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234.波動とカメングアウト

 

 神樹の精霊さん達に『グレンをここへ』と言われ、ちょっと大人達の話に飽きてしまってパタパタと部屋の中をあちこち飛んでいたグレンが空中でピタッと止まった。


 それにしてもグレンは相変わらず、どうやって空中で静止できているのか分からないのよね・・・。ホバリングもしてないで留まっているのって、不思議すぎる・・・。



「グレン、ちょっとこっちに来てくれる?」

「ぴゅい?(なぁに?)」


 パタパタと私の膝上に乗ってきたグレンの頭を撫でると、にぱっとした笑みを向けてくれる。うぅ、この満面の笑みよ。こちらを全面的に信頼してくれているような笑顔だね。


「あのね、神樹の精霊様がグレンにお話しがあるんですって」

「ぴゅう、ぴゅい?(おじいちゃん、なぁに?)」


 コホン、と真面目な顔をした真珠爺様おじいちゃんが何を言うのかと皆の注目が集まる。



『グレン、お主はもう火炎は扱えるのじゃったな』

「ぴゅーぴゅるるぴゅー!(うん。だけどママにおへやではダメっていわれてるよ!)」

『そうじゃな、家の中でではえらいことになるからのぅ・・・それは決してやってはならんぞ』


 そうですよ、お部屋で火炎放射なんて絶対にダメですからね。げっぷをしようとして火が出ちゃった、とかのウッカリも無しでお願いします。


 でも亀さんの甲羅にだって火炎放射をお見舞いしちゃったら、それこそ火加減によっては氷亀よりまずい事になりませんか・・・?

 ちょっとこんがり焼けちゃった千さんを想像してしまい、慌ててそれを頭から追い出しておく。


『では、波動はどうじゃ?』

「ぴゅぴゅい!(たぶんできるよ!)」

『そうじゃな、あの湯を地下から引っ張ってきたのも、実はその力なのじゃろう?』

「ぴゅ、ぴゅぴゅるー!(うん、あれもそう!)」


 うん? 波動・・・? 波動、砲・・・?

 思わず昔に見たアニメの、宇宙船からの高エネルギー砲を想像してしまった私だった。


『グレン、その波動で亀の甲羅にある水晶の根本だけを狙う事はできるかい? できれば亀の身体には当てないように』


 真珠のきみも、グレンが「波動」を問題なく扱う事が出来るという前提でお話ししているけど、その『波動』ってどんなものなのかしら。

 ひょっとして、私の想像している物と同一ですか? もしや惑星をどうにかしちゃう系・・・?


『そなたも知っておるじゃろう。いわば「音」などが伝わる力の一種じゃよ。竜であれば軽い咆哮で相手に威嚇したり、強い咆哮じゃとそのまま敵を倒したりできるのぅ。まぁ、ああいったものじゃな』


 ああいったもの、とは・・・?

 私は「咆哮」なんぞこの耳では聞いた事もないのですが。いわゆるライオンの「ガオ―」的な・・・?



『竜の本気の咆哮は、耳を塞いでも頭の中を揺らすくらいすごいからねぇ』

『あれをまともに喰らうと、大抵はしばらく動けなくなるのぅ・・・』


 怖っ・・・脳みそが衝撃で揺れちゃうってこと?! それって脳震とうの状態じゃ・・・? いや、めちゃくちゃ危ないわ!


 つまり、それってグレンは「咆哮」だけで敵を倒したりもできるという事で・・・グレンってそんなに強いの・・・? こんなにも可愛らしいのに・・・。


「ぴゅい、ぴゅぴゅう、ぴゅぅー!(もちろん、てきならたおすよ! ぐわぉーって!)」


 グレンが「ぐわぉーっ」て言うのが、今はまだちょっと想像できないなぁ。

 目の前にいるのは少し成長はしたものの、まだまだ可愛い盛りの赤ちゃん竜だし。


「その波動っていうのは、グレンの喉から咆哮として出るの?」


「ぴゅっ、ぴゅるるーぴゅー(えっとね、てあしからもでるよー)」


 うん・・・?

 手足からも出る・・・?


『つまり、四肢からも波動は出せるという事じゃな。ここに遠くから湯を引いてきた時も、おそらくそれを使ったのじゃろう』


 そういえばルーカス様のお屋敷でも温泉を引いてくるために皆で輪になってちょっと変わったダンスを踊ったけど・・・あの時もグレンのあんよから何かしらの波動が出てたってこと?

 まだ赤ちゃんなのに多彩なグレンの能力を知り、ただただ驚くばかりだ。


 もしかしたら、グレンはその波動で電磁波とかも出せて、レンチンもできちゃったりするのだろうか・・・と、違う方向に考えがいってしまう私だった。

 いや、もしそれが出来たら、お外でのピクニックの時に温め直しが出来て便利だな、って・・・(現実逃避)



 とにかく実践をしてみましょうという話になり、我が家ではなく草原に降り立った私たち。

 万が一、失敗して我が家に被害が出ると困るという事で、実践場所は周囲に何にもない広大な草原を選んだ。


「じゃぁ、ここでやってみましょうか。あそこの岩を亀さんの甲羅に見立てて・・・」


 ロアが大きめの岩の上に草原で見つけた少し小さめの石を乗せてくれたので、そこをグレンに狙ってもらう。


「ぴゅるるー!(いくよー!)」


 そう言ってグレンが岩に向けて手を、いや前足かな・・? をかざした。

 すると間髪を入れず、その的である石と、更にその下の岩までもがバコーーン!という音と共に視界から消え去った。

 いわゆる「こっぱみじん」である。


「ぴゅ?(あれ?)」


『グレン、強すぎじゃ・・・。もっと力を弱く絞ってからにしなさい』


 首を傾げたグレンに、真珠爺様おじいちゃんからの教育的指導が入る。


 岩のあった場所に近づくと、周囲にはサラッサラの砂が風に舞い上がっていた。一体どれだけ衝撃が強かったのか・・・。

 ぶっつけ本番で千さんの甲羅で試さなくて本当に良かった。水晶どころか、甲羅や本体までもが塵と化したに違いないもの。


『グレン、そんな力いっぱいじゃなくて、愛し子ちゃんの膝の上に乗るような気持ちで、そーっとやってごらん』


 真珠のきみからのアドバイスに素直に頷くグレン。


 私の膝に乗るのに、そんな気を遣ってくれてたの?

 やっぱり人間って()()なのね・・・まぁ竜の鱗に覆われた鋼のボディには比べるべくもないけども。


 次に違う岩にまた小石を乗せると、そこに狙いを定めたグレンは、うまく小石だけを打ち抜くことが出来たようだ。

 何度か同じように練習をし、問題ないと神樹の精霊様お二人にお墨付きをもらうと、いざ本番を迎える事になった。


「いやぁ~、これでワシも身軽になれるわい~」


 心なしかウキウキと、そう話す千さんだった。

 グレンの最初の一撃を私と一緒に見学していたはずの千さんは、実践を前に特に恐れるような様子もなく、ただのんびりと岩の上に陣取っていた。


「千さん、本当にいいんですか? もしお身体に当たってしまったら・・・」


「問題はないのぅ~。ワシの甲羅、けっこう丈夫じゃし~」


 本当かな・・・?

 その「けっこう丈夫」というのが、どうか竜に負けない強さであって欲しい・・・。


「・・・リサちゃん、たぶん大丈夫よ。万年亀の甲羅はベヒモスに踏まれてもヒビひとつ入らないそうだから・・・」


「えっ、あのベヒモスに、ですか?」


 しかもベアちゃんのような幼体ではなく、成獣の、おそらく1トンはありそうなベヒモスに踏まれても平気と言われれば、少し安心できた。


「では竜の子よ~、頼むのぅ~」

「ぴゅるる、ぴゅー!(まかせてー、いくよー!)」


 そんな今からキャッチボールでもするかのような掛け声で始まったグレンの波動砲?は、私が息を吞んだその瞬間に無事終わったのだった。



『おぉ、見事じゃ!』


 真珠爺様おじいちゃんの言う通り、千さんの甲羅に生えていた水晶は、狙い通りの根元に近い場所からポッキリと折れていた。


「おぉ~、おかげで身体が軽くなったわい~」


 そう言って岩の上でゆっくりと足踏みをしている千さんを見てホッとする。


「はー・・・無事に終わって良かったぁ」

「ふふふ・・・やっぱり少しドキドキしたわね」


 メメさんと顔を見合わせて微笑み合う。

 千さんにケガひとつなく、またオトヒメさんへのお祝いのお品も無事に手に入った事だし、大成功だろう。


「さて、それでは無事に事は済みましたし、我が家に戻りましょうか」


 私がそう言って一緒に来ていたロア達を見回すと、ふと違和感が。


「あれ・・??」


 先ほど千さんが居た岩の上には、なんと大きな亀さんが乗っていた。


「おぉ~、ようやく邪魔だった水晶が取れて~、本来のワシに戻れたのぅ〜」


 え・・・? あなたは千さんなんですか・・・?


 ついさっきまでミドリガメのサイズだったのに、今ではゾウガメもびっくりのサイズになっている。


 驚いている私達に、「これがワシの本来の大きさなんじゃ~」と言いながら、ゆーっくりとウインクをした千さんだった。



 そんな大きさに変化があった千さんが我が家に戻ると、お留守番をしていたゾフィさんと猫妖精族ケット・シーさん達みんなも驚いていた。

 特に子猫ちゃん達は驚きのあまり、ほぼ全員が体中の毛をぼわっと膨らませ、なかなか珍しい光景だった。



「千さんは体の大きさを自在に変えられるんですね」


「そうじゃのぅ~、大白鷲殿と一緒じゃのぅ~」


 ・・・ん? 大白鷲ホークさんと一緒?

 あぁ、そうだわ。彼は大きさを自分の意思で変えられるのよね。でもそれって女神様の眷属だからかと思っていたけど・・・


 あら? これは・・・、ひょっとして・・・?



「そうじゃのぅ~、実はワシ、女神様の眷属仲間なのじゃ~。あらためて、よろしくのぅ~、愛し子殿~」


『ふん、ようやくちゃんと自己紹介をしおったか』

『いつ言い出すのかと思ってたよ。随分ともったいぶったねぇ』


『いやぁ~、いつ気づいてくれるかと思ってのぅ~。あ~、もちろんワシはすぐに愛し子殿だと分かっておった~』

『まぁ、あれだけ神力を纏っていれば、遠目だとて分からぬはずないじゃろう』

『あはは、愛し子ちゃんは目立つよねぇ』


 神樹の精霊さまは千さんの正体を知っていたのね。

 最初からかなり親し気だったし、かなり前からお知り合いのようだったから、その可能性に気付くべきだったわ。


 そんな精霊さん達の会話に身の置き場を無くした私は、思わずため息にもならない吐息をひとつ。


 女神様の眷属ってあとどのくらいいらっしゃるのかしら・・・と、まだ見ぬ眷属さんの存在に思いを馳せるのだった。




本日もお読みくださってありがとうございます。


さて、12月ですね。しわす、でぃっせんばー、とも言いますね。

今回は新しい眷属かめさんも出てまいりましたが、そろそろ違う視点での【閑話】も投稿したいなぁと思っております。

今年中に色々と書きたいと思っているのですが、頭の中のお話におててのスピードがなかなか追い付かず、たまってゆく一方です・・・(;´∀`)



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