92 復興のために
「プリン、味噌ラーメン五人前ー」
「わっ、あいよー」
ガストル領の鉱害の状況が落ち着いてきたので、私は麺を仕入れて本格的に屋台で味噌ラーメンを提供し始めた。
……っというのも、味噌スープは鉱害の治療のために村々で振舞われた。
それ自体は良いのだが、このままでは味噌の味は『薬』としてのイメージが強く残ってしまう。
せっかく苦労して作った味なのだ、どうせならば『薬』ではなく『復興』の味として広めてしまおうと考えた。
そのために味噌ラーメンを屋台で振舞って回っているのだ。
「ノチア様、料理なら自分たちでしますから」
「気にしないで。私ラーメンを食べるだけじゃなくて、作るのも好きだから」
「ありがたや、ありがたや」
ただ、計算外だったのは、救援で飛び回ったことで私に対する村人のイメージが美化され過ぎている点だ。
私の作った味噌ラーメンに祈りを捧げている人までいるのはどうかと思う。
「それは仕方ないさ。それだけの事をしたんだ」
「でも、それならアイラ達や他の救援をしていた人たちも同じように感謝されるべきじゃない?」
「ぐふふ。感謝はされているわ。でも、象徴的な存在は必要よ。まだ彼らにとってはね」
それを言われてしまうと強くは言い返せない。
各地を回りながら支援と味噌ラーメンの布教を続けたこともあり、今ではすっかり味噌ラーメンの屋台とそれを調理するクライネ達はこの地域になじんでいた。
復興のメインとなる食糧問題は、鉱害の影響を受けた土地の除染に、フェロンの殻の部分を土に混ぜることで効果がある事はわかりすぐに土への混ぜ込みが行われた。
三か月が経った頃、初めて除染した土地で育った食物の収穫が行われ、大々的に収穫祭が開かれることになった。
そして、村の人達のたっての希望で、私達も祭りに参加することになった。
「私たちは日が落ち始めた頃に移動すればいいの?」
「はい、祭り自体は夜に行われますので、その前に行っていただければ十分です」
「わかったわ」
日が落ち始めた頃、指定された村に向かうために空へと舞い上がった私たちに、予想外の光景が目に飛び込んできた。
それは地上を彩る光だった。
「綺麗だね。村を囲むようにロウソクが置かれているのかな?」
「ぐふふ。道や建物も光で浮かび上がって見えるわね」
「それも、一つの村だけじゃないわ」
目的地に向かう途中にある全ての村で同じように光で飾られていた。
「ふふっ、これは私の為って己惚れてもいいかな?」
「それはそうさ。あれを見てごらんよ。確実に空からの見え方を意識してるよ」
「空を飛ぶノチアに復興を見せたかったのね」
鉱害は建物には一切の被害は出ていなかった。
だからこそ、余計に明かりの灯っていない村がその絶望的状況を表しているようで通過するたびに心に不安がよぎっていた。
必死に飛び、深夜に帰っては朝飛び立っていたあの時を思い出して、少し泣きそうになった。
光はどこまでもどこまでも続いている。
「ああ、この光が、村に……人々に希望が戻った証なのだね」
村に着いたら、大歓迎された。
宴にはパンや芋がたくさん出された。
味付けはシンプルだったけれど、丁寧に作られた料理に使われているのは、この土地で育った大切な食材たちで、ちゃんと事前に検査をして毒素は検出されていない品々を使っている。
そして、狙い通りに復興のシンボルになった味噌ラーメンだ。
ベースの鶏ガラにフェロンが入る事で、貝類が入っているような旨味がある。
それが味噌の旨味と合わさると、より深い味の奥行きが出る。
「味噌もフェロンの芯をコウジにしてるんだもの、相性がいいのは当たり前なんだろうけど、改めて驚かされるわね」
「この味噌ラーメン、クライネ達が頑張った」
プリンに言われて村の中にいるクラウネ達を見る。
支援のために屋台で回っているあの子達は、もはやガストルの立派な仲間のようだ。
「わっ! ノチア。プリンはこのままここに残ろうと思う」
「えっ! それって」
「わっ、プリンはノチアと一緒にいっぱい学んだ。ワガママも言えた。だから、もうプリン達だけで学んでいける。プリンはここで味噌ラーメンの屋台を続けたい」
「プリン……」
「わっ! フラウに言っておいて」
「うん。絶対にまたプリンの味噌ラーメン食べに来るからね」
「わっ、ノチア大好き。またね」
私は強くプリンを抱きしめた。
ふわりとした毛並みには、どこか味噌の香りがして笑ってしまった。




