表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
389/398

389話

「目の前にいるリゼよ」

「……」


 空気が凍ったかのように、ミコトの口も半開きのまま固まる。

 状況を脳が処理すると、ミコトの視線が、ゆっくりとリゼへ向けられる。

 当事者であるはずのリゼも、わずかに目を見開いた。

 自分から名乗ったわけではないという負い目と恥ずかしさが入り交じる……いつまで経っても慣れない。

 やがて、ミコトの肩が落ちる。

 目的を失った侍の背中は、先ほどまでの熱が嘘のように小さく見えた。


「……どうしても、戦えぬか?」


 絞り出すような声。


「無理よ」


 アンジュは即答した。

 揺るぎない決意。

 それはリーダーとしての決断で、感情を挟む余地はない。

 だが、数秒の沈黙のあと――


「でも、冒険者個人で戦うことは、当人同士の話だから、そこまでは関与できないわ。ただ、誰にも知られない状況で戦って欲しいわね」


 それがアンジュの妥協だった。

 リゼが、戦いたいと思っていることに気づいていた。

 ミコト同様に強さを求めるという意味では同類だ。

 リゼは隠しているようだが、その思いは完全に隠せるはずがない。

 しかし、これから指名クエストも控えている。

 クランとしての立場を危うくするわけにはいかない。

 最終判断は、リゼに委ねられた。


「それなら――」


 ミコトの瞳が、再び光を宿す。

 だがリゼは、その言葉を遮る。


「ごめんなさい。ミコトさんとは戦えません」


 はっきりとした声だった。

 迷いを押し殺した決断。

 部屋の空気が、ミコトの気持ちに同調したかのように、静かに沈んでいった。

 リゼは、静かに目を伏せた。

 胸の奥では、まだ燻るものが残っている。

 強い相手と刃を交えたいという衝動……ミコトの真っ直ぐな眼差しに触れたことで刺激された想い。

 けれど――それよりも優先すべきものがある。

 耳の奥に残っている「まずは指名クエストに集中すべき」という、アンジュの言葉。

 それは正論であり、クランを背負う者としての覚悟だった。

 リゼは、ゆっくりと顔を上げる。


「みんなには悪いけど、ミコトさんと二人っきりで話をさせてくれる?」


 遠慮がちな声で尋ねる。

 銀翼の面々は互いに視線を交わす。

 アンジュがわずかに頷くと、それが合図かのように、他の者たちも無言で同意を示した。

 リゼの思惑は分からないが、「軽率な判断をしない」と信じている証だった。

 落ち込んだ様子のミコトに、リゼが歩み寄る。


「こっちへ」


 短く告げ、廊下へと促す。

 ミコトは黙ったまま後に続いた。

 背筋は伸びているが、先ほどまで燃えていた闘志は見る影もない。

 足取りも、どこか重い。


 廊下を進み、階段を上がり、リゼの部屋へ入る。

 簡素な室内は整えられているが、飾り気はない。

 扉が閉まり、二人きりになる。

 ――しばしの沈黙。

 ミコトの表情は、どこか抜け殻のようだった。

 リゼは深く呼吸をして、ミコトの聞きたい言葉を囁く。


「……戦ってもいいよ」


 ぽつり、と呟いたその一言は、静かな部屋に一瞬で飲み込まれる。

 ミコトが顔を上げる。

 まるで、消えかけていた灯が、一瞬で燃え上がるように、瞳に光が戻った。


「じゃあ、今から――」


 半身乗り出すように話す。


「指名クエストが終わってから」


 リゼは、はっきりと遮ると、ミコトは動きを止める。


「……いつまで待てばいい?」


 焦燥と期待が入り混じった声。


「明日にならないと分からない。それでもいいなら――」

「戦う!」


 今度はミコトが言葉を遮った。

 即答だった。

 その勢いに、リゼはわずかに目を瞬かせる。


「私じゃなくて、他の強い人でもいいんじゃないの?」


 純粋な疑問。

 王都にはコウガや金狼のメンバー以外でも、強い冒険者が多くいる。

 必ずしも、リゼである必要はない。

 それだけコウガとの戦いを望んでいるのだろうか? と疑問を抱くリゼの心中を見抜いたかのように、ミコトは一瞬だけ視線を落とし静かに答える。


「……最初はそうだった。だが、お主がコジロウやハンゾウに認められた忍であれば、話は別だ」


 国にいる仲間の名を出したとき、声色がわずかに変わる。

 尊敬と、複雑な感情が混ざった響き。


「認められてはいないけど……」


 リゼは苦笑する。

 だが、ミコトは首を横に振らない。

 反論もしない――ただ、確信めいた目で見つめてくる。


(間違いない)


 彼女の直感が囁いている。

 あの二人が、敵意なく受け入れた……その事実だけで十分だと。


「お兄さんもそうだけど、若様の手がかりも見つからないの?」


 リゼは慎重に問いかける。

 ミコトは、ゆっくりと首を横に振った。


(若様のことまで聞いているとは……やはり信用に値する者だ)


 ミコトの胸中で、確信が深まる。


「一度、国に戻ることは考えていないの?」

「兄様を探すまでは戻らんと決めている」


 即答する声に迷いはなく、硬い決意が感じられる。


「ヤマト大国の人や、サスケさんたちバーナム曲芸団の人たちも本当に心配していたよ」

「……それは分かっている……が、帰らん」


 リゼは、ミコトの目を見つめて理解する。

 自分が……他人が何を言っても、この意志を曲げることはない。

 もしも、ムサシがすでに死んでしまっていたら……と考えないのは、ミコトの強さだとも感じた。

 自分よりも強いムサシの負ける姿など、想像できないのだろう。


「皆は元気だったか?」

「元気だったよ。ただ、サスケさんやバーナムさんは、かなり怒っていたけど」

「そうだろうな。悪いとは思っておる」


 書き置き一枚で勝手に飛び出したという罪の意識はあるようだ。



――――――――――――――――――――



■リゼの能力値

 『体力:四十八』 

 『魔力:三十三』

 『力:三十三』 

 『防御:二十一』

 『魔法力:二十六』

 『魔力耐性:十三』

 『敏捷:百四十三』

 『回避:五十六』

 『魅力:四十八』

 『運:六十一』

 『万能能力値:零』

 

■メインクエスト



■サブクエスト



■シークレットクエスト



■罰則

 ・闇属性魔法”ドレイン”の消去

 ・身体的成長速度停止。期限:一生涯

 ・恋愛感情の欠落。期限:一生涯


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ