9 与えられし試練と生まれるもの
私は町にある教会に膝を付き祈りを捧げていた。
冬の教会の床はとても冷たいけれどそんなことすら、今は気にならない。
この、どうしようもない事態を前に私に出来ることは、もはや真摯に願うことだけなのだ。
「女神様、こんな試練はあんまりだわ。どうか、どうか慈悲を⋯⋯」
「どうしたのですか、ノチア様。その様に膝をお付きになられて」
「神父様⋯⋯」
神父様が手を差し伸べて、私に立つように促す。
山で自分の加護の一部が〝剣聖〟だとバラしてしまった私は、口止めの代わりに現在は孤児院で子供達に剣を教えていた。
私がここで剣を教えることで、シンバさんの指導も受けられて、子供達のお昼ご飯も領主として出すことが出来る。
そして、剣を教えている理由は他にもある。
岩塩の発見は領地に空前の好景気をもたらしていた。
冬になっても雪の降らないラウメ領は、今も出稼ぎで外から多くの民や商人が流れ込んで来ている。
治安維持には領地の騎士だけでは補いきれなくなってきていた。
そこで、子供達に剣を教え、少しでも自衛させようという考えだ。
半端に剣を教えるのは危険ではあるのだが、人材を遊ばせて置くほどの余裕がない。
子供達には、あくまで見張り要因としての役割を徹底させて、危ない時は真っ先に逃げるようには言い聞かせてある。
そして、この好景気こそが私を苦難させていた。
そう思っていると、神父様が例の呪いの言葉を口にする。
「お昼の準備が出来ましたいた。今日のメニューはノチア麺ノチア麺ですよ」
これだ!
祭りで振る舞った母様のカレーうどんは、私が泣きながら食べたこともあって、領地の中で流行してしまったのだ。
ノチア麺と言う通り名のまま、大量に押し寄せた外からの労働者たちにも広がってしまい、もはやカレーうどんに訂正することが出来なくなってしまっている。
「ラーメンより先にうどんが知れ渡ってしまった。もしラーメンが完成した時に、うどんの偽物なんて言われてしまったら⋯⋯私、どうなるか分からないわ」
美味しいカレーうどんを見つめながら、心の中を仄暗い感情が流れるのを感じる。
メンマがそんな私の足にすり寄ってきた。
メンマとは、あのグレート・メイの幼体だ。
ちょこんと出ているかわいい角が、色といい、形といい、メンマそっくりだったのだ。
その場で叫んだ私の声をシンバさんが名前を付けたと勘違いして、名前がメンマになった。
ちなみに齧ってもメンマの味はしなかった。
非常に残念だ。
私の視線に気がついたのか、メンマがちょこちょこと走って教会から出ていく。
すると、代わりにエドガーが走り込んできた。
「大変だ! 奥様が⋯⋯奥様が倒れた!」
「なんですって!」
血の気が引くと同時に、心臓が嫌な音をたてた私は、すぐに館に向かって走る。
——館に着いた私はすぐに母様の寝室に走る。
すでに父様も駆けつけていて母様の手を持って跪いている。
隣の医師を見て嫌な汗が流れた。
「母様は⋯⋯大丈夫なの?」
聞きたくない気持ちが出たのか、声が震え上手く出ない。
私の言葉に、母様の手を持っていた父様が振り返る。
「おめでただよ。ノチア!」
「⋯⋯?⋯⋯????」
振り返った父様の顔は凄く嬉しそうだった。
一瞬、理解できずに呆けてしまう。
「少し貧血でフラついただけなのにダスティンが大げさに騒いだのよ。でも、それで
検査したら子供を授かっていたことがわかったの」
「⋯⋯赤ちゃん?」
「そうだよ。ノチアに弟か妹が出来るんだよ」
「⋯⋯弟と妹?」
遅れて言葉が染み込んでくる。
その言葉を理解すると、全身にぽかぽかと温かくなって、その場にヘタレ込んだ。
頭の中に、私に甘えてくるかわいい姿が浮かんできた。
その衝撃にその日一日フワフワしたまま眠りについた。
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