95 王都の観光
※ 夏風邪を引いてしまいました。まだ完治していませんので、更新頻度はまだ落ちたままです。申し訳ありません。
「ぐふふ。凄いオーラだったわね」
「本当にね。なるべく気安いように振舞っていたようだったけど、こちらは終始威厳に圧倒されている状態だったよ」
「私はずっと抱きしめられていたのが何とも言えなかったわ」
馬車の中で先ほどの会話の感想をそれぞれで漏らした。
正直、終わった後でもまだ現実だったと思えないような、独特の雰囲気だった。
あれが王国という巨大な国を動かす人間の迫力と言うものなのだろう。
「この後はどうしようか。いくらノチアでも王都まですぐさま帰りはしないだろ?」
「うっ……」
私はアイラに言われて少し黙る。
前回来たのは加護の洗礼の時だ。
あの時は私の我儘ですぐに帰ってしまったが、これだけの時間をかけてきたのだから、少し滞在するべきかも知れない。
特にルキラの領は王都の販路の開拓などで動いているようだ。
「私は直接王都で動く理由はないわね。アイラはあるの?」
「ああー。実は僕もポーション関係でいくつか行かなきゃならないんだ」
「そうなのね」
「ただ、明日は一日時間があるんだ。ノチア、少し王都を観光しないか?」
「ぐふふ。私も明日は時間があるわ。一緒に回りましょう」
「観光と言うと大聖堂や美術館かしら」
「僕は劇場に行きたいね。ノチアが劇になっているっていうじゃないか」
「ええ! そうなの。 いや、でもそれは……」
私は思わず黙り込んだ。
自分が劇になるとか恥ずかしすぎる。
フラウ領の街道建設やガストルの鉱害騒動も美化されて語られていると聞いた。
変な脚色などされていないだろうかと心配になってしまう。
次の日、ホテルから出ると馬車に乗り込む。
今日向かう予定なのはアイラの行きたい場所だ。
それがどのような場所なのか、私も効いていない。
馬車の中でしばらく会話していると、馬車が止まり扉が開かれる。
そして、外に出た私は目を丸くした。
「えっ、なんでラウメの馬車が? それにダイアやドールの馬車も」
ガラス張りで清潔感のある店先に見覚えのある馬車が止まっていた。
私は王都のホテルに滞在させてもらっているが、ラウメやダイアから来た他の使用人達は、王都の近くにある町のカントリーハウスに滞在してもらっているのだ。
それが今、目の前の店の前まで来ている。
「ここって……」
私は目の前の華やかな店にもう一度目を向ける。
この鼻をくすぐる香りには覚えがあった。
最初の頃に、ダイアでサリア様やメリナ様にさんざん塗ってもらった化粧と香水の香りだ。
「ノチアももう十四歳になるだろ? 僕は、化粧品を一緒に見てあげて、ってマリア様に頼まれたんだよ」
「母様が?」
「ぐふふ。ノチアは勇ましいけど美人ですもの、少しは必要な事ね」
「最終的には化粧は侍女たちが学んでくれるから、ノチアは好きな色や匂いを選べばいいよ」
「あっ、うん」
正直、化粧品の並べられた棚の前で化粧をばっちりした店員さんに丁寧な説明を聞きながら、私は借りてきた猫になってしまった。
もちろん化粧に忌避感なんてないが、前世でも家の為にお金を稼ぐことを優先していた私は、そういう誘いは断っていたのだ。
「本当に今世の私はスペックが高いわね」
「ん? 何か言ったかい?」
「なんでもないわアイラ」
久しぶりに鏡で自分の顔を見てため息を吐く。
父様譲りの灰色のサラサラの髪に、母様譲りの青い瞳、畑仕事をした事もあると言うのに、くすみもない白くきめ細かな肌。
顔の彫りはアイラほどないが、人形の様に整った顔立ちに生命力のあるピンクの唇。
これでノーメイクなのだから自分でも呆れてしまう。
「こちらもお似合いになると思います」
「ああ、本当だね」
アイラが慣れた手つきで私に化粧を施すと、はっきりと顔が輝く。
なんだこの可愛い物体は……。
まぁ、私なのだが。
丼の棚を置くために、部屋の隅に追いやられ使われる事のない鏡付きの化粧台に心の中でごめんなさいをする。
母様は化粧をしているが、ラウメはいかんせん牧歌的なので許してほしい。
「でも、そうね。ルーナには必要になるし、母様のお見上げにも買っていきたいかも。あっ、ソラーレはどうかしら? さすがに怒るかしら? 絶対に可愛くなるのになー」
いつの間にか家族の事を考えていると、化粧が終わっていた。
「ルキラもお化粧したのね。綺麗だわ」
私が化粧されている間にルキラも化粧をしてもらったようだ。
普段のルキラは身長が低い事と本人が可愛いものが好きなので、ゴルロリチックな服装と髪型が多いが、今日のルキラは化粧の為もあるのか、上の方で髪を一つにまとめていて、化粧も相まっていつもより大人びて見える。
(そういえばルキラも、もうすぐ十六歳になるのね)
私はルキラとお互いの化粧を褒め合ってからアイラを見る。
「アイラもやるわよね?」
「いや、僕は……」
「腕によりをかけます」
店員さんが思った以上の食いつきだ。
男装の様にパンツスタイルのアイラは、彫りが深めで身長も高い。
凛とした瞳はすでに宝塚ジャンヌ然としている。
化粧でどう変わるのか興味が尽きない。
「お手柔らかにお願いするよ」
店員さん、全力でお願いします。
私は目くばせで店員さんに指示を送った。




