233.亀さんにお願い
「おぉ、ワシ、ずいぶんと早口になったの~、それに動きも早くなっておるようじゃ~。この茶はとても良いものじゃ~」
そう笑顔で話すのは千年亀さん、もとい万年亀さんである。
「ワシ、実は万年も生きておらんから~~~」と、みずからの種族?を「千年亀」とされたので、私たちもそうお呼びすることになったのだ。
・・・まぁ私たちからしたら、千年も万年もすごいご長寿なのは変わりないのだけど・・・ご本人が「ワシ~~~、まだまだ若いもんでの~~~」と仰るので、その気持ちを尊重する事となった。気持ちが若いのってだいじよね・・・。
それで、メメさんとの顔合わせを兼ねたお茶をしましょうとお誘いしたら「おぉ~~~、茶か~~~、茶も好きじゃ~~~。久しぶりに飲みたいの~~~」と言われた。お茶好きな亀さん・・・? いままでどんなお茶を飲んでいたのだろうか。
お好みが分からなかったのでコーヒーに緑茶と、話題のひとつに苔茶もお出ししたら、どれも美味しそうに飲んでくれたけど、意外にも一番のお気に入りは苔茶のようだ。
苔茶の効能でだいぶ活舌がスムーズになったようで、元はかなりのんびりとした話し方だったのが、今では少しだけ語尾が伸ばされる程度の話し方になっている。
まさか苔茶の「身体能力向上ポーションS」としての機能がこんなところで役立つことになるとは、ちょっと思いもよらない事だったけど。
そういえば、比較的話し方がおっとりしたリオちゃんも苔茶を飲んだ時に「・・・すこしはやくしゃべれるかも?」と言ってたっけ。
今まで通りにも出来るけど、早口で話そうと思えば話せる、程度のことらしい。
どうやらすべての動きが意図せず速くなってしまうものでは無く、自分の意思で調整が出来るため、だいぶ使い勝手が良さそうな感じがする。
我ながら、なんとも良く出来たポーションである。
その効能は身体能力そのものが強化されるため、亀さんの歩く速度にもてきめんに効果があったようだ。
私から見たらまだ亀さんの動きの範疇ではあるのだけど、そのスピード感にご本人はいたく満足気で、もしバイクだったらこのまま峠を攻めに行っちゃいそうな、そんな感じ。
「これが~、茶の一時の効能だとしても~、こうして素早く動けるのは実に良いものじゃ~」
この通り、苔茶を絶賛されています。
あと苔茶は効能だけでなく、お味も亀さんにはドンピシャだったよう。「懐かしい味じゃ~」と言っていた。どうも昔に似たようなお茶を愛飲していたみたい。それってやっぱり苔茶の一種なのだろうか・・・? 少し気になる。
それにしても、早く動けるというのは亀さんにとってたいへん嬉しいものらしく、どこかウキウキしていて見ていると何だか微笑ましい。
まぁその気持ちは私にも分かる・・・。私も猫に変化した時は自分の身軽さに感動したもの。
高いところにジャンプしたりと、テンションが上がっちゃって色々と試したっけ・・・。猫さんが高い場所に乗りたがるのも何となく理解できてしまった、やんちゃだったあの頃。まぁこれは割と最近の事だけど。
「苔茶を喜んでもらえて何よりですけど・・・ご自分の体感的にはどれくらい速く動けている感じですか?」
「む~、そうじゃなぁ~。3倍くらいにはなっておるかのぅ~」
ん? ・・・3倍? それって凄くない・・・?
だって100mを10秒で走る人が、3秒ほどで走れちゃう事になるよね。元々の身体能力が高い獣人さんだったら、それこそ目にも止まらぬ速さになっちゃう感じじゃない?
先日ルーカス様と話した時に、可能であれば薬師ギルドでの販売を勧められたけど、これはもうちょっと効能を穏やかなものにした方が良いかもしれない。薄めたら効能もゆるやかになったりしないかな・・・?
問題のしっぽなどの副作用の方は飲みすぎなければ大丈夫みたいだけど、瓶に詰める際に少量にするとかの工夫は必要だろう。
あとはまだ改良の余地もありそうな気がする。
今回は偶然にも2種類の苔がブレンドされていたけど、その割合を変えてみるとか、抽出方法を工夫するとか。
あとはメメさんの洞窟で見つけた「ネコメメゴケ」をブレンドしたらどうなるか・・・うん、何だかすごい物ができそうな予感がするなぁ。
「その苔茶は普通に飲む分には大丈夫だと思いますけど、飲みすぎた場合は体質によっては猫さんのしっぽが生えてきちゃうんですよ。それが効能のひとつといいますか、良し悪しといいますか・・・」
我が家ではロアさんがしっぽに目の色を変えていましたからね・・・。単に獣人さんは種族的にしっぽが気になってしまうだけなのかもしれないけど、あの時はゾフィさんの「待った」が入るくらいだったから、しっぽの威力は侮れない。
これは後から聞いた話だけど、獣人さんのカップルはお互いのしっぽをからませあって、いちゃいちゃするんだって。
もしそんなのを見せつけられたら、目のやり場に困るわぁ・・・。
そうだ、あと副効能でネコ耳も生えるんだったわ。亀さんにネコ耳ってちょっとシュールかも。いや、そもそも亀さんの耳ってどこ・・・?
「ほぅ、しっぽに耳じゃと~・・・?」
千年亀さんが首を伸ばしてご自分のしっぽをゆっくり振り返ると、頭を横に振った。
「しっぽに毛が生えるくらい~、猫の耳が生えるのも~、何でもない事じゃ~」
うーん、何ともおおらかな御仁である。
いまの亀さんのしっぽに毛が生えるだけなのかは分からないけど、そもそも耳はどこに生えるのか気になるところだ。
ともかく、千年亀さんにとっては亀としての外見よりも素早く動けたり喋れたりする方がよっぽど大切らしい事は分かった。
『ところで万年亀よ・・・あぁ、いまは千年亀と名乗っておるのだったか。お主、迷宮で何をしていたんじゃ。少し前はもっと南方にいたじゃろう。南の神樹の近くに住んでおったではないか』
どうやら以前から亀さんとは交流があったらしい真珠爺様が、挨拶もそこそこに普通に会話をしていた。南の神樹さんって私はまだご挨拶していないけど、神樹ネットワークですでにお知り合いだったのかな?
「それがなぁ~、ワシにもわからんのじゃ~。気がついたら迷宮の湖におったでな~」
『またどこぞの魔穴に落っこちたんじゃないの? 確か前にもあったよね、極寒の地に辿り着いて凍っちゃってたじゃないか』
「お~、そんな事もあったのぅ~。あの時はうっかり氷亀になってしもうて~、永遠に目が覚めないところじゃったわい~」
のんびりと話しているけど、その内容が酷すぎる。しかも氷亀ってナニ・・・?
だけど凍っちゃうほどの極寒の地に飛ばされる魔穴って怖いなぁ。私たちも気をつけないと。
その亀さんが凍ったという場所はどの辺りかわからないけど、北方大陸はいずれ訪ねてみたい場所でもあるのよね。だけど話の内容から察するに、こちらの世界でも寒さ厳しい場所のようだ。
何となく地球でいうとカナダとかロシアの辺りのイメージをしていたけど、実際に海外旅行にも行ったことが無い私にはその寒さが想像つかない。
でも普通の街着のダウンジャケットくらいでは、極寒の地ではとてもじゃないけれど太刀打ち出来ないだろう。行くならば相応の準備をしないとね。
特に我が家の猫さんたちは寒さが苦手そうだし、防寒グッズをちゃんと用意しなくては。
北方大陸はもしかしたらロアの生まれ育った場所かもしれなくて、いつかの過去視の魔法で視た場所のことは私の中でずっと気になっているので、今から装備などの必要な準備はしておきたい。
もしかしたらゾフィさんだったら北の方まで冒険をした事があるかもしれないし、我が家では大白鷲さんが北方大陸が出身なので、後でお二人にどんな場所か、そして必要な物をリサーチしておこう。
さて、なんとなく会話が一段落して落ち着いたようなので、そろそろ本題といいますか、お伺いをしてしまいますか・・・。
「ところで、亀さん」
「なにかのぅ~? あぁ、そうじゃ〜、ワシのことは千年亀の『千』、とでも呼んでおくれ~」
「コホン。実は、千さんにお願いがあるのですが・・・」
「茶や果実の礼もしたいのでな~、ワシにできることがあればよろこんでするのぅ~」
おお、何だか頼みやすい雰囲気だわ。
私は思わずメメさんの方を見ると、目が合ってこくりと頷かれたので、話をメメさんに引き継いでもらう事にした。
「千さん・・・お願いがあるのは私なのです・・・あの、よろしいかしら・・・?」
「おぉ、海竜のお姫さん~、ワシになにか用事かのぅ~?」
「・・・はい。実は、そのお背中の水晶を分けていただけないかと・・・もちろん少しで良いのですが・・・」
亀の千さんは、首を伸ばして自分の甲羅を見ると「おや~、何やら重いと思ったら~、いつのまにかけっこう育っているのぅ~」と、いま初めて水晶の成長に気がついたようだった。
「その水晶って、もしかして自然と生えちゃうんですか?」
水晶ってどんな条件で生えるのかわからないけど、この水晶は亀さんの甲羅の形のまま生えているようだから、普通の水晶とは違うのかもしれない。甲羅としっかり一体化しているみたいなんだよね。
「う~ん、冬眠中にいつの間にやら生えておるのでなぁ~。むしろ邪魔なので取って欲しいくらいじゃのぅ~」
「・・まぁ! では頂けるのですか・・・?」
メメさんの眼が喜びでキラキラしている。
ずっと探していたんだもの、気持ちよく譲ってもらえそうで良かった。
「でも千さん、甲羅からどうやって取れば・・・?」
水晶ってそんな簡単にポッキリと折れたりするの? トンカチとか工具が必要だとしたら、慎重にやらないと千さんの甲羅まで傷がついちゃいそうよね。何より工具で叩いちゃったら身体にまで衝撃があるのではないだろうか。それって大丈夫なのかしら。
『なに、簡単じゃ』
『簡単だよね』
真珠爺様に、真珠の君・・・?
「お二人とも、水晶が簡単に取れる方法をご存じなんですか?」
『むろん、知っておるぞ』
『簡単に出来る者を知っているよ』
「ぜひ教えてください!」
「・・・教えてください。お願いします・・・」
メメさんと二人でお願いすると、神樹の精霊さん達がもったいぶるかのように『グレンをここへ』と宣ったのだった。
「・・・グレンを?」
「・・・グレン君を、ですか・・・?」
私たちは二人揃ってキョトンと、そして呼ばれたグレンも同じくらいキョトンとしていたのだった。
遅くなりました! 本日もお読みくださりありがとうございます。
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そろそろカレンダーも薄くなってきましたね。
もうすぐ12月・・・?
今年はあと何回更新ができるでしょうか・・・( ;∀;) がんばります!




