11 ダイア領の令嬢
「たのもー!」
「どうれー!」
私が習った通りのに挨拶を返すと、深窓の令嬢然とした少女が満足そうに入ってきた。
フリルのふんだんに盛られたドレスに、肩まである髪はクルクルと巻かれている。
いわゆる縦ロールってやつだ。
私はいまダイア領に交流の為に来ている。
西のエリス大森林は縦にミラン領、ラウメ領、ダイア領、ドール領へとまたがって続いている。
ラウメの東には霊峰ファナ、ミラ湖、ムーファス湿原が同じ様に縦に並んでいるので、東側にある王都にはミラン領か、ダイア領を通ってしか迎えない。
私の加護の洗礼の時は、ミラン領経由で回って王都まで行ったので、ダイア領に来るのは今回が初めてだ。
シュリン・グラ・ダイア伯爵には三人の娘がいる。
その中でもアイラ様は私と歳が近く、私が他の領地の令嬢と友好を深めたがっている噂を聞いてダリア領に招待してくれたのだ。
すでに五日が経ち、私も少し慣れてきた。
アイラは騎士に憧れているらしくそのお陰もあって、こんな挨拶をお互いふざけて出来るくらいには打ち解けることが出来た。
ちなみに、メンマはお留守番だ。
短い間だが、私のことを忘れないか少し心配だ。
弟と妹もまだ生まれては来ないだろうけど、離れるのは辛い。
でも、これもラーメンと丼の為なのだ。
「ノチア、さあ朝の修練に行きますわよ」
「うん、わかったわ」
「なりません! まずは朝の礼拝が先です」
駆け出そうとした私とアイラ嬢をメイド長のロッテアさんが呼び止めた。
〝ギロリ〟
「ひっ」
ロッテアさんに睨まれて、私と一緒に来ているメイドのミアさんが、小さな悲鳴を上げた。
ケイシーさんには、見重な母様から離れてほしくなかったので、私に付いてダイア領に来たのは、臨時に雇ったメイド見習いのメイさんだ。
メイド教育もそこそこに伯爵家まで来ることになってしまったメイさんには、本当に申し訳無いと思っている。
「では、礼拝堂に言ってまいります」
「いってらっしゃいませ。メイさん、あなたはこちらです」
「ひぃ」
アイラはロッテアさんに綺麗な所作で礼をして歩き出すと、メイがロッテアに連れて行かれる。
私も習ってロッテアさんに礼をして、メイにはこころの中で謝って歩き出す。
そうすると、アイラが楽しそうに話しかけてくる。
「礼拝が終わっりましたら、私の考えた必殺技を見てほしいですの。絶対に驚きますわよ」
「それは楽しみね」
アイラは見た目とは裏腹に凄く剣が好きで、 私が自領で剣の指導を受けていた話しをすると、すぐに打ち解けることができた。
よくこうやって、考え出した必殺技を私に教えては楽しそうに笑っている。
ダイア領に着いてからは、今までやってこなかったダンスにテーブルマナー、刺繍に語学勉強も含めた詩の朗読と目まぐるしく日々が流れている。
そんな中でアイラとの剣のひとときは、私にとって癒しだ。
——礼拝堂で祈りを済ませて、軽めの朝食を摂った後、私達は修練場に来た。
護身術の意味合いも込めてなのか、私達はドレスで木刀を振るっている。
他の騎士も何人かいて、なかなかに活気がある。
「そういえば、アフターヌーンティーの後に、工房の見学の許可が降りましたのよ。お父様が護衛も用意してくださいましたわ」
「本当! やったー、長かったー」
ダリア領は陶芸の盛んな領地だ。
丼の制作依頼とあわよくば職人の貸し出しをお願いしたい思っていた。
剣を振りながらアイラの言葉に喜びと安堵がもれる。
ダイア領に来た当初、あまりに礼儀作法が出来ない私は、教わるだけで一日の大半が終わってしまっていた。
覚えることが多すぎて、工房に行く余裕なんてまったく無かったのだ。
「やった。やった。せいやー」
カッカッカッ
「まあ、凄いですわ。私の考えた必殺技をもうマスターしたのですわね」
私が嬉しさのあまり、その場で回転して袈裟斬りの三連撃を木人形に叩き込んむ。
アイラが見せてくれた必殺技だ。
周りからもざわめきが上がる。
使ってみると、この技は麺を均等に切るのに使えるかもしれない。
しっかり練習しておこう。
アイラは必殺技を考えるのが好きらしくて、色々な技を見せてくれる。
ただ、実際に使えるわけではないらしく、この技も二回転した所でバランスを崩して転んでしまっていた。
「私、ノチアに出会えたことを女神様に感謝いたしますわ」
「おおげさだよー」
私の剣技を見てアイラが頬に手を当ててうっとりする。
すると、そこにアイラのお姉さんのサリアさんとメリナさんが来た。
長女のサリアさんはウェーブのかかった金髪で髪を結い上げている。
次女のメリナさんは私に近い銀の髪を三つ編みにして、前髪をおデコの上で切りそろえている。
二人とも凄い美人で他領の子息に人気があるのだそうだ。
「アイラ、ノチアちゃん、ごきげんよう。さあ、ティータイムにしましょう」
「ごきげんよう。サリア様、マリナ様」
「いいのよ。さあ汗を流していらっしゃいな」
「私が案内してあげるわね。今日はどのドレスにしようかしら」
私の手をメリナさんが引いていく。
何故か伯爵家の中では私は人気者で、修練が終わった後にはいつも二人に面倒を見てもらっている。
ほとんど着せ替え人形ではあるのだけれど。
ドレスが決まると、紅茶を飲みながらのテーブルマナーと詩の朗読をして過ごす。
私に詩を読む才能はないがラーメンの魅力を詩にして読んでいるだけで「個性的で素敵ね」と言ってくれるので、この時間は今では好きだ。
「午後には工房に行くんでしょう? 私、心配だわ」
「そうね。いま工房は少し荒れているらしいから」
「ええ? そうなんですか?」
楽しみにしていた工房の不穏な噂が出た。
ちゃんと丼は作ってもらえるだろうか。
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