84 会食の後で
「まず謝罪をさせてください。私どもは、あなた方を試すような振る舞いを取っていました。しかし、その行為に腹を立てるでもなく、完璧な敬意で返されては、自らの浅はかな行いを恥じる事しかできません」
私たちの振る舞いのどこにそれを感じたのかはわからないが、セリティは酷く感心したように頭を下げて謝罪した。
「ぐふふ。元より試させるような信頼関係しか築く事の出来なかったは、我々の落ち度です。これからは過去ではなく未来を見ていきましょう」
「ありがたく……」
グレート・キャビンから外に出ると、船員が次々に頭を下げた。
来る前と今では態度が全然違う。
彼らにとってそうとうな何かがあったようだ。
「プリン? そっちじゃないわよ?」
帰る為に、迎えの船に乗り込もうとしたところで、プリンが無言で船首に向って歩き出した。
私の声に反応する事も無く進んだプリンは、船首に着いた後も無言で立っていた。
すると、船全体がわずかに揺れて、ザザァーと言う音が前方の海から聞こえる。
「シードラゴン! プリン危ないわ」
「ディーン! 大丈夫です。彼は大人しく、私の命令には従いますから」
「わっ、ノチア大丈夫だよ。少しそこで待ってて」
水面から顔を上げたシードラゴンがゆっくりとその首を回しプリンの方に顔を近づける。
人など一飲みに出来てしまうほどの大きさだ。
安全だと言われていても警戒してしまう。
「…………」
「…………」
誰も声を発しない緊張感の中、しばらくプリンと見つめ合ったシードラゴンがゆっくりと戻っていく。
「驚きました。ディーンが私以外で興味を持つ事など今までで一度もありませんでしたから」
セリティとしても効きたいことはあったと思うが、何も言わずに別れた。
館に帰った後、寝る前に私は今日のシードラゴンとの出来事をプリンに聞いてみた。
「プリン、あのシードラゴンと何か話したの?」
「わっ、シードラゴンは人間に使われていることをどう思っているのか聞いてみた」
「えっ!」
その話を聞いた私は背中に冷たいものが流れた。
プリンから囃し立てる事は無いだろうが、その疑問によって、あの場でシードラゴンが暴れることがあったのではないかと、一瞬考えてしまった。
「シードラゴンはなんて言ってたの?」
「少年の役に立てるのはうれしいって」
少年とはセリティの事だろうか?
セリティも自分の命令には従うと言っていた。
シードラゴンの発言した内容としては、従わされていると言うより協力しているように感じる。
それは、私とゴウオウのような関係なのだろうか?
「プリンはどうしてそんなことをシードラゴンに聞いたの?」
「プリン達は昔、人間に使われてた。プリン達は平気だったけど、ノチアはそんなプリンを悲しんだから、理由が知りたかった」
「それは……悲しいのは私の我儘だものね」
「わっ? 我儘?」
「そう。クラウネにもっと自分を大切にして欲しいって我儘」
「プリンに望んでること?」
「そうだけど。むしろ私が望んでることね」
「んんー? わからない」
人間の都合で強制的に重労働をされていたクライネと、船を引かされているシードラゴンに違いがあるかなんて私にはわからない。
私の考える自由や幸せを押し付けたところで、それは私のエゴでしかないのだ。
「わからなくても今はいいのよ。プリンが自分で考えてくれているのが、私には十分にうれしいわ」
プリンの頭をそっと撫でると、プリンはそのまま寝てしまった。
何が正しいのかなんて私もわからない。
出来ることなんて、迷って悩んでそれでも前に進むしか無いのだから。




