76 嘘と優しさ
次の日、結局モヤモヤした気持ちが晴れないまま鍛錬をして汗を流した後に朝食を食べる。
(いざ聞くとなると何て切り出して良いのかわからないわね)
変に意識してしまっているせいで、一緒に朝食を取っているルーナとソラーレに普通に話しかけることも出来なくなってしまった。
一日たった事で逆に聞き出しにくくなってしまったのだ。
今まで弟妹は我儘も言わないし、姉として二人とケンカしたことも無ければ、怒った事も無い。
もし無神経な聞き方をして二人に嫌われたしまったらと思うと、急に怖くなってしまったのだ。
「私が気が付いているくらいだもの、母様も態度がおかしかった事に気がついているわよね」
結局、母様に相談する事にして、直接聞く事を先延ばしにしてしまった。
プリンと一緒に母様の部屋に行って、思いの内を話すと母様は私を抱き寄せて頭を撫でてくれた。
「母様、私は自分が情けないわ」
「そんなことないわノチア。あなたが二人の力になって挙げたいと思っているんですもの、その心こそが重要なのよ」
「母様はソラーレの様子がおかしい理由は知っているの?」
「原因は聞いてはいないわ。でも、何をしようとしているのかはわかっているわ。だから私は見守っているの。でもね? ノチアはノチアの思うままに行動しなさい。例えそれが間違いだったとしても、相手の為に真剣に考えて行動した事こそが成長させてくれるのよ」
プリンの前で母様に甘えるのは少し恥ずかしかったが、私が母様に撫でられている間、プリンは珍しく黙って笑顔で私達を見ていた。
「そうね。ちゃんと話しを聞かなきゃ……って、あれはルーナ? 私に部屋に用があるのかしら?」
母様の部屋を出てソラーレの所に向おうとすると、私の部屋に入っていくルーナの姿を見かけた。
私も後を追って部屋に入る。
「姉さま! どうしてここに」
「ルーナ! それって……」
「わっ、ノチアの器が割れているわ!」
「違うの姉さま!」
ルーナの手には、割れた私のラーメン丼が握られていた。
私と目が合ったルーナが青い顔をする。
「これは……これは小鳥が入ってきて……」
「わっ、ルーナ嘘ついてる! 私はノチアに嘘をつくのは悪い事だって教わった! ルーナは悪い子!」
「……ごめんなさい」
「わっ、謝るのは偉いわ! 謝ったら許してもらって笑顔で仲直りよ」
ルーナはすぐに謝った。
しかし、ルーナがいま割ったわけではないだろう。
ルーナが部屋に入ってから私が入るまでそこまで時間は経っていない。
割ったとしたら、音が聞こえてきたはずだ。
「これを割ったのはルーナなの?」
「……あの……」
ルーナが視線を彷徨わせる。
プリンを見た事から嘘を付来た着なかったのだろう。
今さら自分で割ったのなら黙る意味がない。
「割ったのはソラーレなのね」
「……うん。でも、わざとじゃないの。お姉さまを驚かせたくって……」
扉の開かれた私の棚にはルーナとソラーレの作ったであろう小さな器が置かれていた。
こっそり作っておいて私を驚かせたかったのだろう。
そこで昨日のソラーレの顔を思い出す。
部屋に来たのは打ち明けるためだったのだろう。
「こっそりと直しに行こうと思ったの?」
「……うん」
ルーナはソラーレを守ろうとしたのだろう。
それは間違った優しさだと思う。
でも、ルーナなりに一生懸命考えたのだろう。
不意に母様の言葉がよぎる。
『例えそれが間違いだったとしても、相手の為に真剣に考えて行動した事こそが成長させてくれるのよ』
「――っ! 姉さまごめんなさい」
「わっ、ノチア! 悲しい?」
気が付けば私は泣いていた。
ソラーレはどんな気持ちで昨日を過ごしただろう。
ルーナはソラーレが私に怒られると思ってこっそり直そうとしたのかもしれない。
「違うわ。私は怒っていないし、丼が割れたことも悲しくないわ。ただ、ソラーレとちゃんと話しをしたい」
「……姉さま~ごめんなさい~」
「わっ、ソラーレも泣いているわ。大変よノチア。わっ、大変!」
ソラーレも私の部屋の前まで来ていたようで、泣きながら部屋に入ってきた。
私はソラーレを抱きしめる。
そして、ルーナも呼んで抱きしめた。
「二人とも大好きよ。だから、何がいけなかったか。どうすればよかったか。姉さまと一緒に考えましょう」
「わっ、私も一緒に考える! 学びだわノチア」
その後、私たちは気が済むまで泣いて話し合った。
訂正のお詫び
エピソード73でフェロンの描写を少し変えました。
おもな変更点は『フェロンが綺麗な水の中に生えている事』です




