78 職人たちとの議論
「絶対に寸胴は左側だわ! 湯切りを左手でしながら丼を用意出来るでしょ! 屋台のラーメンは提供の早さも命なのよ!」
「具材や麺を入れて置く棚の寸法はきっちり決めさせていただきます。移動の衝撃でズレたりしないようにきっちりです。効率よい配置こそが家具を輝かせるんです」
「あの……これだと強度がでないから……あのあの……」
「なははは。どうせならデカイ魔道具入れようぜ。見て見て! 俺の設計した超高性能魔道コンロだよ」
「俺の寸胴がそれじゃあ入らねぇーだろが! ラーメン茹でんなら寸胴は大きい方がいいだろが!」
私達は白熱した。
お互いが最高の仕事をするために!
「って、待ってくれノチア。なぜ君は自己紹介もしないで議論を始めているんだ?」
「ごめんなさい。屋台が出来ると思ったらつい」
「ぐふふ。では自らの名をここで明かしてもらいましょう」
四人の職人は席に着き、一人一人順番に名乗っていく。
「じゃあ、まずは俺から。俺の名前はリンク。シミー工房からアイラ様にスカウトされてきました。よろしくお願いします」
「私はアルダー木工ギルドより派遣されましたヘンプと申します。よろしくお願いします」
「おす。オラはアルス魔道工房からきたゾルマだよ。ルキラ様にスカウトされたんだ」
「インタです……トウロ建築ギルドに行けって言われて……来ました」
「わっ、プリンはフラウ領から来た。ノチアにスカウトされた」
「違うでしょプリン」
「わっ、違うのか!」
自己紹介より先に議論してしまったが、みんな若いだけではなく、技術も熱意もある。
これならいい屋台が出来そうだ。
「……あのう。本当に僕なんかで良いんでしょうか?」
「インタ。何を言うんだ。君のアドバイスが無かったらこの屋台の設計図は完成しなかったよ」
「そんな……アイラ様とルキラ様の知識があってこそです。俺なんてとてもとても」
文字通りの屋台骨を担当するインタだが、少し度胸と言うか自信がないようだ。
さっきの議論でも控えめな意見しか出していなかった気がする。
「大丈夫かな? 私も遠慮なくいろいろ言っちゃったけど」
「彼も最終的には親方を目指すんだ。それぐらい解決するさ」
それからも協議を重ねていき、屋台の形が少しずつ形作られていく。
しかし、予想が嫌な当たり方をしたのか、ある日を境にインタが来なくなってしまった。
「困ったね。インタの力は絶対に必要だよ」
「私もそう思うわ。インタに不満があるならしっかりきかなくっちゃ」
「ぐふふ。インタには内なる力の解放の仕方を教えないとね」
「わっ、プリンも力を開放する! うーはー!」
そして、私たちはインタの働くトウロ建築ギルドへと向かった。
インタの場所を聞くとわからないと言われてしまった。
職場でも発言があまり出来ていないようで、目立たない存在のようだ。
「インタ? アイラ様の所に行ってるんじゃないのですか?」
親方に尋ねたところインタはウチへの出向扱いになっていた。
親方にも協力してもらいながらインタを探すと、端の方でカンナを掛けていた。
「てめぇ、インタ! 何こんなとこで仕事してんだ! さっさとアイラ様の所に行け!」
「親方! えっと……これはその……」
「おーい! インタ終わったか~って、親方!」
「おい! フィアてめぇ何インタに仕事押し付けてんだ~! こらぁ~!」
「すみません親方ぁ~」
どうやら、インタは他の人に仕事を押し付けられたようだ。
私はインタのカンナを掛けた木材を見る。
カンナ屑は薄く一定だ。
カンナをかけた面は滑らかで水を弾くと思えるほどに光沢が出ている。
「申し訳ありません。あの……今からでも急いで……」
「インタ!」
「はい!」
「見事な腕だわ。無理やり頼まれたのにここまで丁寧に仕事ができるのね」
「それは……お客さんにも仕事にも失礼だから……」
「その姿勢は尊敬するわ。だから、もう少しあなたの意見を聞かせて欲しいの」
「俺の意見……」
「そうよ。私はあなたと屋台を完成させたいと思ったの!」
「……ありがとう。俺……頑張ります」
「うん」
よし、やるぞ!
そう思って振り返るとアイラとルキラが笑っていた。
「本当にノチアは人の欲しい言葉をストレートに言うんだから」
「ぐふふ、それがノチアの美徳よ」
「しかし、許せないな。仕事を押し付けるなんて」
「わっ、押しつけるのはダメなの?」
「そうだよ。プリンだって人の分まで押し付けられたら嫌だろ?」
「わっ、わからない。クラウネはいつも人間に仕事を押し付けられてた。クラウネ嫌じゃない。押し付けられるのは嫌?」
「そうね。やるべきことは本人が努力してやるべきだわ。私はプリンが無理やり働かされて疲れ果ててしまう姿なんて見たくないもの」
プリンの発言に少し違和感を感じた。
プリンを預けたのはフラウだ。
一度、話しを聞いた方が良いと、なぜだかその時に思った。




