスマス」が「年末」とほぼ同意語なのは、大人になって年月が経ちすぎたからでしょうか。

皆さまはどうぞ楽しいクリスマスをお過ごしくださいね。



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