94 謁見
王都に到着してから数日が過ぎ、いよいよ謁見の日になった。
金と白で彩られた専用の豪華な馬車が用意され、乗り込むとすぐに城へと一直線に走り出す。
城の大きな門を抜けると目に飛び込んできたのは、圧巻の庭園だ。
「どこまで続いているの? 城が見えないわ」
「向かっているのは宮殿のようだけど、確かにこれは圧巻だね」
四季によってその姿を様変わりさせるであろう、計算しつくされて植えられた花々がアーチを描いているのが見える。
清らかで豊富な水がとめどなく流れ続け、絶妙なバランスで配置された噴水が吹きあがる様は音楽のようだ。
立体的に刈り取られ形作られた木々の動物たちの躍動感に目を楽しませていると、遠くに見えた宮殿が徐々に近づいて来る。
馬車が完全に停車するのを待って、馬車から一歩踏み出せば光の洪水だ。
「凄いキラキラ。そんな言葉しか出てこないわね」
「ぐふふ。周りに宮殿以外の建物がない分、なおさら日の光で浮かび上がるわね」
「鉱石を使って塗装されているのか、壁一枚に掛かっている金額を思うと眩暈がするよ」
白を基調とした中に鮮やかな青が美しい。
昼の強い光がキラキラと反射して、目に痛いほどだ。
中に入れば、床、壁の飾り、シャンデリア、鏡、全てが光を反射させている。
光の回廊を抜けて進むと、いよいよ玉座の間だ。
「すこしお待ちください」
扉の前で開かれるのを待ち、開いた扉から指示に従って真っ赤な絨毯の上を進む。
道の両端はズラリと貴族が並び、一見すると穏やかな目でこちらを見ている。
王様の前まで着いた私たちは、跪いて王の発言を待った。
「遠路はるばるご苦労であった。面を上げよ」
「御心のままに」
顔を上げた私は思わず固まってしまう。
その姿は私より幼くすら見えたのだ。
「余が第24代ダールファルメン王国、女王ルクスリ・エア・メシェ・ダールファルメンである。この度の街道の整備、ガストルの鉱害の其方らの領地の貢献に褒美を取らす。……目録を持ってまいれ」
「はっ」
指示で一度下がった役人が私たちの横に来て一人一人に革張りの本を差し出した。
本自体の作りも豪華だが、厚みもなかなかにある。
この場で確認したい衝動を抑えて粛々と受け取る。
「有難き幸せにございます」
「うむ。ラウメを含む西側の発展は実に喜ばしい。精進するがよい」
その後も軽い賛辞を貰い、いくつかの形式的な受け答えをすると、思っていた以上にあっさりと謁見が終了した。
目録を連れてきた領の役人に渡したところで、息を吐く。
思っていた以上に緊張していたようだ。
そんな私たちに、執事らしき男性が声をかけてきた。
「ノチア様、アイラ様、ルキラ様。陛下が今からお会いになるそうです。こちらにいらしてください」
「えっ、今からですか?」
先ほど謁見を呼ばれたばかりなのに、と困惑する間もなく連れていかれた部屋に入ると、中には床に直接座り、胡坐をかいている女王陛下の姿があった。
「――っ、申し訳ありません」
「よいよい、公式の場ではない。楽にせよ」
陛下より頭の位置が高い事に謝罪してその場で跪いた私たちに、気だるげに手を振って告げた。
周りを見ても護衛らしき人間はいなかった。
「まず、悪かったな。さすがに報酬でガストルをやる事はできん。王国にはガストルとドールが一つに戻る事を警戒する貴族たちもおってなー。今回の事も、ドールの策略だなどと言う者までおる始末だ」
ルクスリ女王が片目をつぶったまま地図を床に置いてため息をつく。
そして、笑顔で顔を上げた。
「だが、街道は素晴らしかったぞ。フラウの奴めと、よくぞ窓口を開いた。本来ならば、爵位を与えても良いほどの快挙よ。今回も本来ならば伯爵たちに直接褒美の言葉を送りたいところだった」
その時、首を傾げた事によって髪が流れ、ルクスリ女王の長い耳があらわになった。
「……エルフ?」
「噂のノチアちゃんねー」
「えっ、きゃっ」
声に反応する前に、後ろから抱き着かれて頬ずりされた。
見入れば金髪の若い女性だ。
高貴な方の可能性があり、女性だとはわかったので、ひとまず無抵抗でされるがままになる。
「伯母上、セクハラは止めていただきたい。ノチア嬢も押しのけてよいぞ」
「ええー。ルクちゃん酷いー」
離れた女性はルクスリ女王が伯母上と呼んだだけあって、同じエルフの特徴である耳をしていた。
「もうわかったであろう? これが我が王国が六百年続いている秘訣よ」
そう言って、ルクスリ女王が自らの耳を指さして見せる。
「この王国は長寿な王が従順な家臣を教育、餞別することで争いない国にしておるのだ。だが、最近どうもやんちゃな貴族を抑えるのに苦心しておってな。ラウメのようなと清廉な精神を持った新しい息吹は大歓迎だ」
「私たちに何かをお望みなのでしょうか?」
アイラが恐る恐る尋ねた。
声の震えから慎重に発言しているのがわかる。
「カカカッ、ないない。縛るつもりも懐柔したいわけでもない。自由に行動せよ。そなたらの行動は良い風を呼んでおるが、年端も行かぬ娘どもに頼ることなど無いわ。後押しくらいはしてやるがな」
そう言って、懐から紋章の入った首飾りを出し、私の元に投げた。
「それは褒美だ。その紋章を持つ者は対峙している者と同じ身分になる。権力でごり押しされそうになったら使え、そこまで便利なものではないが悪用はするなよ?」
有無を言わせない強い視線を前に私は頷く事しかできなかった。




