10 宿る命と宿る野望
「うふふっ。弟かな~。妹かな~」
「どちらかしらね。わかったら名前も考えなきゃね」
「お姉ちゃんだよー。早く大きくなってねー」
「ノチア、急かしてたら駄目だよ。母さんの中でゆっくり大きくならなきゃいけないんだ」
「はーい」
私はあれから毎日、母様のお腹に話しかけていた。
日に日に大きくなるお腹に、幸せが止まらない。
今日はお医者様が来て、魔法で男の子か女の子かを調べる日だ。
「それでは始めましょう」
お医者様が手をお腹に当てて魔法を唱えると、優しい光がお腹を包んだ。
しばらく光った後、徐々に光が小さくなり消えた。
「おめでとうございます。どうやら、双子のようですね。男の子と女の子です」
「まぁ、二人分のお洋服を作らなきゃ、忙しくなるわ」
「喜びが二倍になったね。でも、双子は体に負担があるから、マリアはあまり無理しちゃ駄目だよ」
「あなた⋯⋯ありがとう。でもね、私はこれでも丈夫な方よ。少し運動するくらいがお腹の子には良いもの」
「弟に妹⋯⋯かぁー」
私は頬に手を当てて、まだ見ぬ弟と妹を夢想する。
小さな二人に私がラーメンを食べさせてあげる。
なんて夢のような時間だろう。
「こうしてはいられないわ。早くラーメンを完成させなきゃ! カレーうどんも美味しいけど赤ちゃんには刺激が強すぎるわ」
——それから私は毎日、町中の店に通い詰めた。
思えば加護を女神様から貰って一年が立っていた。
春の風を感じながら、改めてラーメンに向き合い直すのも悪くないと決意を固める。
塩が手に入るようになったので、スープは塩に決めている。
多くの商人がやってくるようになった事で、新たな食材も入ってきた。
連日の通い詰めで、色々な店の野菜を説明を聞きながら実際に食べて、そしてついにニンニクとネギを発見する事が出来たのだ。
「ニンニクがパージカ、ネギがモールゴンね。紛らわしいからニンニクとネギでいいわね」
レシピを思い出すうえで混乱しそうなのでネギ、ニンニク呼びすることにした。
そして、商人とも仲良くなった事でさらに念願の情報が手に入れることが出来た。
二つ隣のドール領のご令嬢が、変わった麺を食べるというのだ。
うどんが流行ったことで、麺という存在が浸透した影響が、ここで良い仕事をしたのだ。
もしその令嬢から麺の話を聞く事が出来れば、ラーメンの麺が再現出来るようになるかもしれない。
私はすぐに父様に面会のお願いをした。
しかし、いきなりの訪問など叶うわけもなく、父様の取り計らいで手紙でのやり取りから始めることになった。
目を反らしていたが、私も子爵家の令嬢として社交はしなければならない。
やる気になった私に、隣のダリア領での交流と教育の場まで設けられてしまった。
「ううう。明らかな藪蛇だったけど、ラーメンのためには仕方がないわね。鶏ガラの事でも考えて気分を変えよう」
鶏ガラで出汁が取れれば、塩ラーメンのスープは出来たも同然。
生の肉は今までは手に入り辛かったが、シンバさんや増えた冒険者の皆さんに山の生態系の調査をお願いしたので、これからは定期的に山で狩りをしていこうと思っている。
「さらに丼の作成ね!うふふふ、気分が上がってきたわ!」
これから行くダリア領は陶芸が盛んだという。
これを期に、弟と妹が生まれる前に家族全員分のラーメンの丼を作ろう。
「この世界のお椀は、どうしても小さいかったり、浅かったりするから、ラーメン用の丼は絶対必要だものね」
家族全員でマイ丼。
想像しただけでニヤけてしまう。
「急がなきゃ。二人が生まれてくる前に丼だけでも完成させなきゃ」
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