92 フラウ領、そして王都へ
ガストルにプリンが残る結果になった事を、フラウに報告しに行ったのだが、それを聞いたフラウは自らの尻尾を撫でつけながら、なんでもない事の様に言った。
「ふむ。まぁ、プリンの選んだ道じゃ。わらわから何か言う事はないのじゃ」
「それなら良かったわ。せっかくあの子が自分で選んだ道だものね。それと、フェロンの事なんだけど、ガストルで養殖している量をもう少し増やしてもいいかしら?」
「おおー、やるがよい。クラウネ共もおるし、わらわからのはなむけじゃ。好きなだけ増やすがよい」
フェロンの需要も高まっているので養殖を増やすことを提案してみたが、無事に許可を貰う事も出来た。
フェロンはガストルの土地とかなり相性が良く、このままフェロンの産地にしてはと言う意見が上がっているのだ。
クラウネ達にとっても好物なので、生息域を増やせるのは有難い。
「……っと言うより、いっその事あの土地をノチアの物にしてしまえば良いのではないかぇ?」
「さすがに、そんなの無理に決まっているじゃない」
「それはどうじゃろうな~。あの土地の者はすでにノチアに恩を感じておるから従うじゃろう。それに今回の褒美で王都に呼ばれておるのじゃろう? 交渉次第だと思うのじゃがなー」
「領地を貰うってことは、私が爵位を持つって事でしょ? こんな小娘にはそんなの過ぎた要求よ」
実際にもらえると言われても困ってしまう。
まだラウメから離れるつもりはないのだ。
しかし、今回のガストルの騒動の褒美を与えると言う事で、王都に招かれているのも事実だった。
「まあ、大きいとはいえ今回の事で領内はボロボロじゃし、いらんと言えばいらんがな」
他人事の様にフラウがカラカラと笑った。
それから数日して、私たちは王都に向かった。
今回は褒章と言う事もあり、ゴウオウでは行かずに、ちゃんと馬車での移動である。
ダイアに集合した後の移動になるが、ラウメ、ダイア、ドールの三領地が従者などを伴っての移動になるので、その規模は嫌でも大きくなり、かなりの噂になった。
通る道はもちろん新しくできた街道だ。
街に入るたびに、十五台を超える馬車の列に住民たちが手を振ってくれた。
「なんだか、私が手を振ると歓声が上がる気がするわね」
「気のせいなんかじゃないさ。ノチアの活躍は吟遊詩人が歌にして各地を回っているって噂で聞いたよ」
「ぐふふ。トービ領では英雄として本になったと聞くわ」
「ええ? 歌に本っ! 私は聞いてないわよ」
馬車の中で衝撃の事実を告げられて、思わず頭を抱えた。
しかし、それも最初の内だけで、王都に着くまでのどの領地でも私たちの歓迎は凄まじく、次第に開き直って声援にこたえるようになっていた。
そして、十六日間かけてやっと王都に着いた。
「やっと着いたわー。体がバキバキよ」
「宿で休んでいたとはいえ、さすがに馬車に揺られ過ぎたね」
「ぐふふ、我が力の一部がやっと解き放たれたわ。あと少し遅ければ馬車を壊していたわね」
私もルキラもダイアまでの移動を合わせれば、二十日を越える。
馬車の中で寝ることも出来たし、アイラとルキラが居たので暇にはならなかったが、ゴウオウの移動に慣れてしまって今の私にはなかなかのハードだった。
「今日はこちらにお泊りいただきます」
「うわぁ、さすが王都ね」
「ぐふふ。これを維持できるだけのお金が動いているってことね」
案内されたホテルは王都の中でも一等地にあった。
その大きさは、私の領地にある館の三倍以上はあって私は目を見張った。
七階建ての建物は柱まで彫刻が施されていて、歴史を感じさせるが、窓には透明度の高い大きなガラスが嵌められていて、曇り一つない。
中からも魔導具の明かりでありながら、優しく自然な光が漏れてきている。
磨き上げられた床は鏡の様に光を反射して、フロアに重厚感を与えていた。
前世に比べれば、建物の大きさはたいした事が無いとは言え、この規模の洗礼した建物を、貴族では無く商人が所有しているのだから、王都の経済の規模の凄さがわかる。
「あれって、セリティじゃない?」
ロビーに入った私は、同じフロアでビギン商会のセリティが他の貴族らしき人物と親し気に話していることに気が付いた。
ドールと取引しているランザント王国の商人だが、王都でも商談をしているようだ。
私に気が付いたセリティは、相手に断りを入れた後に、私たちの護衛に許可を取って挨拶に来た。
「ノチア様、アイラ様、ルキラ様、このような良き日に再会できたことを女神への感謝すると共に、ご挨拶申し上げます」
「久しぶりねセリティ。わざわざ挨拶に来てもらって悪いわね」
「とんでもない。我々は少しでもノチア様方に受けた恩を返せる機会を求めています。もし何かご入用でしたら、わがビギン商会に何なりとお申し付けくだされば幸いです」
セリティが膝を付いて礼を取った。
王都での対応なのか、少し硬い挨拶だったが、役に立ちたいと言ったセリティの申し出に嘘はなさそうだった。
「ありがとう。機会があれば頼らせてもらうよ。悪いけど、今日は長旅の疲れもあるから、これで部屋に失礼させてもらってもいいかな」
「はい。お引止めして申し訳ありません」
アイラが話を打ち切ったので部屋へと向かう。
部屋は最上階をまるまる貸切ってあった。
調度品も豪華で、正直な話ラウメの私の館より遥かに豪華だった。
「凄い豪華ね。なんだか緊張しちゃうわ」
そんな感想を漏らすと、アイラとルキラに可哀そうな人を見る目をされてしまった。
「今のラウメでノチアが望めば、この程度すぐに揃えられるさ」
「ぐふふ。私はノチアのそういう所は大好きよ」
食事も部屋に運び込んでもらった。
料理も豪華で量も多かったが、なによりアイラとルキラと食べられるのが一番だった。
いよいよ、明日は謁見になる。
緊張感から眠れないでいる私を気使ってか、その夜はアイラとルキラの三人で同じベットで眠りについた。




